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水牛肉生産の現状と今後の見通し(インド)

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 米国農務省は9月、インドの水牛肉に関する現状と今後の見通しを公表した。これによると、2018年のインドの牛肉・水牛肉の生産量は430万トン(枝肉ベース。以下同じ)、牛肉・水牛肉輸出量は185万トンとなると見ている。以下、同公表に基づいて、インドにおける水牛生産の現状と今後の見通しを紹介する。

生産

 水牛の乳は脂肪分が高く高価格で取引される上、宗教的な理由によると畜制限がほとんどないため、経済性に優れているとして、酪農家は水牛を積極的に増頭してきた。水牛の飼養頭数は、1997年以降年率1.3%で増えており、今後も生乳生産の拡大に伴って増頭が続くとみている。水牛の飼養頭数増加によってインドの牛肉・水牛肉生産量は増加しており、2017年には425万トンになると見積もっている。
 業界筋によると、生体取引価格は、成畜で1キログラム当たり150〜160ルピー(284〜302円、1ルピー=1.89円)、雄の子畜で同130〜140ルピー(246〜265円)程度である。

消費

 国民の80%を占めるヒンズー教徒の多くは牛肉だけでなく水牛肉も食べないため、牛肉・水牛肉の主な消費者は人口の14%を占めるイスラム教徒である。牛肉・水牛肉は価格が安いため、鶏肉に次いで多く消費される食肉である。2017年の消費は240万トン、2018年は人口増加によって245万トンとなると見ている。地域別に見ると、ケララ州、アッサム州、ウエストベンガル州、ゴア州、ウッタルプラデッシュ州での消費が多い。

と畜・加工・流通

 国内向けの牛と水牛は、全国3600カ所のと畜場でと畜され、2万5000の小規模小売店で販売されている。国内向けのと畜場の多くは衛生的な設備を備えておらず、食肉加工場も併設していない。枝肉は消費地近郊の食肉加工業者によって部分肉に加工され、ウェットマーケットなどで販売される。
 他方、輸出向けのと畜場は大規模で近代的な設備を持ち、食品安全基準庁(FSSAI)と農産食品加工輸出促進庁(APEDA)の認可を受けている。農産食品加工輸出促進庁(APEDA)によると、食肉加工場併設のと畜場が77施設、食肉加工場が32施設、認可されている。業界筋によると、輸出向けのと畜場の処理能力は年間300万トン程度である。輸出向けのと畜場のほとんどがウッタルプラデッシュ州、アンドラプラデッシュ州、マハラシュトラ州、パンジャブ州に立地している。
 雌牛は、ヒンズー教で神聖な動物とみなされていることから、多くの州でと畜が禁止または制限されている。水牛は神聖とは見なされていないものの、環境森林気候変動省が2017年の5月に公示した「2017年動物虐待防止(家畜市場規制)法」において、牛と水牛について、と畜を目的とした家畜市場での取引が禁止された。しかし、同年7月に最高裁判所が同法の効力を停止する判決を下したため、現時点での影響は限定的である。同法は現在見直し中であり、少なくとも取引禁止の対象から水牛は除外されると米国農務省は見ている。

輸出

 インドは世界最大の牛肉・水牛肉輸出国だが、2014年以降、輸出量は減少傾向で推移しており、2017年の輸出量は185万トンとなると見通している(図1)。業界筋によると、近年の輸出量減少は中東やアフリカの不景気によるものと言われている。輸出のほとんどが冷凍の骨なしの水牛肉であり、輸出先国では、解凍してウェットマーケットで売られたり、ソーセージなどの食肉加工品の原料に使われている。<br> インドの水牛肉は、安さ、脂肪の少なさ、ハラールへの対応が強みである。豪州やブラジルといった他の牛肉輸出国に比べて安価であり、こうした肉の購買力がない国にも輸出している(図1、2)。なお、グローバルトレードアトラスによると、2016年の牛肉・水牛肉(冷凍)の1キログラム当たりの輸出価格は、豪州が4.25ドル(472円、1ドル=111円)、ブラジルが3.82ドル(424円)、インドが2.95ドル(327円)である。
 インドは口蹄疫発生国であるが、国際獣疫事務局(OIE)の承認を受け、13の州と6つの連邦直轄地で口蹄疫管理プログラムを実施している。また、3つの地域について、「ワクチン清浄」を確認し、OIEに届け出ている。
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【三原 亙 平成29年9月19日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:三原 亙)
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