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欧州理事会と議会は、新たな酪農部門の規則に合意

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 欧州理事会および欧州議会は12月6日、欧州委員会より昨年12月に提案された、生産者の立場を高め、酪農部門をより市場に根差したものとし、かつ、持続可能なものとすることを目的とした法案「ミルクパッケージ」について、約1年の議論を経て、合意した。

生産者の交渉力を強化

 欧州委員会は、2009年の酪農危機を受けて、欧州議会の要請によりハイレベルグループを発足した。同グループにより、生産者の交渉力強化や、2015年の生乳クオータの廃止に向けた諸課題について検討された。同委員会は2010年12月に、同グループの検討結果を踏まえ、ミルクパッケージ案を提案していた。
 法案の主な目的は、生産者が生乳販売先(乳業)の選択の自由度を高めることと、乳業との乳価などの交渉力強化となっている。
 具体的な合意内容は、生乳出荷前に、生産者と乳業との間で書面契約を締結し、これに、最低6カ月間の契約期間を明記することが義務付けられている。また、契約書には、出荷数量や出荷時期、支払方法、不測の事態への対応などを盛り込むこととしている。特に、契約期間について、生産者の同意が得られない場合、制限なく交渉することができることとした。なお、系統乳業の会員となっている生産者の場合にあっては、系統乳業の既存の規程の中に、上記内容が含まれている場合、契約締結の義務は適用除外される。
 また、生産者の交渉力の強化のため、生産者は、生産者団体を通じて生乳価格を含む契約内容の交渉ができることとなる。ただし、市場における競争維持のため、生産者団体は、EU全体の生乳生産量の3.5%以内、各加盟国の33%以内で交渉することができる。なお、生乳生産量が50万トン以下であるマルタ、キプロス、ルクセンブグについては、この制限を45%としている。

 このほか、欧州議会は、欧州委員会に対して、条件不利地域の酪農の今後の市場動向などの評価に関する報告書を、2014年6月と2018年末の2回提出することを求めた。また、原産地呼称保護制度や地理的保護表示に登録している、いわゆる高品質チーズに関して、単一市場における競争を阻害せず、あるいは、小規模チーズ生産者に悪影響を及ぼさないなどの条件で、供給管理体制に関する規定を盛り込むことしている。

関係団体の反応

 この合意を受けて、欧州農業者のロビー団体である欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会(COPA/COGECA)は、生産者と乳業間の契約上の関係強化を焦点とした今回の合意は、EUの酪農が正しい方向へ進むステップとして歓迎した。生産者の地位の改善や、より利益を得ることを可能とすると、好意的なコメントを公表した。
 一方、英国の農業者団体である全国農業者組合(NFU)は、合意については歓迎しているが、当初、欧州委員会のミルクパッケージ案は、EUの酪農がより持続可能となるよう、中長期的な視点での生産者保護が目的であったが、今回の合意は、各加盟国が最低契約期間を法制化できることにはなっておらず、生産者の状況は現状維持以上にはならないとして、「EUは絶好の機会を逃している」とコメントしている。

今後の予定

 同意された法案は、正式な手続きに則って、今週、農業特別委員会において政治的合意をした後、2012年2月に、欧州議会および欧州理事会の本会議において正式決定し、施行する予定となっている。また、施行後6カ月以降、規則に則った最初の契約を開始することとしている。なお、新規則は2020年6月末までに適用される。
【小林 奈穂美 平成23年12月12日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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