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米国酪農業界、トランプ次期大統領への書簡を発出(米国)

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 2016年11月8日の米国大統領選挙で勝利したトランプ次期大統領は、米国農業界が重視する貿易政策について、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しやTPPからの脱退といった選挙戦中の主張に関する具体的な方針が示されていない中、全米生乳生産者連盟(National Milk Producers Federation:NMPF)と米国乳製品輸出協会(US Dairy Export Council:USDEC)は、12月6日、同氏に宛てて、貿易協定に関して新政権との対話を深めたい旨の書簡を発出した。
 この書簡の中で両団体は、先行する貿易協定における農業関連条項が、米国の酪農家と農村部の雇用に対してもたらした肯定的な影響について強調するとともに、現在の海外における乳製品販売額を維持し、向上させることが、米国の酪農生産者および加工関連業界における雇用を維持・創出できることを強調し、その理由として以下の5点を挙げた。
 
1 米国の乳製品輸出は何万もの国内雇用を創出
   米国農務省(USDA)によれば、酪農生産部門では、乳製品輸出額10億米ドルごとに、2万人以上の雇用と約30億米ドルの経済効果が創出されている。また、USDAの試算では、加工製造部門では、10億米ドルの乳製品輸出ごとに約3200人の乳業関係の雇用が維持され、輸出額1米ドル当たり約4米ドルの経済活動が生み出されるとされている。仮に、乳製品輸出が失われることになれば、酪農家、資材・サービスを提供する関連産業の従業員、および川下の乳業工場の雇用が深刻な打撃を受けることになるだろう。
 
2 毎週1日分に相当する生乳生産量がなくなれば、国内の農家と食品加工の雇用に悲惨な影響
   2015年には、乳固形分ベースで生乳生産量の14%に相当する乳製品が輸出された。これは米国で生産される生乳の毎週1日分を積み上げた量に相当する。20年前、輸出量はほとんど皆無に等しかった。酪農分野では、需給のわずかな変動によって価格が乱高下するが、このように輸出が伸びたことで、乳製品の貿易収支の黒字化が実現している。昨年、NMPFが実施した経済分析によれば、米国の締結したFTAの酪農関連条項は、乳製品輸出の成長に重要な役割を果たしており、2004年から2014年にかけて酪農業界に83億米ドルの追加的収益をもたらしている。
 
3 メイド・イン・アメリカ製品をつくる国内雇用を、諸外国と競争し、確保するため、米国の酪農生産者および乳業者は、国際的に台頭な競争条件を要請
   20世紀後半の国際乳製品市場は、欧州とオセアニアの乳業会社によって支配されていた。両地域の乳業会社は、この15年間に米国が市場シェアを奪ってきたことを快く思っていない。米国の乳製品が高関税を課せられる一方で、自らの製品は無関税で輸出できるようになる機会を心待ちにしていることだろう。我々は、彼らにこのような優位性を与えてはならない。
 
4 まん延する非関税障壁に対しては、貿易規則の施行強化が必要
   現行の米国の貿易協定は、米国製品に対する関税障壁を撤廃することで、米国の農業が恩恵を受けるものが中心となっているが、このような状況にあって、非関税障壁の存在が米国農業にとって大きな問題となってきている。保護主義的なカナダの酪農政策から、ヨーロッパによる地理的表示保護制度の乱用や長年にわたるインドの米国産乳製品輸入阻止に至るまで、非関税障壁は、米国の農産物輸出にとって真の脅威である。我々は、貿易協定による恩恵がなくならないよう、協定を強力に実施することこそが米国貿易政策の要である、とのトランプ次期大統領の考えに賛同するものである。
 
5 政府機関の輸出支援を確保できれば、米国の乳製品輸出が拡大の可能性
   米国の製品はさまざまな国で法的な規制を受けており、たとえそれが善意によるものであっても、結果として安全な米国産乳製品の輸出を妨げることがある。米国以外の乳製品輸出国では、国外市場への製品供給を支援するために、技術的な規制に関する問題の解決に特化して従事する政府職員を設置しているが、米国の政府機関は真逆のことをすることがあまりにも多すぎる傾向がある。我々は、米国の政府機関が、我々の輸出に関する単純な要求に直接対処する任務を課されていることを確保する必要がある。要求がより困難なものであれば、政府機関は円滑な貿易の維持を保証する、創造的な解決策を見い出すべきである。海外からの要求が全て正当化されるわけではないものの、米国の規制当局においては、輸出問題をタイムリーに解決する緊急性を認識していないケースがあまりにも多く見られる。
 
 
 なお、当レターに対するトランプ次期大統領によるコメントなどは確認されていないものの、次期政権がこのような米国酪農業界の意向をどのように受け止め、対応するのか、今後の動きが注目される。
 
 
【野田 圭介 平成28年12月13日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9533