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欧州委員会、コロナ禍の食肉の短期的需給見通しを公表(EU)

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 欧州委員会は2020年7月6日、6月中旬までの入手可能な市場情報に基づき、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって急速に変化する状況や影響などを可能な限り反映した農畜産物の短期的需給見通し(注1)を公表した。
 欧州連合(EU)離脱の移行期間にある英国(注2)を含まないEU加盟27カ国が対象で、英国とは、移行期間終了後に農畜産物の関税や非関税障壁が発生しない現在と同じ状況下にあることを前提としている。
 今回、このうちの食肉の需給見通しの概要について紹介する。

(注1)欧州委員会は、農畜産物の短期的需給見通しを年3回(晩冬、初夏、初秋)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。
(注2)英国は現在、EU離脱(BREXIT)したものの、EU法の適用下の「移行期間」にある。同期間は2020年12月31日に終了予定。


<牛肉>
 2020年の牛肉生産量は、昨年12月の中期的需給見通しの前年比0.5%減を下方修正し、同1.7%の減少を見込んでいる。第1四半期(1〜3月)は全体的に減少傾向の中、ドイツ、スペイン、アイルランドなどが増産し、前年同期比0.3%増となった。しかしながら、第2四半期(4月)以降は、外食産業の営業停止などCOVID-19の影響による需要減、繁殖牛群の規模縮小、春期の乾燥による飼料供給不足のため、早期出荷が増えることなどから減産に転じるとみられている。
 また、価格については、外食産業の高級部位需要が喪失し、安価な小売品に需要が移った3月中旬以降から下落傾向にあったものの、5月初旬以降外食産業再開に伴う需要回復により回復傾向にある。
牛肉
 2020年の牛肉輸出量は、BREXITが先行き不透明なことから英国市場離れも見られる中、前年比2.0%の増加を見込んでいる。第1四半期は英国以外への輸出量が約3割増加し、全輸出量に対する英国向け割合が前年同期の6割から5割程度まで低下した。英国と隣接するアイルランドは、英国向けを前年同期比1万トン減少させる一方、アジア向け(フィリピン、中国、日本計:同6200トン増)、米国およびカナダ向け(同2200トン増)を増やした。
 一方、2020年の牛肉輸入量は、世界の主要輸出国で供給がひっ迫していることから、前年比7.0%の減少を見込んでいる。第1四半期は、主に英国と南米南部共同市場(メルコスール:アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ加盟の関税同盟)からの輸入量が前年同期比17%減となった。ブラジルは中国およびロシア向け、英国は中国、カナダ、米国、日本向けを増やしている。
 また、2020年の牛肉消費量は、外食需要の低下、国内供給のひっ迫、輸入量減により、前年比2.3%の減少(一人当たり10.4キログラム)を見込んでいる。


<豚肉>
 2020年の豚肉生産量は、昨年12月の中期的需給見通しの前年比1.2%増を下方修正し、同0.5%の増加を見込んでいる。ASF(アフリカ豚熱)がEU域内でこれ以上拡大しないという前提で、豚価が堅調であること、外食需要の回復が見られること、中国向けを中心とした輸出が堅調である他、各国の養豚産業への投資が生産を下支えすると考えている。
 また、輸出需要により前年から高水準にあった価格については、3月中旬以降から外食需要の低下により下落傾向にあったが、牛肉同様、外食産業再開に伴う需要回復により回復傾向にある。
豚肉
 2020年の豚肉輸出量は、ASFに伴う豚飼養頭数減少により、最大の輸出先である中国の需要旺盛な傾向が続くと考えられることから、前年比10.0%の増加を見込んでいる。
 また、2020年の豚肉消費量は、外食需要の低下により、前年比2.7%減少(一人当たり30.0キログラムを下回る)と見込んでいる。


<家きん肉>
 2020年の家きん肉生産量は、昨年12月の中期的需給見通しの前年比1.4%増を大幅に下方修正し、同2.0%の減少を見込んでいる。第1四半期は、主に東欧地域における投資の進展および価格上昇により、前年同期比1.8%増となったが、第2四半期からは輸出市場の不確実性が高まることにより減少に転じるとみられている。なお、家きん肉の中でも、販売先のほとんどが外食向けである鶏肉以外(鴨、ホロホロ鳥、ハト、うずら)は、COVID-19による外食産業の営業停止の影響を大きく受けている。
 また、価格については、年初にポーランドで鳥インフルエンザが発生したことによる輸出減と域内の外食需要低下が相まって下落している。
家きん肉
 2020年の家きん肉輸出量は、ポーランドの輸出減と合わせ、中国市場において競合するブラジル産のシェアが拡大し、前年比8.0%の減少を見込んでいる。第1四半期は、主要輸出先であるフィリピン(前年同期比38%増)およびガーナ(同10%増)向けが増加したものの、英国向けが同9.0%減少、全体では同8.0%減少した。
 2020年の家きん肉輸入量は、ブラジルなどの主要供給国が中国向けを増やすことなどが影響し、同10.0%減少と見込んでいる。
 また、2020年の家きん肉消費量は、外食需要の低下から前年比1.6%減少と見込んでいる。


 その他、本見通しでは、羊・山羊の2020年生産量について、COVID-19による外食需要の低下の影響が大きく、前年比1.5%減少を見込んでいる。
 欧州委員会は、EU全域において、都市封鎖(ロックダウン)などの厳しい措置が徐々に解除され、夏季休暇期間が始まるとともに、特に外食需要の回復が期待されるものの、予測される景気後退の大きさなどが個人消費にどの程度のマイナスの影響を及ぼすのか、はっきりと見通すことはできないとしている。また、貿易面でも、2020年8月1日にEUとベトナムの自由貿易協定(FTA)が発効し、EUの事業者に新たな機会が生まれる一方、BREXITや英国と他国との貿易交渉の行方は依然として見通すことができず、2020年の食肉需給には不確実性が含まれるとしている。
【調査情報部 令和2年7月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527