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米国農務省がASFの追加プランを公表(米国)

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 2020年3月6日、米国農務省(USDA)の市場規制プログラムを担当するグレッグ・アイバ次官は、ASF(アフリカ豚熱)が米国で確認された際に、ASFをコントロールし、撲滅するための追加の防疫措置を公表した。

・米国でASFが確認された場合、パーデュー農務長官は、「緊急事態」を宣言し、防疫措置に必要な資材や人的資源、予算を確保し、USDAはASFのまん延防止や撲滅を達成するための全米の連絡調整のリーダーとして対応する。
・ USDAは、疾病のまん延防止と発生地域での豚の再導入が迅速に行えるよう、少なくとも72時間は全米ですべての豚の移動を禁止する。
・ 感染動物および感染の疑いがある動物の殺処分について、USDAは州当局および養豚業界と協力し、発生農場において、米国獣医師会によって承認された最も効率的かつ効果的で適切な殺処分方法を適用する。
・ ウイルスを発生農場に封じ込めるため、USDAは養豚業界および州当局と積極的に協力し、農家が所在する地域の要件に沿った死亡家畜の処理計画を立て、埋却処分を支援する
・ 事務処理を軽減するため、USDAは発生農場の規模に基づいて、ASF撲滅のために要した防疫措置費用について、均一で定額な負担額を支払う。

 アイバ次官は、「何よりもまず、USDAはASFの米国への侵入を防止するために、できることはすべてやることを約束する。そして、養豚業界による侵入対策と政府の取り組みへの協力を非常に感謝している。そして、本日発表した追加防疫措置により、もしASFが農場で発見された場合、迅速かつ効果的にASFに対する防疫能力が強化されることになる。」と述べている。
 これに先立ち、3月3日には、トランプ大統領が米国の食料と農業の保護法(The Protecting America’s Food & Agriculture Act of 2019)に署名した。この法案により、ASFのような動植物の病原体や病害虫の米国への侵入を防ぐため、米国税関・国境警備局(CBP)の職員や、探知犬チームおよびその他の必要な資源の増員・増強が可能となる。
 この法案が成立した後の最初の3年間に限り、毎年、CBPが必要とする職員数に達するまで、240名の農業専門職員を雇用、訓練および配置するための資金の拠出を許可するものである。また、同様に200名の農業技術者および20の探知犬チームの増員・増強に必要な資金の拠出を許可するものである。
 全国豚肉生産者協議会(NPPC)のへリング会長は、海外悪性家畜伝染性疾病対策を強化するものとして、トランプ大統領による法案の署名を称賛し、「米国の国境に十分な農業検査官を配置することは、健康な米国の豚群を維持するために重要なことである。USDAとCBPは家畜伝染性疾病のリスクを軽減するため、さまざまな防疫措置を講じている。この法律によって、国境でのバイオセキュリティを強化するために、多くの人的資源等が利用可能となる。これは、農家、消費者、米国経済にとっての勝利である。」と述べている。
 また、2月20、21日の2日間にわたり開催したUSDA 2020年農業アウトルック・フォーラム(2020 Agricultural Outlook Forum)においても、ASFに関するセッションが行われた。
当セッションでは、米国の農業コンサルタントであり、中国に遺伝資源を販売し、中国で種豚農場も保有しているWhiteshire Hamroc(ホワイトシャー・ハーモック)社が中国におけるASFに関する状況報告を行った。
 中国でASFが発生して以降、同社が保有する養豚場においてもASFが確認され、2018年と2019年に合計1万頭以上の豚の損失が発生した。中国全体の豚肉生産量は発生前と比べて50%減となり、甚大な被害となっている。しかし、同社は中国におけるASF発生農家の特徴を図のようにまとめ、大胆な予測ではあるが、今後もASFの発生リスクは高いままであると推測している。
 
 
図
 この他にも、中国でASFがまん延した理由として、(1)文化、(2)政治、(3)産業構造という3つの要因を挙げ、
 
(1)春節や国慶節などの連休に合わせて帰省等で家族が集まり、伝統的に地元の畜産物などを持ち寄って分けあったり、トウモロコシを路上に広げて乾燥させたりする文化があること。
 
(2)感染症対策に対して作業員や資金等あらゆる面での防疫措置に対する準備不足、政治的な問題がASFの科学的な防疫措置よりも優先されること、感染豚に対する補償金は地方政府の責任で補償されることになっているが、地方政府の財政が枯渇した際には、地方政府から中央政府に報告がされないなど、あらゆる面での政治と行政に対する透明性が欠如していること。
 
(3)小規模養豚農家は埋却地が確保できないため、死体処理の手段として死んだ豚を川に流したこと、中国では非衛生的な環境で食肉の路上販売が行われており、ASF感染豚をわざと安く買いたたいてそれで利益を得る不届き者もいること。
 
等の問題点が挙げられた。
 
 このような中国の状況を踏まえると、さまざまなモノや人の移動が盛んな現在において、米国へASFが侵入するリスクは依然として高く、プラム アイランド動物疾病センター(注)で行われているASFワクチンの開発が待たれるところである。また、疾病の早期発見、農場バイオセキュリティの構築、関係者一人一人が病原体のまん延防止措置を講じることが、家畜伝染性疾病の発生やまん延の防止のために有効な手段であることが確認された。

(注)1954年、ニューヨーク州のロングアイランドの末端プラムアイランドに設立された、USDAの海外疾病研究拠点。
 
【調査情報部 令和2年3月23日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397