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食肉・食鳥処理の新規参入促進に向けて5億米ドルの支援を発表(米国)

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 2021年7月9日、米国農務省(USDA)は畜産農家にとっての新たな市場へのアクセスを容易とすべく、また、公正で競争力を有して回復力のある市場とすべく、食肉・食鳥処理加工能力の向上に向けて米国救済計画(American Rescue Plan)資金から5億米ドル(560億円:1米ドル=112円)を拠出する食肉・食鳥処理加工能力向上支援を発表した。

食肉・食鳥処理加工能力向上支援

 USDAによると、補助金交付や融資等により新たな食肉・食鳥処理施設の整備・運営を支援することで、現状の食肉・食鳥の処理・加工部門に生じている寡占化を改善する狙いがあるとされている。
 また、USDAは、食肉・食鳥処理・加工部門の競争力強化に向けた意見を幅広く募るため、利害関係者を対象とする情報提供要請(RFI:Request for Information)を実施した。そのほか、食肉処理・加工部門に関わる関係業界との会合を一般参加者も募って開催する予定としている。
 今回の発表は、バイデン大統領の競争促進に関する大統領令に基づき、USDAがより弾力性のあるサプライチェーンと、より適切なフードシステムの構築に向けて取り組む措置の一つである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)は、畜産農家や食品関係事業者、さらには、消費者にも大きな混乱をもたらし、脆弱化したフードシステムを露呈させた。そして、規模の大きさが重要視される食肉・食鳥処理システムの中で、畜産農家や食肉処理・加工部門に従事する者の収入は年々減少しているとされる。今回の発表に即し、ビルサック農務長官は、「USDAは生産者と消費者のために、フードシステムにおけるパワーバランスを取り戻し、適切かつ公平な多くの市場を構築するために予算を措置する」との目的を示した。また、「これはフードシステムを変革する千載一遇のチャンスであり、これにより畜産農家や労働者に価値を与え、消費者には手頃な価格で多種多様な価値に富む食品が提供されるようになる。さらにUSDAの予算措置は民間企業や州・地域からの資金拠出を促し、全国的な広がりとなるものと確信している」と幅広い効果の普及を表した。

これまでに発表されたUSDAによる取り組みおよび支援措置

 USDAは7月初旬、いわゆる「Build Back Better(より良い再建を)」構想を通じて、重要なサプライチェーンの強化に総額40億米ドル(4480億円)以上を措置する計画を発表した。同計画はバイデン政権が掲げた「独占と戦い、経済全体の競争を促進する」という公約の一環であり、今後数カ月の間にも、同構想の下で追加措置を行う予定とされている。なお、これまでにUSDAが発表した同計画に基づく支援は以下のとおりである。

(1)食肉・食鳥処理加工能力向上支援 【5億米ドル】

 食肉・食鳥処理加工業における競争力のある新規参入を促進するために、補助金、融資および技術支援により、新たな食肉・食鳥処理施設の整備・運営を支援する。これにより、食肉・食鳥分野における寡占化を改善し、畜産農家に販売先の選択肢を与え、公正な価格での取引に資することとする。

(2)小規模・超小規模食肉・食鳥処理施設の体制強化 【1億5520万米ドル】

(1) 小規模・超小規模施設における食肉加工能力の強化(5520万米ドル)
 「食肉・食鳥検査準備助成(MPIRG:Meat and Poultry Inspection Readiness Grant)プログラム」に5520万米ドル(61億8240万円)の予算を措置し、確実な検査・食品安全基準を維持しつつ、食肉・食鳥の処理・加工能力と効率の向上を支援する。

注1:詳細は、「【海外情報】米国農務省、食肉および食鳥処理施設の能力向上に5520万米ドルを投入(米国)(令和3年7月14日発)」を参照。

(2) COVID-19に影響を受けた小規模・超小規模施設への緊急支援(1億米ドル)
 1億米ドル(112億円)の予算を措置し、COVID-19による影響により大規模施設に出荷できなかった家畜を受け入れた小規模・超小規模施設に対して、処理・加工等に係るコストの増加分を支援する。

(3)家族経営の畜産農家のための条件の公平化 【制度整備】

(1) パッカー・ストックヤード法を強化し、競争力のある市場の再構築
 パッカー・ストックヤード法は公正で競争力のある市場を確保し、食肉業界の大企業による不正行為から農家を守るために作られた法律である。同法を効果的に執行するため、以下の3点について規則を制定する。
@)畜産農家に対する不公正で欺瞞的な行為、不当な優遇、不当な偏見といった同法における違反行為の明確化
A)新たな「家きん生産者トーナメントシステム」による鶏肉処理に対する抑圧的な慣行の排除
B)同法に基づき訴訟を起こす際、訴訟当事者が競争に害を及ぼすことを証明する必要がないことの明確化

注2:詳細は、「【海外情報】米国農務省、生産者や消費者の利益確保に向けた法律の強化に着手(米国)(令和3年6月24日発)」を参照。

(2) 畜産農家による新たな市場へのアクセス向上および収益力促進に係る計画の策定
 競争力強化に関する大統領令に基づき、地域の食肉流通システムへの支援等によって畜産農家が市場にアクセスする機会を増やす計画を策定する。さらに、小売業の市場への集中等が家族経営に与える影響を分析し、主要市場における取引の透明性と説明責任を強化する政策を提案する。これらの取組により、畜産農家は売買方法の選択肢を増やすことができ、一部の偏った加工業者や流通業者のみに依存せずに済むようになる。

(3) 「Product of the USAラベル」の全面的な見直し
 米国内の畜産農家が消費者を欺くような外国企業と競争しなくても済むように、米国産基準の執行を強化した米連邦取引委員会(FTC)の決定を受け、2021年7月1日にUSDAが発表した製品ラベル「Product of the USAラベル」を全面的に見直し、ラベル表示に関する新しい規則を制定する。

業界の反応

 全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)(注3)は、USDAの支援措置の発表を受けてプレスリリースを発出し、肉用牛農家が抱えた深刻な問題に迅速に対応したとしてバイデン大統領とビルサック農務長官に謝意を表明した。NCBAのレイン副代表は、「我々の最優先課題は、生産者のビジネス環境を向上させることであり、バイデン大統領とビルサック長官が「Product of the USAラベル」の改善のほかにも、地域の処理・加工能力の向上に向けた支援など生産者に影響を与える最重要課題に対してリーダーシップを発揮し、迅速に行動してくれたことに感謝したい。今回の支援措置は、安定した牛肉のサプライチェーンの確保、生産者の収益性向上に繋がる重要なステップである」と述べた。
 一方で、北米食肉協会(NAMI)(注4)は同日、今回の支援措置について否定的な声明を発表した。NAMIのポッツCEOは、「パッカー・ストックヤード法」に関連する規則制定を求めた大統領令は、生産者や消費者に意図しない結果をもたらすことになるだろう。市場への政府の介入は、パンデミックにより経済的な困難が見られる中で、消費者の食費を上昇させることになる。そして、訴訟の門戸を開くことになり、畜産農家が家畜を自在に販売することができなくなる。今回、USDAが発表した取組・提案はこれまでにも繰り返し検討され、そして却下されてきた。また、食肉・食鳥市場は市場構造が問題なのではなく、労働力不足やCOVID-19のパンデミックに起因する課題が問題となっているのだ。これらの業界が直面する問題について、我々は政府と議論し、協力することが可能だ」と述べた。

注3:肉用牛生産者のための全国団体。米国の肉用牛生産に係る経済的、政治的、社会的利益を促進。
注4:米国の牛肉、豚肉、七面鳥等の処理・加工業者と流通関係業者を代表する業界団体。食肉・食鳥業界に影響を与える法律、規制等の最新情報や分析結果を会員に提供するほか、業界を代表した政策提言を行う。


【調査情報部 令和3年7月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397