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欧州議会、畜産分野でのケージの使用の段階的な禁止を求める決議を採択(EU)

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 欧州議会は6月10日、2027年までに畜産分野でのケージの使用の段階的な禁止を求める法的拘束力のない決議を賛成多数で採択した。なお、今回の決議は、欧州市民イニシアチブ(注1)に基づく提案を受けて行われたものである。
 禁止の対象は、採卵鶏、ウサギ、ブロイラー繁殖、採卵鶏繁殖、うずら、アヒル、ガチョウそれぞれに使用されるケージ、妊娠豚の分娩柵、母豚のストール(まだ禁止されていない場合)、カーフハッチ(まだ禁止されていない場合)としている。なお、アヒルとガチョウについてはケージの禁止と共にフォアグラ生産のための強制的な給餌の禁止も求めている。

 今回の採択に際し欧州議会は、欧州委員会に対し、法的拘束力はないものの適切な移行期間を設置し、科学的な影響評価を実施した上で2027年までにEU域内でのケージの使用を禁止するための立法案を作成するよう求めた。また、ケージの使用を禁止するに当たっては、畜種ごとの飼養状況を勘案する必要があるとし、適切な移行期間を設けるとともに、生産者が競争力を維持するための助言や財政的な支援を行わなければならないとしている。さらに、EUに輸入されるすべての畜産物が同じ条件(ケージフリー)で飼育されていることを含め、関連するEUの法律を遵守して生産されるべきとした。加えて締結済みの貿易協定を見直し、EUと同様の動物福祉と製品の品質基準を満たすべきとしている。

 今回の採択を受けてEU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca(注2))は同日、欧州委員会に対する欧州議会の要請を歓迎していることを公表した。この中でCopa-Cogecaは、欧州委員会は、畜産分野には生産者価格や設備投資の点で多様なニーズや経済的な前提条件があることを考慮しなければならないとしており、ケージの使用の段階的禁止の時期を設定する前に、科学的および農学的根拠に基づく包括的な影響評価を求めるとの要請を歓迎した。

 一方でCopa-Cogecaは、欧州議会の採択は、輸入品の問題をはじめとして、多くの議論の中で無視されてきた基本的な矛盾点について欧州委員会に警告しているとした。輸入品の問題に関して欧州議会の回答は明確であり、EUに輸入される家畜製品の飼育環境について、現時点で輸入先国での飼育環境は「一般的には検証できない」としている。また、Copa-Cogecaは、締結済みの貿易協定の見直しについては、すでに60以上の二国間協定が締結されている中、実現可能性について疑問を呈している。

 Copa-CogecaのPekka Pesonen事務局長は、「ケージの使用が禁止された場合、生産者の中には対応できない者も出てくるため、EUの畜産生産の取組における一貫性に対して問題を引き起こすことになる」と警告を発した。また、「欧州委員会は、(EU産品と)輸入品との二重基準をどのように回避するかを示すだけでなく、ケージの使用禁止により影響を受けやすい小規模農家をどのように守っていくのか、そして(価格転嫁が予想される)食料価格をどのように安定させるかを示さなければならない」としている。

(注1)EU が権限を持つ政策分野について、加盟国7カ国から計100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度

(注2):Copa-Cogecaとは、欧州諸国の農業生産者によって構成されるCopa(欧州農業組織委員会)と、EU加盟国の農業協同組合により構成されるCogeca(欧州農業協同組合委員会)により組織された農業生産者団体であり、主にロビー活動を行っている。CopaとCogecaは、独立した組織であるものの、両者は共同で事務局を設置している。
【小林 智也 令和3年6月22日発】
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