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野生イノシシで初のASF発生(ドイツ)

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 国際獣疫事務局(OIE)は9月10日、ドイツで初のASF(アフリカ豚熱)の発生が確認されたと発表した。
 OIEによると、9月9日に発見された野生イノシシの死体が、10日に国立研究所でASF陽性と診断された。発生場所は、同国北東部(首都ベルリンから南東へ約110キロメートル)のブランデンブルク州(Brandenburg)シュプレー=ナイセ郡(Spree-Neisse)シェンケンデーバーン(Schenkendoebern)で、ASFが多発していたポーランドとの国境からわずか5キロメートルの河川や鉄道の通る森林の中であった(図1)。
 
 ドイツ食料・農業大臣のユリア・クレックナー氏は、OIEの発表前の9月10日朝に記者会見を行い、国立研究所での3回のサンプル検査の結果、イノシシの死体1体から陽性が確認されたと発表し、今後これが単一の症例か否か慎重に証明する必要があるとした。そして、直ちに措置を講じるとし、車両などの移動および農地利用に制限をかける他、制限区域内での狩猟を禁止する一方、プロの猟師や警察の関与による野生イノシシの駆除の実施などの計画を示した。
 また、経済的な影響についても言及し、欧州連合(EU)域内では地域主義(注1)により制限区域内の事業者のみが影響を受けるものの、他の地域の事業者のEU域内でのビジネスには影響がないことを強調した。一方、国全体として輸出制限がかかる可能性のある第三国との関係については、欧州委員会、OIE、貿易相手国との継続的な連携のもと、地域主義適用の促進に努めたいとした。
 
 (注1):地域主義とは、疾病発生国であっても、清浄性(当該疾病の感染の可能性がないこと)が確認できる地域からの輸入であれば認めるもの。
図1 今回のドイツのASF発生場所
<EU食肉貿易団体の反応>
 EUレベルの業界団体である欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV:European Livestock and Meat Trades Union)は、ドイツ政府の発表後直ちに会員である食肉事業者らに情報配信を行った。UECBVによると、発生場所の半径4キロメートル以内に飼養豚はいないという。
 また、欧州委員会保健食品安全総局(DG SANTE)からの情報として、早ければ本日中(9/10)のうちに発生地域に暫定的な保護措置が採択されるとした。また、DG SANTEが月末までに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に配慮しながら、緊急チームを現場に派遣し、新たなイノシシの死体などがないか現地確認を予定しているという。

<EU生産者団体の反応>
 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)(注2)は同日にプレスリリースを行い、ドイツのポーランド国境近くでは以前から発生の可能性の高いと考えられており、周辺の養豚事業者らは感染を防ぐため、十分な準備を行っているとした。
 Copa-Cogecaの事務局長Pekka Pesonen氏は、ドイツでのASF発生確認は、欧州養豚部門全体にとっての懸念材料であるとしつつも、ドイツの迅速な対応を評価するとともに、過去に発生しながらも直ちにASFを封じ込めたベルギーやチェコの措置について言及し、養豚事業者や行政機関によるバイオセキュリティ対策がEU域内では効率的に実施されていることを示しているとした。
 また、Copa-Cogecaの豚肉部門責任者Antonio Tavares氏は、欧州委員会およびドイツが地域主義適用の促進に努めることを歓迎したうえで、養豚部門を支援するためには欧州および各国当局が効率的かつ迅速に措置を講じることが不可欠であるとした。
 
 (注2):Copa-Cogecaとは、欧州諸国の農業生産者によって構成されるCopa(欧州農業組織委員会)と、EU加盟国の農業共同組合により構成されるCogeca(欧州農業協同組合委員会)により組織された農業生産者団体。CopaとCogecaは独立した組織であるものの、両者は共同で事務局を設置し、主にロビー活動を行っている。
 
<これまでの背景と直近の状況>
 ASFは、2014年にバルト諸国とポーランドで発生して以降、徐々に感染を拡大させ、8月19日時点ではEU加盟国のうち10カ国が家畜の輸送制限などを伴う制限区域下になっている(図2)。
 現地情報によると、2020年上半期のEU域内の野生イノシシのASF感染数が、昨年の同時期に比べて約2倍に増加しており、ドイツ隣国のポーランドでは今年、すでに養豚場で82症例、野生イノシシで3000症例以上のASF感染が報告されていたという。その大部分が小規模な生産者であるものの、6500頭近くを飼養している農場の感染例もあったという。ドイツは、ASFの侵入リスクが高まる中、ポーランドとの国境に300キロメートルにもおよぶフェンスを設置していた。また、8月31日には欧州食品安全機関(EFSA)が欧州南東部でASF撲滅キャンペーンを開始すると報じられたばかりであった。
 
<ドイツの豚肉統計および日本との関係>
 ドイツは2019年に523万トン(枝肉重量ベース。EU27カ国のシェア23%)の豚肉を生産し、うち180万トン(製品重量ベース)をEU域内外へ輸出している(表)。そのうちEU域内向けが65%、EU域外向けが35%となっている。域外向けのうち最大の輸出先は中国(33万トン)で、次いで韓国(9万トン)、英国(8万トン)となっている。日本は、その次の4番目の輸出先となっており、3万4686トン(日本の豚肉総輸入量の2.7%)のドイツ産豚肉を輸入した。日本政府は9月11日、ドイツからの生きた豚、豚肉等の一時輸入停止措置を講じている。なお、ASFは豚、イノシシの病気であり、人に感染することはない。
 
図2 EUにおけるASFの発生状況および制限区域
表 ドイツの輸出先別豚肉輸出量の推移
【調査情報部 令和2年9月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527