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乳製品の短期的需給見通しを公表(EU)

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 欧州委員会は2016年10月6日、農産物の短期的需給見通しを公表した。このうち、2016年の乳製品需給見通しの概要を紹介する。

生乳出荷量は前年比0.6%増の見通し

 2016年上半期(実績)の生乳出荷量は、昨年1〜3月はクオータ制度の下で多くのEU加盟国がクオータ超過に対する課徴金を避けるために生産を抑制していた反動もあり、前年同期比3.5%増となった。一方、2016年下半期については、生産者乳価が前年を大きく下回って推移する中、経産牛の淘汰が1〜7月までの累計で前年同期比6%増となったことから、6〜8月に大きく減産していることに加え、9月に公表された生乳出荷削減奨励事業により10〜12月の減産も予想されることから、前年同期比2%減と見込まれている。その結果、2016年の生乳出荷量は、前回(7月)の需給見通し(1.4%増)から下方修正され、前年比0.6%増と予測されている。
 また、2017年については、年初は前年同月を下回ると見込まれるが、それ以降は生産者乳価が上昇した場合、増産に転じて年間では前年比0.5%増と予測されている。
生乳出荷量(EU)

乳製品価格は大きく上昇、生産者乳価は底を打つ

 脱脂粉乳については、9月12日以降、公的買入は行われておらず、卸売価格(EU平均)は、9月中旬には公的買入価格(100キログラム当たり169.80ユーロ(1万9527円:1ユーロ=115円))を13%上回っている。
 バターの卸売価格(同)は、5月上旬を底値にそれ以降は大きく上昇しており、9月は2009年の欧州酪農危機以降の最高値である2013年10月の水準に近づきつつある。
脱脂粉乳とバターのEU平均卸売価格の推移
 脱脂粉乳とバターの価格から算出される生乳相当価格は、5月に上昇に転じて9月には損益分岐点の指標とされる100キログラム当たり30ユーロ(3450円)を超えた。一方、生産者乳価は、直近の8月に前月より上昇したものの同26.4ユーロ(3036円)と依然として低調にある。
 乳製品価格は、変動幅が大きく、需給が崩れると素早くしかも大きく値を崩す傾向がある。2014年8月のロシアの禁輸措置の影響により供給過多となった脱脂粉乳は、調整保管(PSA:民間在庫補助)に加えて公的買入れが行われ、同じくバターもPSAが行われた。生乳相当価格は低迷し、今年4月には同22.8ユーロ(2622円)の底値となった。一方、生産者乳価は、7月の同25.6ユーロ(2944円)を底値として8月に上昇に転じており、両者の価格動向には約3カ月の時間差が生じている。
 生乳相当価格は、その後、大きく伸長していることから、生産者乳価も9月以降、さらに上昇していくと考えられる。実際、多くの乳業メーカーは、9月の取引乳価の引き上げを表明している。

 この価格回復の要因としては、域外においては、豪州、ウルグアイ、アルゼンチンの生乳生産が減少する中、中国や米国などの輸入需要が強かったこと、そして、EUにとって比較的有利なチーズとバターの需要が強まったことが挙げられる。さらに、域内においても、生乳生産が抑制される中、飲用乳の消費減少は見られたものの、それを上回るバターとチーズの需要増加があったことが挙げられる。

 一方、懸念材料としては、まず、各国政府が抱える脱脂粉乳の公的在庫が挙げられる。同在庫は、市場を観察して需給に悪影響を与えないように放出することとされているが、年間生産量の3分の1に相当する37万トンに達しており、そのタイミングについての業界の関心は高い。続いて、米国の増産とニュージーランドの今後の復調も国際乳製品需給の緩和要件となる。最後は、一般論として天候次第で乳製品の需給は崩れるものと、欧州委員会は締めくくっている。
【調査情報部 平成28年10月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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