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WHOが公表した食用家畜における抗菌性物質の使用に関するガイドラインに対する反応(米国)

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 世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性対策について、世界的にヒトの医療、家畜衛生、その他の関係分野が連携して対応すべき課題であるとしており、2015年に薬剤耐性に関する国際行動計画を採択し、同年以降、毎年11月の1週間を世界抗菌性物質啓発週間(World Antibiotic Awareness Week)と定めている。今年の啓発週間である11月13〜19日には、国際獣疫事務局(OIE)や国連食糧農業機関(FAO)も同調した取り組みを実施した。日本でも毎年11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」と設定し、同対策の啓発に努めている。
 
 WHOは啓発週間を前に11月7日、「食用家畜における医療上重要な抗菌性物質(MIA)の使用に関するガイドライン(WHO Guidelines on use of medically important antimicrobials(MIA)in food-producing animals)」を公表した。
 
 WHOは、同時に公表したプレスリリースにおいて、同ガイドラインの主な背景や目的を以下のように説明している。
  • 動物やヒトでの抗菌性物質の過剰使用や誤使用は、薬剤耐性の脅威を高めている。
  • いくつかの国々では、獣医療におけるMIAの消費量が(ヒトでの使用量も含めた)総消費量の約8割を占めていることから、農業従事者や食品業界は、健康な家畜に対する成長促進や疾病予防を目的とした継続的な抗菌性物質の使用を止めるべきだと勧告する。
  • このガイドラインは、家畜における不必要な抗菌性物質の使用量削減により、MIAの有効性保持への一助となることを目的としている。
  • WHOが支援し、The Lancet Planetary Health誌にも公表された系統的レビュー(注:他の調査・研究データを分析すること)の結果によると、家畜における抗菌性物質の使用を制限する取り組みにより、最大39%まで耐性菌の発生を抑制できる。
  • このガイドラインは5年ごとに見直す予定である(ただし、重要かつ新たな科学的根拠などが見つかれば、その期間を待たずに改正することもあり得る)。
 
 また、同ガイドラインの具体的な勧告内容は下表のとおりであり、それぞれの勧告にそのレベルと背景の根拠レベルが併記されている。
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 各勧告に付された根拠のレベルが低い(low)またはとても低い(very low)とされているとおり、家畜の生産現場での抗菌性物質の過剰使用や誤使用が、ヒトの医療現場で耐性菌を増加させているという直接的な科学的根拠は現在においても乏しいことはWHOも認識している。ただし、欧州諸国でも議論されているとおり、確実な根拠の出現を待って対策を講じるのでは、この問題が手遅れになるおそれがあり、何らかの具体的な対策が必要であるとの考えから、WHOも同ガイドラインの公表に至ったものと推察される。
 
 このような状況の下、米国農務省(USDA)の首席科学官代理(Acting Chief Scientist)であるChavonda Jacobs-Young博士は、同ガイドラインが公表された同日に以下の内容のコメントを直ちに公表した。
  • WHOが今回公表したガイドラインは米国の現行の耐性菌対策とは合致しておらず、健全な科学の裏付けのないものである。このガイドラインの書きぶりでは、家畜において抗菌性物質を使用する「疾病予防」と「成長促進」の2つの目的が誤って結び付けられてしまう。
  • WHOは、以前、「農場における抗菌性物質の使用に関する基準」については、透明性が高く、合意を伴い、そして科学に基づくCODEXのプロセスを通じて改定するよう求めていたが、CODEXでの第一回目の会議が始まる前に、「根拠の弱い」や「根拠のとても弱い」情報に基づくガイドラインを発出してしまった。
  • 米国食品医薬品局(FDA)が定める現行の政策では、ヒトの医療上重要な抗菌性物質(MIA)は動物に対し成長促進目的では投与してはならないこととなっている。そして、食用家畜に対する抗菌性物質の使用は、専門家である獣医師の監視下でのみ、治療、コントロールおよび予防がFDAにより認められている。今般のWHOのガイドラインは、獣医師の役割を認識している一方で、専門家の判断に対して不必要かつ非現実的な制限を課している。
  • USDAは、抗菌性物質の使用と耐性菌に関する状況をリスク評価するためには、より多くのデータが必要であるとともに、抗菌性物質に代わる疾病治療、コントロールおよび予防のための手法の開発を続ける必要があると承知しており、ヒトや動物における薬剤耐性対策に尽力し続ける所存である。また、USDAは、WHOやFAOなどの機関と協力し、さらなる薬剤耐性の出現と拡散を避けるためにも、薬剤耐性管理体制を進展させていくつもりである。
 
 また、米国の畜産物生産や家畜衛生に関連する団体も続々と声明を発表しており、主な反応は以下のとおりである。

○全米豚肉生産者協議会(National Pork Producers Council: NPPC)
 WHOが提唱している食用家畜における疾病予防としての抗菌性物質の使用禁止は、賢明ではなく間違っている。牛、豚、鶏に関連する畜産物の生産現場において抗菌性物質の必要性を認めないことは、非道徳的かつ非現実的で、疾病を発生させ家畜を死に至らしめる可能性へとつながるものであり、米国の食品システム全体に支障をきたすおそれがある。
 抗菌性物質の予防的使用には、疾病の臨床症状を示さない家畜に抗菌性物質を投与することが含まれるが、投与されない場合には疾病が発生する可能性が高い。 医療上重要な抗菌性物質の使用に関する意思決定プロセスにおける獣医師の関与は、適切な使用を保証するという重要な側面だけではなく、飼料や飲水への使用において(獣医師の関与なしに購入・投与できないよう)規則により定められている。また、抗菌性物質を使用して疾病を予防することは、ほとんどの場合、より強力な効果を有する医療上重要な抗菌性物質を使用して治療する必要性に取って代わるものだ。

○ 米国家きん疾病学会(American Association of Avian Pathologists: AAAP)
 家きんの生産現場で使用している抗菌性物質の多くは、FDAやWHOが医療上重要とはみなしていないイオノフォア(注:主にポリエーテル系の抗菌性物質。ヒトの医療現場では用いられていない)と呼ばれるものであり、これらを使用することで、産業全体の二酸化炭素の排出量の削減にも貢献している。(加えて、同組織がウェブサイトで公表しているポジションペーパーには、「疾病を管理し予防することは、必要な鶏舎の数を減らす。つまり、抗菌性物質を疾病予防に使うことで、結果的に、電気、水、飼料のトウモロコシや大豆、プロパンガスなどの使用量も削減される。」と記されている。)
 
○ 全米獣医師会(American Veterinary Medical Association: AVMA)
 我々学会の会員らは、耐性菌対策のために抗菌性物質の必要性を低くすることに努めているが、抗菌性物質の使用量を減少させることだけに注力した方法がうまくいかないことは科学が示している。ただし、健全な家畜衛生や公衆衛生を守る最良の方法として、「適切な抗菌性物質」を「適切な方法」で「適切な患畜(者)」に投与することは支持している。
 FDAは、食用家畜において、疾病の治療、管理および予防を目的とした抗菌性物質の利用を認めており、当団体も動物における抗菌性物質の使用は獣医師が主導して決めるべきものだと信じている。
 
○ 全国鶏肉協議会(National Chicken Council: NCC)
 WHOがプレスリリースの中で言及している「ある国では抗菌性物質の売り上げの8割以上が家畜分野のもので、その多くが健康な家畜における成長促進に利用されている」という表現は、大げさに誇張され過ぎたものである。
 動物も人と同じように時には病気になる。その際に治療を施すことは家畜を飼養する上での責務の一つであり、農家は家畜衛生の専門家である獣医師などと協力し、FDAに認可された抗菌性物質が必要かどうかを決定し、適切な薬が、適切な用量、適切な投与期間、そして適切な理由により投与されるのである。
 
○ 米国動物用医薬品企業協会(Animal Health Institute: AHI)
 家畜衛生に関連する企業は、あらゆる状況で抗菌性物質を慎重に使用することがヒトの医療における耐性菌問題に取り組むための最適解であると信じており、米国においてもFDAと協力し、医療上重要な抗菌性物質の使用は獣医師の監視下でのみ使用できるといった取り組みを実施してきた。
 使用量のみに焦点を当てた政策がうまく行かない理由は2つある。1つ目は、これまでの研究結果や経験から、家畜における抗菌性物質使用量の削減のみに狙いを定めたプログラムは、ヒトの世界での耐性菌の減少には効果的ではないことが判明している。そして、2つ目は、このようなプログラムは、結果として、より多くの家畜の疾病と死亡を招くことになり、動物愛護や食品安全の状況を悪化させてしまう。
 抗菌性物質は、家畜の健康を守り、その結果として公衆の健康を守るために、農家や獣医師が利用する唯一のツールであるが、動物用医薬品の産業全体として、抗菌性物質への依存度を低下させる新たな製品の開発にも尽力していく所存である。
 
【調査情報部 平成29年11月28日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397