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乳業各社、2021/22年度の当初乳価を発表(豪州)

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豪州の乳業各社は、6月1日までに酪農業界における行動規範(注)(Dairy code of conduct)発効後2回目となる2021/2022年度(7月〜翌6月)の当初乳価(年度当初に乳業各社などが設定する最低生産者支払乳価〈生産者への支払乳価の最低価格〉)を発表した(表)。当初乳価とは、行動規範に基づき、毎年6月1日までに乳業各社などに公表が義務づけられている最低生産者支払乳価(生産者への支払乳価の最低価格)であり、各社はその後の業績などを踏まえて期中に改定することができる(ただし、遡及して引き下げることは禁止されている)。
新年度の当初乳価は、国際的な乳製品価格の上昇などを背景に、全体として今年度より高く設定されており、現地報道によると、「多くの生産者が広く利益を得られるレベル」との専門家のコメントが報じられている。
各社の動向を見ると、豪州最大手のサプート・デイリー・オーストラリア社(以下「豪州サプート社」という)は6月1日、主要酪農生産州であるビクトリア(VIC)州などの当初乳価を乳固形分1キログラム当たり6.65豪ドル(注1)(579円:1豪ドル=87円)と発表したが、各社の当初乳価が出揃った同日から3日後の6月4日、これを6.85豪ドル(596円)に引き上げると発表した。
また、ニュージーランド最大手フォンテラ社の豪州法人である豪州フォンテラ社も6月4日、当初、同6.55豪ドル(570円)と発表していた当初乳価を同6.85豪ドル(596円)へと引き上げた。同社は、「酪農家が今後の生産計画を立てやすくするため(ほかの乳業各社に先駆け)5月10日に当初乳価を発表したが、その時点から、国内および輸出契約の最終的な確認を終える6月に価格改定を行うことは公表していた」とした上で、今回の同30セント(26円)の引き上げに対し、「特に日本とのチーズ契約で良好な成果を得ることができた結果」と述べている。
さらに、2021年、日本のキリンホールディングス社の孫会社であるライオン・デイリー・アンド・ドリンクス社を買収したベガ社(注2)も、VIC州南部と南オーストラリア州東南部の酪農家に対して同6.80豪ドル(592円)、VIC州北部とニューサウスウェールズ州にかかるリベリナ南部の酪農家に対して同7豪ドル(609円)などと発表していた当初乳価を、6月10日に、「自社の競争力を高めるため」として、それぞれ同6.94豪ドル(604円)および同7.09豪ドル(617円)へと引き上げた。
その他、2016年に中国乳業最大手の蒙牛乳業の傘下に入ったバラ社は、「国内外の乳製品の継続的な需要を獲得できた結果」として、当初乳価を昨年から30セント(26円)高い同6.40〜6.50豪ドル(557〜566円)と発表した。また同社は、今後も需要は堅調に推移すると見込んでおり、年度を通して乳価を見直し続けるとしている。
表 主要各社の主な当初乳価
また、乳業各社以外でも、豪州の小売大手コールズが自社のプライベートブランド牛乳およびチーズへの生乳供給を目的に、酪農家との直接契約を拡大する動きをみせている。現地取材に対しコールズは、酪農家と直接契約するメリットについて契約農場の持続可能性への取り組みにコールズが直接投資できることと述べており、これまで、契約農家と協議しながら、各種機械や市場データの提供、熱ストレスを軽減する新技術のトライアルなどを行ってきたとしている。なお、当初乳価はVIC州などの酪農家に対して同7.19豪ドル(626円)としている。
コールズと酪農家との直接契約は2019年からVIC州などで開始され、今回新たにタスマニア州も対象としている。現地取材に対しコールズは、現在の直接契約農家数は60戸程度であるが、100戸程度に増えると見込んでいるとコメントするなど今後の拡大に意欲を見せている。なお、コールズは、肉用牛など他の畜産物でも直接取引を行っている。
こうした中、豪州連邦政府は、発効から2年目を迎えた行動規範について見直しに向けた検討を始めており、今年7月5日から8月15日かけてパブリックコメントを行うなど、国民から広く意見を聴取しながら年内に結論を得ることとしている。この見直しについて豪州連邦政府のデビット・リトルプラウド農業・干ばつ・緊急事態管理担当相は、「行動規範が意図した通りに運営されているか、乳業業界が必要とする成果をもたらしているかを評価するために重要」とし、「酪農家にとってより公平な環境を確保することを約束する」と述べている。行動規範については、今後も定期的な見直しを行うとされており、次回の見直しは2023年に予定されている。
(注1)最低生産者支払乳価は、乳質や出荷量に応じた額の調整などが行われる前のものであり、通常は、乳脂肪および乳タンパク質1キログラム当たりの単価で出荷月ごとに設定される契約が多いが、ここでは全体像を示すため、各社発表や現地報道をもとに乳固形分(乳脂肪と乳タンパク質の合計)1キログラム当たりの新年度当初乳価の単価水準を示している。
(注2)詳細は、海外情報「ライオン社、乳製品・飲料事業のベガチーズ社売却に合意(豪州)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002835.html)を参照されたい。
【阿南 小有里 令和3年6月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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