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食肉団体は新型コロナウイルス感染症の影響を受ける業界の窮状を訴える(米国)

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、全米では各地で都市閉鎖が行われ、必要不可欠な業種以外は在宅勤務を行うという行政命令が州によって発出されている。食肉業界は必要不可欠な業種と認定され、多くの食肉および食鳥処理場は現在も稼働しているが、州によって外食産業は店内飲食が禁止され、持ち帰りや宅配のみの営業が命じられたことから、食肉需要が減少している。また、食肉および食鳥処理場で勤務する従業員のCOVID-19への感染が確認されたことにより、処理場の業務停止や処理能力の減少が見られており、食肉生産量が減少している。このような状況を受け、各食肉団体は救済措置を求めている。

〜全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)〜

 4月14日、NCBAはCOVID-19が大流行したことによる牛肉業界の損失は136億米ドル(1兆4688億円:1米ドル=108円)に達すると試算した研究結果を公表した。この研究結果は、2兆2000億米ドル(237兆6000億円)規模となるコロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARAS:Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security)法に基づく救済資金を、米国農務省(USDA)がどのように肉牛生産者に配分するのが最善かを判断する材料のひとつとなる。
 本研究では、繁殖農家が最も影響を受けると試算しており、合計で37億ドル(3996億円)、つまり繁殖牛1頭当たり111.91米ドル(1万2086円)の損失が発生すると推定した。救済資金による補填がなければ、今後数年間で繁殖牛1頭当たり135.24米ドル(1万4606円)、合計で44億5000万米ドル(4806億円)まで損失が増加する可能性が指摘されている。
 2020年の育成部門の損失は、1頭当たり159.98米ドル(1万7278円)、全体で25億米ドル(2700億円)、肥育部門の損失は、1頭当たり205.96米ドル(2万2244円)、全体で30億米ドル(3240億円)と試算されている。
 NCBAのコリン・ウッドオールCEOは、「本研究により、COVID-19の影響により肉牛生産者が大変な経済的被害を受けたことが明確になった。これらの損失は今後何年にもわたって拡大し続け、すぐに利用可能な救済基金が得られなければ、多くの生産者が破産の瀬戸際に追い込まれる可能性を指摘している。 また、議会によって設置された救済基金は第一弾としてはよかったが、さらなる支援が必要であることが明らかになった。肉牛生産者への直接支援を目的とした救済基金であっても、複数の品目を対象としており、しかもその品目の多くはすでに他の政府の生産支援プログラムの対象となっている。しかし、肉牛生産者はこれまで政府による救済措置がなくても自立して生計を維持してきており、現在もその多くが、他の品目の生産者が享受しているセーフティネットに頼らずに経営を行っている。いま、われわれが直面している状況があまりにも異常であるため、肉牛生産者は救済を必要としている。われわれは、肉牛業界を支援し、肉牛生産者を救済基金の対象としてくれた連邦議会の多く議員に感謝している。しかし、支援を必要とするすべての肉牛生産者が救済基金を利用できるようにするために、われわれは彼らのさらなる努力を必要としている。肉牛生産者に特化した追加の基金を要求する。」と述べている。
(NCBA プレスリリース 2020年4月14日)
https://www.ncba.org/newsreleases.aspx?NewsID=7225

〜全米豚肉生産者協議会(NPPC)〜

 4月14日、NPPCはCOVID-19の影響により生体豚価格が急落し、2020年末までに全体で50億ドル(5400億円)もの損失が生じる可能性に言及し、政府や議会に至急の救済を要求した。
 声明では、COVID-19の影響による豚肉処理場の稼働停止と従業員の欠勤の増加が、地方での労働力不足問題に追い打ちをかけるように既存の処理場の生産能力を悪化させ、限られた生産能力によって豚の余剰感が増加し、生体豚の価格が急落していることを指摘している。また、レストランのようなフードサービス市場が崩壊し、COVID-19の影響を受けた多くの輸出市場では都市封鎖によって豚肉需要は激減し、冷蔵倉庫が限界に達していることを指摘した。
 また声明では、2020年末までに、豚1頭当たり約37ドル(3996円)、全体で約50億ドル(5400億円)の損失になるとの、アイオワ州立大学のエコノミストであるダーモット・ヘイズ博士と養豚コンサルタント会社カーンズ&アソシエイツ社のエコノミストであるスティーブ・メイヤー博士試算を公表している。COVID-19発生前の業界予測では、2020年は豚1頭当たり平均約10ドル(1080円)の収益が予想されていた。
 このような試算を受けて、NPPCは、全米の養豚農家と協議して、連邦政府の政策立案者とともに次のような対応策を提案している。

― 豚肉の在庫を減らし、失業率の上昇により需要が急増しているフードバンクプログラムを支援することにもなるUSDAによる10億ドル(108億円)超の豚肉の購入。この購入分は、レストランやその他のフードサービス用の豚肉製品の需要減少を補う面もある。

― 直接支払い制度に参加している生産者に対する、受給制限のない公平な支払い(注)。
また、NPPCは米国中小企業庁(SBA)が提供する需要の大きい救済資金を利用できないため、約1万戸の家族経営養豚農家が危機に瀕しているとしており、緊急融資プログラムの修正も求めている。
 
 NPPCの会長でありウィスコンシン州ワウゼカの養豚農家でもあるハワード・ロス氏は、「われわれは米国人に高品質の米国産豚肉を提供する努力をしているが、何千もの農家の生計を脅かす悲惨な状況に直面している。私たちは水しか口にしていない。早急な救済措置が講じられなければ、多くの養豚農家が破産することになる。豚肉業界は、必要な時に必要な分だけ生産する体制となっており、(処理されない)豚の行き場は農場以外にどこにもなく、養豚農家は悲惨な選択を迫られている。酪農家は牛乳を、果物や野菜の生産者は農産物を廃棄することができる。しかし、養豚農家には豚を移動させる場所がどこにもない。」と述べている。
(NPPC プレスリリース 2020年4月14日)
https://nppc.org/hog-farmers-face-covid-19-financial-crisis/

(注)
 2019年7月25日に公表された、貿易紛争に苦しむ農家の救済策第2弾として措置された市場活性プログラムで申請するも対象外となった養豚農家についても、受給対象とするよう要求するという主旨。
 海外情報「貿易紛争の影響に苦しむ農家の救済策第2弾の詳細を発表(米国)2019年8月7日」
 https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002494.html 参照

〜全米鶏肉協議会(NCC)〜

 4月10日、NCCはCOVID-19に関連した潜在的なサプライチェーンへの影響を受ける家族経営の養鶏農家への支援を要請する書簡をUSDAのパーデュー農務長官に送った。
 書簡には、従来から存在したアニマルウエルフェアへの潜在的懸念に加えて、「食鳥処理場での労働力の減少、一夜にして消失したフードサービスの需要、歴史的な高水準となっている在庫量、発生が確認された高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の影響による輸出停止に伴う損失の結果として、減少した需要への対応として一部の鶏肉処理業者が(ひな用の)鶏卵を減少させ始めている。それは、鶏肉処理業者が鶏を飼育させるために密接に関わっている家族経営養鶏農家へのひなの導入が遅延しうることを意味している」と書かれている。
 また、パーデュー長官に対し、CARES法に基づいてUSDAに配賦された、商品信用公社(CCC)に対する140億ドル(1兆5120億円)と同長官の裁量で農業者を支援できる95億ドル(1兆260億円)の予算の活用を求めている。
 さらに、最近、トランプ大統領が農家への支援を行うよう指示したことについても触れており、鶏肉の需要減によって直接的な影響を受ける可能性のある養鶏農家への支援を求めている。
(NCC プレスリリース 2020年4月13日)
https://www.nationalchickencouncil.org/ncc-requests-relief-for-chicken-farmers-affected-by-covid-19/
 COVID-19による影響は長期に及ぶと予想されており、今後、米国での経済活動が徐々に再開されたとしても、これまでの日常に戻ることはなく、これまでとは異なる行動パターンが求められる新たな日常に戻るということが予想されている。そのためか、食肉需要に関しては、フードサービスで失われた需要は急激な回復は望めず、ゆるやかな回復が予想されている。一方、供給に関しては、これまで食肉の安全性を高めるために食肉および食鳥処理場の従業員に求められてきた高度な衛生対策に加えて、安定供給を確保するため、処理場の安定的な稼働を目的とした、従業員間の感染防止対策の導入が求められる可能性がある。COVID-19による影響がどこまで及ぶのか今後の動向が注視される。
【調査情報部 令和2年4月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397