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欧州委員会、「エコ・スキーム」として有機農業、総合的病害虫・雑草管理(IPM)、アグロ・エコロジー、アニマルウェルフェアなどの取組みを提案(EU)

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 欧州委員会は1月14日、次期(2023〜27年)共通農業政策(CAP)の下、持続可能な食料システムへの移行を目的とする「エコ・スキーム」の支援対象となる取組みの候補リストを発表した。
 「エコ・スキーム」とは、気候変動、環境、アニマルウェルフェア、薬剤耐性(AMR)を対象に取り組む生産者に対し、CAPで実施している生産者の所得補償である直接支払いに加算するもので、現行の環境対策である「グリーニング支払い」に代わるものである。

 欧州委員会は、2050年までにEU域内の温室効果(GHG)ガス排出量を実質ゼロ(気候中立)とする「欧州グリーン・ディール」政策を掲げているが、「エコ・スキーム」はその一環であり、農業・食料部門を対象とした「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略および「生物多様性」戦略に沿ったものである。なお、Farm to Fork戦略では、2030年までに達成すべき目標として、農薬使用量およびリスクを50%削減、肥料使用量を少なくとも20%削減、家畜や養殖に使用される抗菌剤販売量を50%削減、有機農地シェアを25%にすることなどが掲げられている*。
*詳細についてはこちらを参照ください。
(EUの「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略について〜2030年に向けて、持続可能性(サステナビリティ)を最優先課題とするEU農業・食品部門〜(「alicセミナー」2020年12月14日))

 欧州委員会は今回の発表の中、「エコ・スキーム」に以下の4つの主要な目的を挙げている。
(1)再生可能エネルギーへの転換のみならず、気候変動の緩和および適応への貢献
(2)持続可能な開発と水、土壌、大気などの天然資源の効率的な管理の促進
(3)生物多様性の保護への貢献、生態系の公益的機能の強化および生息地や景観の保護
(4)アニマルウェルフェア向上および薬剤耐性(AMR)への対応

 また、具体的な支援対象となる取組みの候補リストはEU規則に基づく下記(1)、(2)をはじめ、(3)以降を含めた合計12項目となっている。
(1)有機農業(EU規則(EU)2018/848に基づく)
 …有機農業への転換および継続。
(2)総合的病害虫・雑草管理(IPM)(EU指令2009/128/ECに基づく)
 …慣行と無農薬間の緩衝地帯の管理。機械的な雑草防除(管理機による除草)。強靭かつ害虫抵抗性のある作物品種および種の使用。生物多様性の確保に配慮した休耕地の管理。
(3)アグロ・エコロジー
 …マメ科作物との輪作。混作と多毛作。果樹などの永年性作物間の被覆作物の使用。冬期の土壌の被覆作物と間作物の使用。草地への負荷の低い家畜飼育システムの実施。気候変動に強い作物品種・種の利用。生物多様性(授粉、鳥類、狩猟用動物)のための単一種によらない多様な永年草地の確保。メタン排出削減のための稲作の改良(例:湛水と落水を交互に行う間断かん水)。有機農業規則で定められた農法および基準の実践。
(4)畜産・アニマルウェルフェア
 …適切な飼料および水の管理。1頭当たりの飼養スペースの拡大、畜舎内の床の改良(毎日敷料を交換等)、豚の自由分娩、改善された環境の提供(豚の哺乳、家きん用の止まり木や営巣材料の提供)、熱ストレスに対応する遮光・スプリンクラー・換気などの提供。有機農業規則で定められた行為と基準の実践。乳牛の供用年数、低排出畜種の飼養、遺伝的多様性の推進といった家畜の強靭性、繁殖力、長寿、適応力を高める飼養法の実践。抗生物質を必要とする感染症のリスク減に有効な全ての家畜飼養方法を含む家畜衛生管理計画。放牧地へのアクセスの提供および放牧期間の延長。屋外への定期的なアクセスの提供および管理。
(5)アグロ・フォレストリー
 …景観機能の確立と維持。景観機能の管理と伐採計画の実施。生物多様性の高い林間放牧システムの確立と維持。
(6)高い自然的価値(HNV)の農業
 …生物多様性(授粉、鳥類、狩猟用動物)を目的とした種多様性による休耕地の管理。オープンスペースと永年性作物圃場での牧羊、移牧および一般的な放牧による牧羊。半自然的な生息地の創出と強化。肥料使用量の削減と作物の粗牧管理。
(7)カーボン・ファーミング
 …環境保全型農業の実践。湿地・泥炭地の再湿潤化および泥炭地での林業・農業の実践。冬期の地下水位を最低限まで下げること。圃場残さの適切な管理(例:圃場残さん鋤込み、圃場残さへの播種)。永年草地の確立と維持。永年草地の広範な利用。
(8)プレシジョン・ファーミング(精密農業)
 …養分管理計画、養分流亡を最小限に抑えるための革新的なアプローチの利用、養分吸収に最適なpH、循環型農業の実践。投入材(肥料、水、植物保護製品)を削減するための精密農業の実践。灌がい効率の向上。
(9)土壌・栄養管理の改善
 …硝酸塩対策の実施。養分過多による水質・大気・土壌汚染対策(土壌分析、養分トラップなど)の実施。
(10)水資源の保護
 …作物の水要求量の管理(水要求量の低い作物への転換、作付け日の変更、灌がいシステムの最適化)。
(11)土壌に有益なその他慣行
 …防砂帯および防風帯の確保。段々畑や帯状栽培の確立や維持。
(12)温室効果ガス排出に関するその他の取り組み
 …腸内発酵からの排出量を減らすための飼料添加物の使用。家畜排せつ物の管理および貯蔵の改善。

 欧州委員会のボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員は同日、自身のツイッターで今回の「エコ・スキーム」に係る提案内容について情報発信するとともに、16日には議論の中心になっていたアニマルウェルフェアについて、「エコ・スキームによる直接支払いによって、高いアニマルウェルフェアを実践する生産者に対価を支払いたい」と発信した。
 現在、欧州委員会は、欧州議会、EU理事会との間でCAP改革の三者協議を進めており、今回の発表はその一環である。「エコ・スキーム」の取組要件および支払額については各加盟国が設定することとなるが、現地報道などによれば、当該予算について、各加盟国が直接支払い予算の20%と提案しているのに対し、欧州議会は30%を要求するなど交渉は難航しているようである。「エコ・スキーム」が、将来のEU農業生産者の方向性を示す部分も多く、今後の三者協議の動向に対する業界関係者の関心は高い。
【調査情報部 令和3年2月5日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527