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USDAが酪農マージン保護プログラム(MPP)の改善を発表(米国)

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 米国農務省(USDA)のヴィルサック農務長官は4月12日、酪農マージン保護プログラム(MPP:Margin Protection Program)の改善について発表した。

 米国の酪農における所得補償制度については、2002年以降、「生乳収入損失補償契約プログラム(MILC:Milk Income Loss Contract Program)」により、乳価が保証基準価格を下回った場合にその差額が補填されるという仕組みであった。しかしながら、2008年に端を発した世界的な景気低迷による乳価の低下と同時期に起きた干ばつに伴う飼料価格の高騰により生じた収益性の悪化に対応するため、2014年の農業法において、乳価と飼料費の差額(マージン)を酪農家の収益とみなし、このマージンの保障により生乳の再生産を確保することを目的としたMPPが新たに創設され、MILCは廃止された。(詳細は、畜産の情報2016年3月号の海外情報「米国の酪農マージン保護プログラム(MPP)の現状と今後の課題」(http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2016/mar/wrepo01.htm)を参照)

  MPPは、全ての酪農家に加入資格があり、任意に参加できる仕組みとなっており、加入を希望する農家は、毎年7月1日から9月末日までの間に、1戸当たり年間100米ドルの手数料を支払って加入し、生産履歴の認定を受ける。この生産履歴は、保障対象乳量を決定する重要なものであり、通常は過去3年間の最大の年間生乳生産量が認定され、新規就農者については、生乳生産を開始した月の生産量やUSDAが公表している統計から算出した推計値により認定される。
 また、加入者は各々の経営戦略に基づき保障率と保障水準を設定する。保障率については、認定を受けた生産履歴の25〜90%の範囲(ただし5%刻み)で、保障水準については、生乳100ポンド当たりのマージンについて4米ドル〜8米ドルの範囲(ただし0.5米ドル刻み)で設定が可能であり、これらの設定に応じて加入者が負担する保険料が変動する(4米ドルに設定すると保険料は無料)。補填の発動の判断に用いられるマージンは、USDAが公表する統計値を基に算出される。なお、保険料は掛け捨てで、無事戻しは実施されない。
 
 今般、USDAがMPPの改善点として公表した内容は、MPPに加入している事業体に事業者の子供、孫、配偶者などの家族でMPPに加入可能な者が新たに加わる場合、生産履歴を直ちに更新できるというものである。ヴィルサック長官は「これにより酪農の家族経営体を強化することができるほか、新たに家族経営で酪農を始めようという者への支援や規模拡大している農家への支援を確かなものとすることにもなる」とコメントしている。なお、この変更は本年4月13日から適用されている。
 さらに、USDAはこの発表と同時にMPPの仕組みについて改めて説明しており、保障率を最大の90%、保障水準を最低の100ポンド当たり4米ドルのマージンで加入すれば、年間100米ドルの手数料のみの自己負担で、生産履歴の90%の乳量については、4米ドルの収益が保障されることを強調している。また、仮に、4米ドルより上のマージン、90%より下の保障率を設定して保険料を支払っている酪農家においても、4米ドルのマージンについては90%の保障率が適用されると併せて説明している。
 また、USDAは今年既に、加入者の保険料について、酪農協同組合や集乳業者を通じた支払いも新たに可能としている。MPPへの理解を促し、加入のハードルを下げることによって、2015年に約4割であった加入率を向上させたいのではないかと考えられる。

 USDAは、2014年から2015年においては、乳価の高値推移と飼料価格の安値推移により、補填基準のマージンが8米ドルを下回ることは稀であったが、2009年から2014年までにMPPの仕組みが仮に存在していた場合、現在の加入状況であれば、全米で5億米ドル(550億円。1米ドル=110円)の保険料に対して25億米ドル(2750億円)の補填額となり、この期間に存在したMILCが補填可能であった額より約10億米ドル(1100億円)多いとも説明しており、MPPが過去のMILCに比べ、酪農家にとって有利であるとも説明している。

 今回のUSDAの発表について、全米生乳生産者連盟(NMPF)のJim Mulhern会長は、「今回の発表のようにMPPが酪農家にとって使いやすいものに改善されていくことは大変喜ばしいことである」と前置きしながらも、「MPPは発展途上にある制度であり、USDAがMPPを改善できる範囲に限界があることは承知しているものの、NMPFの会員や他の酪農関係者のからの声を基に引き続き改善を続けて欲しい。MPPのさらなる改善や強化に関しては、NMPFもUSDAや議会に対して惜しみない協力を続けていく。」とコメントしている。
【調査情報部 平成28年4月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397