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2018年の気象、食肉需給等の見通し〜第121回肉牛産業会議から(2)〜(米国)

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  1月31日から2月2日までアリゾナ州フェニックスで開催された第121回肉牛産業会議において、農業情報を提供する団体であるキャトルファックスから、2018年の気象、食肉生産、価格などに関する見通しが発表された。
 キャトルファックスは、当初、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)の専門部会として肉牛生産者への情報提供を行っていたが、情報の重要性が高いことが認識されたことから、1968年にNCBAから分離・独立した。ただし、同団体の理事会は、会員となっている肉牛生産者から地区ごとに選出された地域代表で構成されているが、会員がNCBAと重複していることから、NCBAの影響力は強く維持されている。

1. 気象見通し
 肉牛産業会議での気象見通しは、長年にわたり、ネブラスカ州オマハにあるクレイトン大学のアート・ダグラス名誉教授が担当している。同教授による見通しは、気象モデルによるものではなく、過去のデータを参照し、各種事象の類似性を基に予測するアナログ分析と呼ばれる方法によっている。同名誉教授による今年中盤までの予測結果は、以下の通りである:
 米国では、現在、ラニーニャ現象の影響により、テキサス州など南西部で干ばつが進行している。米国海洋大気庁(NOAA)は、この干ばつが8月まで続くと予想しており、アナログ分析でも同月まで続くと予想されるが、他の気象モデルでは5月までと予想している。乾燥気候は、米国だけでなく、アルゼンチン、インド、南アフリカ、豪州といった穀物の主要生産国にも広がっており、特に、現在が作物の生育期にあたるアルゼンチンで深刻な状況となっている。
 米国では、今年の春は全体としては平穏だが、穀倉地帯である中西部は平年よりも冷涼となり、発芽不良による再は種が必要となる地域が発生する見込みである。今年の夏は、西部では温暖・乾燥、東部では冷涼・多雨となる見込みである。南西部の乾燥状態は、夏まで続くと見込まれるため、強い干ばつが発生する恐れがある。

2. 飼料の見通し
 2018年の米国のトウモロコシは種面積は、前年並みと見込まれ、需要にも大きな変動要因がないことから、2018/19年度の価格は、単収の増減に左右されると見込まれる。現在、トウモロコシの先物市場には大量の売りポジションが滞留しており、価格の下げ圧力となっているが、この売りポジションが更新されなければ価格上昇要因となる可能性がある。中国は、ガソリンへのエタノール混合率10%の2020年までの義務化を検討しているが、これが実施されれば、米国産トウモロコシ由来のエタノールの対中国輸出によって、トウモロコシ需要が高まる可能性がある。
 米国の乾草在庫は、1976年以降ひっ迫状態が続いており、2017年の乾草収穫面積は、史上最少となった。2018年は、牛飼養頭数の増加が予想されていることから、乾草価格は1トン当たり10〜15米ドル上昇すると見込まれており、干ばつが夏まで続けばさらなる価格上昇のリスクがある。

3.牛肉需給見通し
(1)頭数および食肉生産
 米国の肉用成雌牛飼養頭数は、干ばつの影響により1962年以降で最少となった2014年以降、2018年までの間に380万頭増加しており、2019年以降数年間にさらに20〜40万頭増加する可能性がある。繁殖雌牛が増えているため、肥育牛頭数も増えており、2018年のと畜頭数は、前年を70〜90万頭上回ると見込まれる。2018年の牛肉生産量は、史上最多の1234万トンとなると見込まれる。
 北米自由貿易協定(NAFTA)など市場アクセス環境に変化がなければ、牛肉輸出量が増加し、輸入量は前年並みと見込まれ、国内供給量は生産量の伸びを下回る前年比3%増と見込まれる。この結果、年間1人当たりの牛肉供給量は、26.5キログラムと見込まれる。豚肉の生産量は前年比5%増、鶏肉は同2%増といずれも増加する見込みのため、2018年の年間1人当たり食肉供給量は、98.5キログラムに達すると見込まれる。

(2)牛肉需要
 堅調な牛肉需要により、牛肉と豚肉・鶏肉との価格差が大きい状況が続いている。2018年も牛肉に対する需要は比較的堅調に推移すると見込まれる。米国では、ミレニアル世代(一般的に2000年以降に成人を迎えた世代)が消費の主流となっているが、この世代は家庭での食事や全国チェーンではないレストランでの食事を好む傾向がある。牛肉の消費拡大のためには小売価格を下げる必要が生じている。一方で牛肉生産量の増加に伴い、と畜場は土曜日にも操業せざるを得なくなるケースが増えており、今後、と畜場の処理能力が足かせになる可能性がある。

(3)食肉輸出
 米国では、牛肉だけでなく、豚肉、鶏肉の生産量も史上最多を更新していることから、世界の食肉需要が米国の肉牛市場に与える影響は、大きさを増している。2018年の牛肉輸出量は、前年比6%増の136万トンと見込まれる(輸入量は輸出量とほぼ同量)。メキシコと豪州からの輸入は、米国内での赤身肉需要の高まりにより、前年よりも増加すると見込まれる。中国向けの牛肉輸出は再開されたものの、輸出条件が厳しいため、輸出量が大幅に増加することは見込まれていない。
 豚肉の輸出量は、前年比4%増と見込まれている。メキシコと韓国向けの増加分は中国向けの減少で相殺されるため、その他の市場への輸出拡大を図る必要がある。鶏肉の輸出量は、原油価格の上昇により産油国の経済状況が改善すると見込まれるため、前年比2%増と見込まれている。
 しかし、上記の見込みは、いずれもNAFTAが現状維持であることを前提としている。仮に、トランプ政権がNAFTAからの離脱を表明すれば、同協定の規定上、実際の離脱はその6カ月後となるが、カナダとメキシコの輸入業者は、この半年間についても他国のサプライヤー確保に回るため、離脱の影響は直ちに始まるとみられる。このため、米国内の食肉需給状況は、大幅な供給過剰に陥る可能性がある。

(4)価格見通し
 2018年の米国の牛肉消費は、堅調な需要が続くと見込まれるものの、1人当たりの供給量の増加と小売段階での業者間の競争激化により、2018年の小売価格は低下すると見込まれる。小売価格(全部位の平均)は、1キログラム当たり12〜12.4米ドルと見込まれる。

4.懸念要因
●と畜能力
 牛の飼養頭数は増加しているものの、土曜日の稼働を増やせば、2020年まではと畜能力に支障はないとされている。しかし、その後もミートパッカーが肉牛農家の動向に合わせてと畜能力を強化する保証はない。1頭当たり枝肉重量は、2017年には369キログラムだったが、2018年には373キログラムに増える見込み。

●金利
 2018年には金利上昇が見込まれており、2019年には上昇がさらに加速すると予想される。この2年間での金利上昇分は、1〜1.25%となると見込まれる。

●農家収益と農地価格
 肉牛農家の経営収支は、2015〜2018年(見込み)を平均するとほぼ収支均衡状態でほとんど利益が出ていない。利益確保のための資産の食いつぶしが生じているため、小規模層農家の廃業による統合が進む可能性がある。単位面積当たりの収益性が低いため、農地価格が低下する可能性がある。

●通商協定
 NAFTAが米国の肉牛産業にもたらしている恩恵は非常に大きい。カナダとメキシコは、共に米国の牛肉輸出先上位3カ国に含まれている。日本への輸出は、豪州との関税率格差の拡大によりさらに不利になるだろう。

●経済
 税制が改正された他、債券市場の動向などの一般的な経済指標は全てポジティブであることを示している。このような状況にもかかわらず、2018年以降は不況への道をたどるとされている。いつ、何が起こって不況になるのか、注意が必要である。
 
【調査情報部 平成30年2月9日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397