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世界最大の食肉企業JBS社へのサイバー攻撃による操業一時停止の影響(その1:米国)

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1.経緯と対応

 ブラジルに本社を置く世界最大の食肉企業JBS S.A.(注)の子会社である米国JBS社は2021年5月30日、ランサムウエア(金銭を脅し取ることを目的とした不正プログラム)によるサイバー攻撃を受け、豪州と北米の事業所のITシステムに影響が出ていると発表した。
(注)豪州や米国などの食肉企業の買収などにより、現在、世界最大の食肉企業(2020年)。ブラジルを中心に、豪州、米国、カナダ、ウルグアイ、パラグアイなどで牛肉、豚肉、鶏肉の生産・加工を中心に事業を展開。
 米ホワイトハウスのジャンピエール副報道官も本事案を発表し、同社から、影響を受けたすべてのシステムを一時停止し、食肉処理施設の稼働を停止したことについて、当局に報告があったとした。
 これを受け、米国農務省(USDA)は6月1日、ホワイトハウス、国土安全保障省、米国JBS社などと緊密に連携して状況を注視するとし、牛肉・豚肉の供給や価格への影響を抑えるため、複数の米国内の大手食肉加工業者に連絡を取り、可能な限り食肉処理量を増やし、供給量を維持することへの協力を求めた。
 JBS S.A.の対応としては、5月31日は米国が祝日であったため、まずカナダと豪州の食肉処理施設の稼働を停止し、6月1日に米国内の複数の食肉処理施設の稼働を停止した。しかしながら、JBS S.A.は復旧・再稼働に向けて迅速な対応をとり、2日には米国および豪州の食肉処理施設の大部分の稼働を再開し、3日には国内外全ての施設の稼働を再開するに至った。米国JBS社は、施設の稼働停止によって生じた同社の損失は生産量ベースで1日分以下に抑えられたことから1週間程度で取り戻せると見込んでおり、従業員のみならず生産者や消費者への影響も最小限に抑えることができたとしている。また、同社のCEOであるアンドレ・ノゲイラ氏は、生産者と消費者に影響が出ないよう生産システムの復旧を優先して対応してきたが、暗号化されたバックアップサーバーが攻撃を受けなかったことから予想以上に早い稼働再開ができたと述べた。

2.米国JBS社の施設稼働停止による一時的なと畜頭数減少

 USDAの「Daily Livestock Slaughter」によると、本事案の発生後の米国のと畜頭数(速報値)は次のとおりである。米国JBS社の食肉処理施設の稼働を停止していた6月1日のと畜頭数は、牛が9万5000頭(前週同曜日比22.1%減)、豚が39万頭(同19.6%減)と大幅な減少となった。牛および豚のと畜頭数の減少率は同社のと畜頭数のシェアとほぼ一致しており、この減少は本事案の影響によるものとみられる。その後、大部分の施設が稼働を再開した2日には牛が10万6000頭(同12.4%減)、豚が43万9000頭(同9.1%減)と回復傾向を示した。そして、全ての施設が稼働を再開させた3日には牛が12万1000頭(同0.8%減)、豚が47万頭(同2.3%増)と稼働停止前の水準まで回復し、4日には牛が12万0000頭(同1.7%増)、豚が47万8000頭(同12.5%増)と増加傾向を示した(表および図1)。なお、通常は多くの食肉処理施設が休業となる土曜日の6月5日においても、牛と豚のと畜を行ったことから。牛は9万8000頭(同188.2%増)、豚は19万6000頭(同790.9%増)が処理された。
表 牛および豚の1日当たりと畜頭数
図1 牛および豚の1日当たりと畜頭数
図2 牛肉・豚肉卸売価格の推移

3.牛肉・豚肉卸売価格への影響はほとんど見られず

 USDAの「National Daily Cattle Beef Summary Report」によると、100ポンド当たりの推定牛肉卸売価格(チョイス級、カットアウトバリュー)は、米国JBS社が複数施設を稼働停止した6月1日が249.60米ドル(1キログラム当たり610円:1米ドル=111円)となり、稼働停止前である5月28日の247.79米ドル(同606円)を上回った。その後、6月2日が252.42米ドル(同618円)、3日が252.44米ドル(同618円)、4日が251.67米ドル(同616円)と緩やかに上昇傾向で推移している(図2)。また、「National Daily Hog Pork Summary Report」によると、100ポンド当たりの推定豚肉卸売価格(カットアウトバリュー)も、6月1日が127.12米ドル(同311円)となり、5月28日の126.59米ドル(同310円)を上回った。その後、6月2日が129.59米ドル(同317円)、3日が131.52米ドル(同322円)、4日が132.63米ドル(同325円)と緩やかに上昇傾向で推移している(図2)。
 しかしながら、牛肉および豚肉卸売価格は、新型コロナウイルス感染症による影響からの需要回復、食肉処理・加工分野の労働力不足などの要因により、図2に示しているとおり、既に上昇傾向にあった。つまり、同社の一部の施設では概ね2日程度の稼働停止を余儀なくされたものの、価格に影響を与える要因としては極めて限定的であったと考えられる。
 なお、同社によると、本事案により、顧客や従業員などの情報の漏洩や悪用の形跡は確認されていない。また、USDAは、複数の食品・農業・小売関連団体に対して、今後の食料の安定供給の確保に向け、緊密なコミュニケーションと連携の重要性を強調し、米国内の食品・農業関連企業に対し、ITおよびサプライチェーンのインフラの保護に必要な措置を講じるよう、引き続き働きかけている。こうした働きかけは、サイバーセキュリティ対策を含む現代の課題に耐え得るITおよびサプライチェーンのインフラの耐久性向上と分散化が目的とされる。
【岡田 卓也 令和3年6月10日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部  (担当: 国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397



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