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牛肉生産の現状と今後の見通し(アルゼンチン)

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2011年1〜4月の牛と畜頭数は、前年同期比17.7%減の約344万1800頭

 アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)によると、2011年1〜4月の同国の牛と畜頭数は、飼養頭数の減少を反映し、前年同期比17.7%減の約344万1800頭となった。これにより、同期間の生産量、輸出量、1人当たりの消費量、生体牛価格はそれぞれ以下の通りとなった。
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 このような中で、今回、アルゼンチン牛肉・牛肉副産物および取引会議所(CICCRA)のスチュアリティ会長および現地牛肉業界コンサルタント、イリアルテ氏に、最近の同国の牛肉生産の現状および今後の見通しについて、聞き取り調査を行ったので、以下の通り報告する。

約6000万頭の飼養頭数回復には、少なくとも3年以上かかる見込み

 (1)政府の牛肉輸出政策、(2)大豆の栽培面積拡大による放牧地の減少、(3)2008年から2009年前半にかけての干ばつの影響−などにより、2006年以降経産牛のとう汰が行われた結果、飼養頭数は3月末で4900万頭を下回った。
 スチュアリティ会長によれば、国内の飼養頭数が2007年の水準である約6000万頭まで回復するには、少なくとも3年はかかるとみられる。また、イリアルテ氏は、現在繁殖用めす牛が1頭当たり1000ドル(約8万2000円、1ドル≒82円)となっている中、肉牛農家が銀行から融資を受けることができないことなども考慮すると、同国の牛飼養頭数の回復まで7年かかると見ている。
 2010年第4四半期より、2009年末から牛肉価格が上昇して収益が回復し、経産牛の保留傾向が強まっているため、2011年はますます牛肉不足が悪化し、同年のと畜頭数は、前年比11.7%減の約1050万頭になる見込みである。このため、輸出量も前年比17.0%減の約25万トン以下になる見込みである。

依然として続く一部牛肉パッカーの経営危機

 イリアルテ氏によれば、一部牛肉パッカーの経営危機は依然として続いているという。アルゼンチン国内に6工場を持つJBS社は生体牛不足から、現在3工場の操業を停止しており、1月当たり2000万ペソ(約4億円)の赤字が出ているとされている。同社の米国グループは早くアルゼンチンから撤退すべきとしているが、ブラジル本社はアルゼンチンにおける牛肉生産の潜在能力の高さを考慮し、撤退をちゅうちょしているとのことである。このほか、カーギル社が買収した牛肉パッカー(2工場)を売却し、撤退する見込みである一方で、マルフリグ社は、何とか操業を続けるとされる。
 なお、スチュアリティ会長によれば、この1年半で約6500人の小規模肉牛農家が廃業したとのことである。

(1)ヒルトン枠輸出、(2)中国向け輸出、(3)大統領選挙−の行方

 今後の牛肉生産に影響を与える要因としては、(1)枠が増加したヒルトン枠輸出、(2)2010年末に基本協定が結ばれた中国向け輸出、(3)今年10月の大統領選―の3点が考えられる。しかし、これらの点について、両氏は以下の通り見解が異なった。

(1)ヒルトン枠輸出について
  スチュアリティ会長
 「去勢牛由来のEU向けヒルトン枠(現行2万8000トン/年)は、肉牛の供給不足から、小規模パッカーに
 対する輸出許可書(ROE)(注)が下りないこと、大規模パッカーが利幅の大きい高級部位を国内に仕
 向けること−から、枠を満たす輸出は行われないであろう。この結果、2010/11年度(7〜6月)におい
 ては、2000〜3000トンの枠が未達成となるとみられている。ヒルトン枠は、ブルガリア・ルーマニアの
 EU加盟に伴い、2011/12年度から現行の2万8000トンから2万9500トンに拡大することになったが、肉
 牛供給が回復するまで枠の完全消化は難しいと思われる。しかし、牛肉業界にとって、輸出増加とな
 る権利を獲得した点では意味がある。」

  注:ROEには、輸出先国業者の住所、氏名、取引数量、取引決定日、輸出する品目、生産年度、FOB
   価格、輸送方法などが記載され、経済省に
提出する。

  イリアルテ氏
 「ヒルトン枠については、量的には供給できると思われる。アルゼンチンではあまり需要のない高級部
 位(ランプ、ロインなどの3部位)が主に輸出されるため、政府も輸出を許可している。2010/11年度は
 約1000トンの枠が未消化となるとみられるが、これは単純に政府のパッカーに対する数量配分が適
 切ではなかったことによる。当該枠の増加に対しても十分に供給できると思われる。」
(2)中国向け輸出について
  スチュアリティ会長
 「現在衛生協定の締結に向けて動きつつあり、円滑な実施に疑問が残るものの、早ければ2011年末
 に輸出が開始されると見ている。現在、中国へは副産物を中心に香港経由で輸出されているが、直
 接輸出することになった場合、現在より約20%のコスト削減につながる。5月に中国を訪問した際は、
 高級ホテルなどでアルゼンチン産牛肉に対する関心があるという印象を受けた。」

  イリアルテ氏
 「2010年で牛肉輸入量は約2万8000トンとそれほど多くない。しかも、既に同国に進出しているウルグ
 アイ(うち約7600トン)や豪州(同約5800 トン)などとの価格競争に、現状では勝つことができないであ
 ろう。たとえ、今年末に輸出解禁となったとしても、ほとんど期待していない。沿岸部の高級ホテル向
 け需要はさほど大きなものではないし、内陸部は流通インフラが全く整備されていない。ロシアやベネ
 ズエラ向け輸出などの増加を考えた方が現実的である。」

(3)大統領選挙について
  スチュアリティ会長
 「一部の州では反政権の人も多く、政権が変わらないとも言い切れない。政権が変われば、農業振興
 に力を入れるという期待があり、牛肉生産・輸出も増加すると見ている。なお、穀物に対する輸出管理
 政策は、大きな変化はないだろう。」

  イリアルテ氏
 「現職のフェルナンデス大統領が勝利する可能性が高い。その場合、政府の牛肉管理政策はますます
 強化されるであろう。国内価格の監視が強まり、牛肉価格が上昇しないように、輸出パッカーにも低価
 格で国内供給を行うよう命令が発出されるかもしれない。」  

以上からすると、アルゼンチンの牛肉生産の回復には、かなりの時間を要するが、大統領選挙によっては、生産の回復にさらに影響を及ぶことが予想されるため、その動向が注目される。
【石井 清栄 平成23年6月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4394