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タイ政府、グリホサートの禁止決定をわずか1カ月で撤回

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最終更新日:2019年12月4日

 タイ政府の国家有害物質委員会(NHSC)は11月27日、グリホサート(注)を主成分とする除草剤の製造、輸入、輸出、保有の禁止を決めた前月22日の決議を撤回すると発表した(表)。その代わり、今後は対象作物や回数、地域に一定の条件を設けるなど使用を制限する方策に切り替える。また、グリホサートと同様に禁止対象となっていたパラコートを主成分とする除草剤と、クロルピリホスを主成分とする殺虫剤の2種の農薬については、禁止の開始時期を当初予定していた2019年12月1日から2020年6月1日に延期するとした。
 併せて、タイ農業・協同組合省(以下「農業省」という)に対し、早急に代替できる農薬・農法の開発を進めるよう指示した。

(注)「ラウンドアップ」のブランド名で販売されている農薬。

 3種の農薬の禁止を決めた同委員会の判断をめぐっては、生産者が「代替品が市場にほとんど流通しておらず、入手できたとしても高価で経営を圧迫する」と猛反発し、タイの農業団体が禁止決定の差し止めを求めて裁判所に提訴するとともに、農薬が使用できない影響で収入が減少した場合、政府などに損害賠償を求める考えを示していた。また、現地報道によると、タイにとって大豆や小麦など穀物の主要な輸入相手国である米国も、禁止措置が輸入農産物の残留農薬に対する規制強化につながることを警戒し、米国農務省(USDA)は、特にグリホサートの禁止についてタイ政府に再考を求める書簡を送ったとされる。
 サトウキビ生産への影響について、タイ甘しゃ糖技術者会議(TSSCT)は、禁止される農薬がサトウキビを生産する上で欠かせないものとなっている現状を踏まえ、「サトウキビの生産量が最大50%低下する」との試算を示した。また、サトウキビの生産者団体は「タイの農産物輸出額の1割を占める砂糖・砂糖加工品の輸出額が大幅に縮減することで、農業や経済に大きな損害を与えるだろう」と警告していた(図)。

 現地報道によると、NHSCの議長であるタイ工業相は今回の決定に至った経緯について、農薬の使用が禁止されると、農薬が残留している食品の販売も禁止されることから、食品産業にも大きな影響を与えること▽国内に禁止対象となる農薬の在庫が数万トンあり、その処分に多額の費用がかかること−などの懸念があったと説明した。また、NHSCの事務局長は「今回の決定は米国からの要請とは無関係で、見直しを求める生産者などからの声に対応したもの」と述べた。
表 タイにおける「グリホサート」「パラコート」「クロルピリホス」の規制をめぐる動き
図 タイの農水産物の輸出額と品目別輸出割合(2018年)
【坂上 大樹 令和元年12月4日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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