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欧州のでん粉業界、メルコスールとの貿易協定交渉に懸念を表明

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最終更新日:2016年11月4日

 欧州のでん粉業界団体であるスターチ・ヨーロッパは10月28日、EUとメルコスール(南米南部共同市場:アルゼンチン、ボリビア(注1)、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラが加盟する関税同盟)の貿易協定交渉(注2)の再開を受け、南米諸国のでん粉産業がEUに与える影響について、3つの観点から、懸念を発表した。
 

注1:ボリビアは2012年12月加盟議定書に署名し,各国議会の批准待ち。現在議決権はない(日本国外務省資料)。
注2:EUとメルコスールの貿易協定交渉は、物品貿易のみならず、サービスや政府調達など幅広い内容を含む包括的貿易協定に関する交渉。1999年に交渉開始後、中断を経て、2010年から2012年にかけて9回の交渉を実施。2016年5月に続き、2016年10月10日から14日にかけて最新の交渉が行われた。でん粉に間する具体的な交渉内容は、現時点で明らかにされていない。

 

十分な供給力と安価な原材料が最大の懸念

 まず、スターチ・ヨーロッパは、メルコスールのでん粉供給能力の大きさに懸念を抱いている。メルコスールのでん粉生産量は、年間350万トンに及びその約6割はブラジルで生産されている。ブラジルは、主なでん粉原料であるトウモロコシの二期作が可能なこと、トウモロコシだけでなくキャッサバも重要なでん粉原料として利用されていること、異性化糖と競合する甘しゃ糖の主産地であることについて、懸念を示している。
 その上で、メルコスール諸国では、でん粉原料が安価に調達できることが最大の懸念要因としている。2015年半ばのメルコスール諸国のタピオカでん粉の取引価格は、1トン当たり400米ドル(4万2400円:1米ドル=106円)程度と、EUのばれいしょでん粉より同約200米ドル(2万1200円)安い。また、ブラジルのトウモロコシ取引価格が米国より安価であることに加え、ブラジルレアルの為替相場が米ドルなどに対し安価で推移していることも、ブラジルの競争力を高めることにつながっているとしている。
 さらに、メルコスール諸国が、天然でん粉から、糖化製品、化工でん粉まで、さまざまな製品の製造技術を有していることも、懸念材料の一つとしている。
 

経済状況も影響すると予想

 また、スターチ・ヨーロッパは、メルコスール域内の中間所得層の拡大による堅調な需要と、安価な労働コストやエネルギーコストを背景に、メルコスール諸国のでん粉製造工場が製造能力を拡大していることも懸念事項の一つに挙げている。特にブラジルは、東南アジア市場で主要タピオカでん粉生産国であるタイの輸出にも影響を及ぼすに至っている。そして、ブラジルのでん粉業界は、現在は多数の企業に製造が分散されているものの、今後は合理化が進み、より競争力が高まるとしている。

でん粉業界にとどまらない影響を懸念

 さらに、スターチ・ヨーロッパは、でん粉業界にとどまらないEU全体への影響に懸念を示している。すなわち、EUのでん粉業界は、食料の供給チェーンや農村の地域経済を支える重要な役割を担っていること、さまざまな食品、工業製品の原料として利用されていること、EUのバイオ産業においても重要な役割を果たしていることなどを強調している。



【根本 悠 平成28年11月4日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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