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WTO、米国の食肉の原産地表示は外国産に不利益であると判定

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 世界貿易機関(WTO)の小委員会(パネル)は11月18日、カナダがWTO協定に違反するとして訴えていた米国の食肉原産地表示(COOL)について、食肉の原産地情報を消費者に提供することは妥当とするものの、外国産が米国産に対して差別的に扱われ不利益を被っているものと判定した。今回のWTOの判定について、カナダのリッツ農務・農産食品大臣とファスト国際貿易大臣は称賛する一方で、カーク米国通商代表は消費者保護の観点から表示制度自体の正当性が認められたことは評価しつつも、消費者に適切な情報を提供するためには上訴も含めたあらゆる選択肢を検討するとの声明を公表した。

カナダから米国へ輸出される肉牛・肉豚の頭数の激減

 COOLは、2002年農業法において牛肉や豚肉などの原産地の表示の義務付けが盛り込まれ、2008年農業法において規定の一部が修正された後、2008年9月30日より施行された。
 北米の牛肉・豚肉産業は国境を挟んで分業となっており、カナダで出生した牛や豚が米国に拠点を置く肥育業者やと畜業者へ出荷されている。COOLにおいて、「米国産」表示の食肉は「出生」、「肥育」、「と畜」のいずれも米国国内でなされたものに限るとされている。このため、米国の食肉パッカーはカナダで出生・肥育した家畜、カナダで出生・米国で肥育した家畜、米国国内で出生・肥育した家畜を仕分ける新たな作業が必要となった。仕分けに係るコストを敬遠してカナダ産などの家畜に対し、受け入れを止めたり、値引きを要求するようになったとされる。この影響で、カナダ産の家畜の米国向け輸出頭数は激減していた。

関係団体の反応

 WTOの判定に、米国国内の産業界の反応は異なる。米国国内の食肉パッカーはCOOLに対して反対の姿勢を明らかにした。米国最大の食肉加工団体の米国食肉協会(AMI)のボイル会長は「我々はWTOの判定に驚きはしない。当初からCOOLは煩雑でコストがかかるばかりではなく、米国のWTOに対する責務に背を向けると導入に反対していた。」とコメントした。
 他方、全国農業者連盟(NFU)のジョンソン会長は、消費者が購入する食肉の原産地を知る権利であるCOOLの基本原則を認めたことは評価する一方で、WTOの判定の趣旨に照らして外国産に不利益を与えない形での原産地情報の提供に向けて取組むが、それが困難だと判断した場合には、米国の消費者と生産者の利益を保護するため、上訴することを政府に働きかけると声明を出した。
 最も過激な声明を発表したのは、中小の肉牛生産者の団体である牧場主・肉用牛生産者行動法律財団アメリカ育成牛連合(R−CALF・USA)である。当団体は本部はカナダと接するモンタナ州にある。主に肉用牛繁殖農家で構成される同連合は、カナダから米国向けに素牛を輸出するカナダの肉用牛繁殖農家とは競合関係にある。R−CALF・USAは「WTOの判定は食肉の原産地情報を消費者に提供する米国の主権を奪うことを意味するものだ。WTOからの脱退を議会および大統領に求める」と強硬姿勢を明らかにした。
 米国は上訴するには60日間の猶予がある。米国政府が現行制度を堅持し上訴するか、判定を受け入れCOOLをWTO協定に違反しない形で見直せるかが注目される。
【中野 貴史 平成23年11月22日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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