畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2010年 > チーズおよびホエイ類の日本市場拡大の可能性(アルゼンチン)

チーズおよびホエイ類の日本市場拡大の可能性(アルゼンチン)

印刷ページ

チーズおよびホエイ類の対日輸出実績があるメーカーに聞き取り

 アルゼンチンの乳業メーカーなどで組織される団体(CIL)関係者によると、同国は全粉乳およびチーズなどの主要輸出国の1つであり、今後はホエイ類の輸出を拡大したいとしている(注)。このような中、チーズおよびホエイ類の対日輸出実績がある乳業メーカーの輸出状況などについて以下の通り報告する。
 
(注)詳細については、 「主要乳製品の輸出をめぐる動向(アルゼンチン)」 (平成22年4月13日付け海外駐在員情報)参照。
 

日本市場は価格取引に敏感であるが、非常に魅力的

1 チーズ(サプート社)

(1)企業概要
 カナダの大手乳業メーカーである同社は、2000年に同国の乳価制度が輸出補助金と認定され世界貿易機関(WTO)協定違反となったことを契機に、第3国からの乳製品の輸出を検討した。その後、生乳の品質や優秀な労働者の確保などの観点から、2003年にアルゼンチンの食品メーカーの乳業部門を買収した。
 従業員は、本社、工場(主要酪農地域であるコルドバ州とサンタフェ州に2工場)、流通センターも含め1,050人である。生乳は主に両州(工場周辺300〜400キロメートル)から集乳し、年間6億5700万〜7億リットルの生乳を処理している。主要品目であるチーズのほか、バター、ホエイ類(WPC35:35%の濃縮たんぱく質)、カゼインを製造している。生産量に占める輸出向けの割合は約60%である。また、ISOやHACCPを取得しており、トレーサビリティについても生産農家まで遡ることができ、残留農薬および金属検査体制も確立している。

(2)輸出状況
 現在、米国、ブラジル、台湾、中国、日本など40カ国を相手先とし、チーズは年間約2万5000トン、バターは同約1万トンなどを輸出している。チーズについては、国内主要輸出メーカーであり、青カビ系のチーズを除くチーズ(ゴーダチーズやモッツァレラチーズなど)を輸出している。同社によると、アルゼンチン産チーズの品質は、EUやオセアニア産などと同程度であるにもかかわらず、低品質というイメージを持たれていることが非常に残念だとのことである。
 また、アルゼンチンからの対日チーズ輸出(2009年の輸出量は約4900トン)の大部分が同社からであり、日系商社を通じてピザなどの原料用にモッツァレラチーズやゴーダチーズなどを輸出している。同社にとって、一定の需要が見込まれる日本市場は大変魅力的であり、日本の品質および衛生基準を満たすことができれば、世界的に通用すると考えているが、取引価格に対する反応は非常に敏感であると認識している。
 また、同社のチーズを含む乳製品の輸出戦略は、現在の輸出先(40カ国)を中心に数量を伸ばし、各相手先に一定の数量を確保していきたいとのことである。特定の輸出先に依存した場合、それらからの需要がなくなったときの影響の大きさを考慮しているためである。
 今年のチーズの輸出については、国際価格が上昇傾向にあることから、増加すると見込んでいる。将来的にはアルゼンチンの生乳生産が増加見込みであることを踏まえ、輸出を拡大していきたいとしている。

ホエイ類の輸出も可能

2 ホエイ類(アーラフーズ社)

(1)企業概要
 デンマークおよびスウェーデンの8,000人以上の酪農家の出資により設立されたヨーロッパ最大の乳業メーカーである同社は、生乳の品質や輸送コストなどを検討した結果、2002年からアルゼンチンの大手乳業メーカーであるサンコール社と提携し、主要酪農地域であるコルドバ州に主にホエイ類を生産する工場を操業した。従業員は本社、工場を合わせて120人である。原料は、自社工場近隣のサンコール社がチーズ生産の過程で生じるホエイを利用している。1日当たりのホエイの受入量は2,000トンであり、ホエイ類を1月当たり1,000トン、ラクトースなど同2,000トン生産している。また、WPC80(80%の濃縮たんぱく質)を生産できるのは、アルゼンチンでは同社だけである。生産量に占める輸出向けの割合は約90%である。また、サプート社同様、ISOやHACCPの取得、トレーサビリティ、残留農薬および金属検査体制も確立している。

(2)輸出状況
 同社はホエイ類の輸出の国内最大手であり、現在、中国、ブラジル、メキシコ、チリ、サウジアラビアなどにパンやアイスクリームなど食品の原材料用などとして輸出している(アルゼンチンのホエイ類の輸出は2009年で約3万8000トン)。同社によると、アルゼンチン産ホエイ類の品質は、本国のデンマークなどと同等であり、生産状況や需要次第では輸出競争力も増すとのことである。
 日本向けについては、2007・2008年で計31.5トンのWPC80を日本の食品たんぱく質素材製造メーカーに輸出するなど、日本市場は品質に対する要望が非常に厳しいものの、今後拡大していきたいとしている。
 また、ホエイ類については、高たんぱくで栄養価が高いことから国際需要が増え、今後は輸出が増加すると見込んでいる。アルゼンチンでは、ホエイはそのまま廃棄処分されているものも多い上、チーズ生産も増加していることから、さらなる輸出増加に対応できるとしており、WPC80など高付加価値製品の輸出を中心に展開する予定とのことである。
アーラフーズ社工場外観
アーラフーズ社工場外観
ホエイを運ぶタンクローリーと貯蔵タンク
ホエイを運ぶタンクローリーと貯蔵タンク
品質等の検査風景
品質等の検査風景
 以上のように、アルゼンチンの一部の乳製品については、欧米の大手乳業メーカーの衛生水準に準拠していることから、品質などは国際的水準に達している。今後、同国の生乳生産の増加に応じて、同国の乳製品の対日向け輸出がどの程度増加するか注目していきたい。
【石井 清栄 平成22年5月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
Tel:03-3583-9805