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中国と農畜産物貿易に係る関係を強化(アルゼンチン)

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1 牛肉、乳製品などの輸出に係る貿易協定で合意

 11月30日、アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)は、アルゼンチンと中国の両国は牛肉、乳製品などの輸出に係る貿易協定に合意したことを発表した。ドミンゲス農牧漁業大臣も「フェルナンデス大統領から中国との関係を優先させるよう指示を受け、今回、新たな可能性をもたらした。現在の世界の食糧需要はブラジル、ロシア、インド、中国で動いているが、そこにアルゼンチンが供給国として加わることができた。」と語った。また、中国の支樹平(ジ・シュピン)国家質量監督検験検疫総局長は、「一度に5品目(牛肉、乳製品、大麦、リンゴ、竹)の協定に合意したことは歴史上初めてのこと。アルゼンチン産の牛肉と大麦を中国国民が消費できる意義は大きい。また乳製品の相互貿易協定に関しては両国の利益になるだろう。」とコメントした。今回の発表では具体的な内容は明らかになっていないが、単なる貿易協定の合意にとどまらず、農畜産物需給に係る両国の緊密な関係がうかがえる。

2 亜中農業大臣級の農業共同委員会も発足

 今回の協定の合意に先立ち、韓長賦(ハン・ジャンフ)中国農業部長は11月11日〜16日まで、中国農業部長としては初めてアルゼンチンを訪問し農業事情を視察した。その際、今後の二国間の貿易関係強化に関しドミンゲス農牧漁業大臣と会談を行い、同月12日に技術協力、貿易および投資に関する「亜中農業共同委員会」を発足させ、今後も農畜産物貿易の戦略的パートナーとして関係強化を図ることとした。同日、MINAGRI が公表した亜中農業共同委員会発足に係るアジェンダを中心に、アルゼンチンの対中国農畜産物輸出の現状と可能性を整理すると次の通りである。

○対中国農畜産物輸出の現状(2009年)

‐輸出額は約40億ドル

‐輸出相手国として第1位

‐アルゼンチンは輸入相手国として第3位

○現在の主な対中国農畜産物輸出品目

・大豆粒
 ‐2009年輸出量は約324万トン(品目別総輸出量に占める割合73.6%)
 ‐2010年1月〜10月輸出量は1186万トン(同83.3%)
 ‐2010年4月から中国は今後の国内需要に備え買い付けを前倒し
・大豆油
 ‐2009年輸出量は約185万トン(同67.0%)
 ‐2010年1月〜10月輸出量は10.8万トン(同10.6%)
 ‐2010年4月〜6月は品質上の問題により中国側が禁輸、7月再開以降も低調
・乳製品、牛革
 ‐2009年輸出量はチーズ約548トン(同1.0%)、ホエイタンパク類約6,218トン(同7.0%)、牛革約30,637トン(同56.3%)
・鶏副産物
 ‐2009年中国および香港への輸出量は約42,896トン(同81.5%)
表1

○今後の輸出可能品目

・牛肉
 ‐2006年から口蹄疫により牛肉は中国側が禁輸しているが、2011年には輸出できる可能性あり
 ‐一方、現在でも香港へは輸出
  (2009年は牛肉約11,642トン(同3.2%)、内臓約45,603トン(同30.0%))
 ‐中国の高級レストランなどプレミアム市場への参入、内臓などアルゼンチン国内市場余剰品の新規市場開拓、ワインとのセット販売もメリット
 ‐アルゼンチン国内での肉用牛頭数の減少および牛肉生産体制に懸念あり
・乳製品
 ‐中国は2008年のメラミン混入乳製品事件を機に粉乳の品質確保および国内の乳製品生産システムの拡大を促進
 ‐中国国内の乳用牛の能力開発に向けた育種改良技術、受精卵および繁殖用精子の輸入促進
 ‐アルゼンチンから中国へ乳製品および生乳の生産技術に関する協力の可能性あり
・大麦
 ‐中国はビール消費大国であるため国内消費のためのビール用大麦の確保が狙い
  家畜飼料としても利用可能
 ‐南半球のオーストラリアの代替供給国としての位置を確保
・トウモロコシ
 ‐2009年に中国は輸入国に転じた
 ‐現在はアルゼンチンからの輸出実績はないが2011年中に衛生条件に関する交渉を予定
 ‐アルゼンチン国内のエタノール製造プラントに中国投資を誘致する潜在力あり

3 2010年上期は大豆油の禁輸など一時緊張状態

 緊密ムードの両国であるが、2010年上期の両国関係をみると、1月に予定されていたフェルナンデス大統領訪中による両国首脳会談は、アルゼンチン側の一方的なキャンセルにより中止、4月にはアルゼンチン産大豆の品質上の問題を理由にした中国側の突然の輸入禁止からアルゼンチンがその輸出先探しに奔走するなど、必ずしも円満な関係とは言えなかった。特に4月の措置は、アルゼンチンによる中国製品約400種類に対するアンチダンピングの報復措置が真の理由とも言われており、7月にフェルナンデス大統領の緊急訪中時の政治的対話により大豆油の輸入が再開された。
  ドミンゲス農牧漁業大臣は11月30日の協定合意に際し、「今回の大豆油禁輸は両国間の貿易に影響を与えるものではない。その証拠に、大豆粒の対中輸出は2009年324万トンから2010年1月〜10月1186万トンと大幅に増加している。」と、両国の関係修復を強調する。
 
表1

4 短期的には乳製品の貿易促進が期待されるものの見通しは不透明

 今回の貿易協定の合意に関し、MINAGRIのロッティ畜産副長官は「中国は高級牛肉から内臓まであらゆる牛肉関連製品の市場があるため、アルゼンチンの輸出拡大にとって極めて重要である。」と述べた。アルゼンチン牛肉振興機関(IPCVA)のチェッサ会長は、2006年から口蹄疫を理由に中断していた中国への牛肉の輸出が、「極めて短期的」に再開されると明るい展望を示した。
 しかし、アルゼンチン牛肉・牛肉副産物および取引会議所(CICCRA)のスチィアリティ会長によれば、現在のアルゼンチン国内の牛肉生産の低調ぶりからすると新たな輸出用牛肉を確保することは困難である。このため、当面は香港経由で輸出されていた牛肉や内臓が中国に仕向けられるだけで短期的な経済的メリットは少ないとみる。当事務所のこれまでの調査からも2010年の牛肉不足は明らかであり、スチィアリティ会長の判断の方が妥当だろうと考える。
 
  一方、アルゼンチン乳業協会(CIL)のセコ専務によれば、中国政府は今後5年間で乳製品の国内消費は14%増加すると見込んでおり、この増加分の大半を輸入で補いたいとのことだ。このため、アルゼンチンからは全粉乳とミルクキャラメル(DULCE DE LECHE:アルゼンチンの特産乳製品。)が短期的には貿易拡大品目として有望とみる。さらに、中期的にはチーズの製造技術、育種改良に向けた受精卵や精子の供与などの協力の可能性が高いとする。今後の成功のカギは、政府からの具体的な財政支援や中国が課す乳製品にかかる輸入関税(現在8%)の撤廃など自由貿易にかかる事務レベル協議は不可避とみるが、現時点でその予定はないとのことだ。

5 今後の亜中関係に注目

 中国は国内消費向け農畜産物の確保が重要課題であり、政府による輸入農畜産物の調達は今後ますます加速するだろう。一方、アルゼンチンは大豆はじめ輸出農畜産物に係る輸出税は国家財政を支える税収源であり、中国のような大規模かつ安定した輸出市場の確保は魅力的だ。さらに、アルゼンチンは2011年の大統領選挙に向け、政権の安定が望まれており、過去繰り返してきた農牧業界と農畜産物輸出に関するこれ以上の衝突は避けたいところだろう。
 最近のブエノスアイレス大学の報告によれば、首都ブエノスアイレスをはじめ、90年代に約100店舗ほどだった中国系スーパーが2010年には約4000店舗以上となり、今や中国社会はあらゆる食料品の物流から販売に進出し、アルゼンチン庶民の台所として新たなビジネススタイルを展開しており現政府との関係も深いと聞く。
 関係次第では世界の農畜産物需給に大きな影響を与えかねないアルゼンチンと中国の動きに今後も注目したい。
 
【星野 和久 平成22年12月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:岡)
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