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EU乳業団体、進展の見られない英国との交渉に懸念を表明し、英・EU間のサプライチェーンが維持されるよう要請

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 欧州乳製品輸出入・販売業者連合(EUCOLAIT:European Association of Dairy Trade)(注)は6月16日、英国が移行期間の延長を検討しないと表明していることから、ハードブレグジット(強硬離脱)を回避するためには、批准手続きにかかる時間を考慮すると本年10月末までに欧州連合(EU)と英国の自由貿易協定(FTA)に最終合意しなければならず、残り4カ月しかないとして懸念を表明した。

 EUCOLAITは、今回の問題は、現在進行中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行とその経済的影響によってさらに複雑化しているとした。また、EUCOLAITの基本姿勢は従前から変わらず、「将来のEU・英国間の貿易関係は、関税、割当数量、または不必要な非関税障壁がなく、自由に貿易ができ、できる限り現状に近いものにすべきである」とした。
 英国が今年末に単一市場と関税同盟から離脱することを考えれば、限られた期限内に包括的な貿易協定に合意する強い政治的意思が必要であり、協定は可能な限り簡略にする必要があるとした。

関税、量的制限の非適用

 EUCOLAITは、現在、EUと英国の乳業メーカーは統合されたサプライチェーンの中で事業を展開しているため、2021年1月にEU・英国間の貿易にEU域外関税が適用されることとなれば、その打撃は大きく、試算によれば現在の貿易の90%以上が解消されると見込まれるため、関税のないアクセスを維持することが最も重要であるとした。
 EUから英国向けの乳製品輸出は年間35億ユーロ(4270億円:1ユーロ=122円)を超え、最大の仕向け先となっている。輸出の大半はチーズだが、ヨーグルト、バター、育児用調製粉乳、飲用乳も相当量輸出している。一方、英国からのEU向け輸出は、同20億ユーロ(2440億円)近い。
 移行期間が終わり、英国との貿易に域外関税が課されると、英国からEUに輸出される乳製品の価格競争力が低下するだけでなく、従来英国からEUに輸出されていた製品が英国内の市場に出回ることとなるため、これにより、EUからの輸出品は、さらにシェアを奪われることになる。乳製品の自給率が低い英国では、チーズを主とした多くの乳製品の輸入が継続されなければ、製品不足と価格の高騰などが起こると同時に、EUでは、COVID-19により域内の需給が不安定になっているところに、代替の輸出市場を探す必要性に迫られることとなり、乳価下落は避けられないであろうとした。

特恵原産地規則

 EUCOLAITは、乳製品に関しては、EUが締結しているほとんどのFTAで用いられている一般的な原産地規則と大きく異なる規則は必要ないとした。一般的な乳製品(HS4類)については、EU域外の国との貿易においては「完全生産品」による判定基準を用いる必要があるが、英国との貿易においては、EU及び英国産原料の両方が認められるべきであり、加工製品(HS19類の栄養機能食品など)については、同製品に利用される一部の原材料について欧州での生産量は限定的であることから、非原産乳成分の閾値を重量ベースで20%かそれ以上に引き上げるなどより柔軟性を持たせるべきであるとした。

公平な競争条件

 EUCOLAITは、今回の交渉で最も難航している公平な競争条件の維持について、打開のためには現実的な解決が急務であるとした。欧州理事会で採択された交渉指令では、広大なEU市場にアクセスするためには、環境保護、労働基準、競争、食品安全などの分野での妥協のない約束を通じた公平な競争条件の維持が条件であると提案されており、両者とも2019年10月に合意したEU離脱に関する政治宣言で定められた原則を実現すべきではあるものの、規制の自由を取り戻すためにEU離脱をするという英国の選択も尊重される必要があると、英国側の立場にも一定の理解を示した。そのため、EUCOLAITは、EUがカナダや日本などの他の貿易相手国に対して、非常に包括的な市場アクセスを認めているにもかかわらず、包括的な公平な競争条件に関する規定を設けていないことに言及し、EUの一員であった英国のこれまでの実績を見れば、関連する分野でEUに比較して基準を引き下げるようなことが起きるとは信じがたいことから、英国をEUのアキ・コミュノテール(EUにおいて蓄積された法体系の総称)に縛り付けるのではなく、広く同等の成果を得ることに焦点を当てるべきだとした。

通関の円滑化

 EUCOLAITは、通関の円滑化を強めることが重要であるとした。完全に見解の相違のない国境措置は不可能であり、決まりにのっとった税関手続きと国境管理が必要であるとした上で、英国とEUの長年の関係性による信頼性を考慮し、EUの税関の規約の枠組み内で可能なあらゆる手段を最大限に活用すべきとした。

食品衛生および動物衛生の解決策

 EUCOLAITは、食品安全と動物衛生の分野で、継続的な連携と協力を期待するとした。EUと英国との間にすでに完全な連携が構築されていることに言及し、食品安全に係る規則は将来にわたってEUと英国間で完全に合致する必要はないものの、円滑な取引を維持するために十分な程度の類似性は保たなければならないとした。
 また、EU・スイス間で乳製品を輸出入するに際に衛生検査を求めていないことを例に挙げ、英国との間でも同様の措置をとるよう要請した。さらにEU・英国間で食品安全上の問題に引き続き一貫性を確保するための規制委員会を設置すべきとした。

結論

 EUCOLAITは、関係の維持が両者の利益になることは明らかであるとした上で、英国の要望するEU規則や政策からの離脱には現実的な解決策が必要であるとした。また、EU加盟国以外の国が加盟国と同等の利益を供与されるべきではないとしながらも、不必要なハードルを追加して事態を悪化させるべきではないとし、EUと英国の市民や事業者のため、強固な関係性の維持に焦点を当てる必要があるとした。
 そして最後に、乳製品貿易において、税関手続き上起きうる多少の摩擦への対処は可能であるものの、EU・英国間の乳製品のサプライチェーンが維持されるためには、その他の貿易条件に変更がないままであるべきだと強調した。

注:EUCOLAIT(欧州乳製品輸出入・販売業者連合)は、EUにおける乳製品の輸出促進のための組織であり、乳業、乳製品輸出業者、卸売事業者などのEU加盟国を中心とした500者以上の主要企業・団体が加盟している。
【国際調査グループ 令和2年6月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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