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食肉・乳製品の摂取を推奨するキャンペーンに反対するヴィーガン協会などの苦情を却下(英国)

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 英国広告基準局(ASA)(注1)は8月18日、英国農業・園芸開発委員会(AHDB)(注2)が2021年1月より開始した消費者向けの食肉および乳製品の摂取を推奨するキャンペーン「We Eat Balanced」に対して、ヴィーガン協会や動物愛護団体などが消費者に誤認を与えるとする苦情を支持しないことを発表した。

AHDBが食肉や乳製品の摂取を推奨する広告を掲載

 AHDBが1月に開始した同キャンペーンは、150万ポンド(2億3550万円、1ポンド=157円)の予算を投じ、健康的なライフスタイルと言えるバラエティーに富んだバランスのとれた食事として食肉や乳製品を食べることを推奨するものであり、テレビ、新聞、YouTube、Facebookなどに広告を掲載した。広告では、食肉と乳製品がビタミンB12とタンパク質の供給源であるとともに、ビタミンB12は疲れや倦怠感を軽減し、タンパク質は骨の維持に貢献すると紹介した。また、牛肉、豚肉、羊肉、牛乳に含まれるビタミンB12は、ヴィーガン(注3)の食事には含まれない必須栄養素であるというメッセージが一部の広告に含まれていた。

ASAがAHDBによる広告に対する苦情を受け、調査を実施

 ASAは、ヴィーガン協会や動物愛護団体などからこの広告が以下の理由により誤解を招くとの苦情(487件)を受け、調査を行っていた。
(1)健康的でバランスのとれた食生活を送るためには、食肉や乳製品の摂取が必要であることを暗示しているが、そうではないことを示唆する証拠があり、誤解を招いている。
(2)ビタミンB12を摂取するためには、食肉や乳製品の摂取が必要であると誤解を招くような表現をしている。
(3)英国で食肉向けに飼養されている家畜は、屋外で放牧されており、環境への負荷が少ないことを暗示しているが、実際にはそうではない。

AHDBは広告の正当性を主張

 ASAの調査に対してAHDBは、英国で生産された食肉と乳製品の持続可能性について、消費者の誤解を解消し、食肉と乳製品がバランスのとれた食生活に果たしている役割を強調したかったと説明した。また、今回の広告について、食肉と乳製品は英国政府が健康的な食生活を実践するためのツールとして作成しているフードガイド(Eatwell Guide)に含まれているとして、国民保健サービスやヴィーガン協会のウェブサイトで実証されているように植物由来の食品がビタミンB12の供給源ではないという認識を高める意図があったとしている。さらに、英国の家畜が一般的に屋外で放牧されていることは事実であり、英国の畜産は土地に根ざし、人間が食べることが出来ない植物などを利用して食肉や乳製品を生産しているという広告の内容は、英国の典型的な牛肉、羊肉、乳製品の生産システムや屋外養豚を反映していると主張した。

ASAはAHDBの広告が消費者の誤解を招くものではないと結論

 ASAは調査の結果、以下の理由から、広告は消費者に誤解を招くようなものではないと結論づけた。
(1)広告では、食肉や乳製品を摂取しなければ、健康的でバランスのとれた食生活を送ることができないとは書かれておらず、消費者がこの広告を、食肉や乳製品の摂取が健康に必須であると解釈することはない。
(2)ベジタリアンとヴィーガンの食生活に関する国民保健サービスのガイドで、ビタミンB12は動物性食品にのみ含まれており、ヴィーガンのビタミンB12摂取源は、サプリメントなどであると述べられている。そのため、消費者は、ビタミンB12が植物性食品には含まれていないが、サプリメントなどから容易に摂取できると理解しているので、ヴィーガンは十分なレベルのビタミンB12を摂取することができないという印象を与える可能性は低い。
(3)消費者は、広告の家畜の画像が、英国で飼育されている一部の牛、羊、豚を代表するものであると考え、当該広告が英国のすべての畜産を表すもので、環境への負荷が少ないことを示唆するものとは考えない。

ヴィーガン協会及びAHDBの反応

 現地報道によると、今回のAHDBの広告に対するASAの結論に対してヴィーガン協会は不服とし、1月はVeganuaryキャンペーン(注4)により記録的な数の人々がヴィーガンの食生活に挑んでいた時期で、そこにAHDBは同キャンペーンの広告をぶつけて、意図的に人々を誤った認識に導かせようとしていたと不満を述べた。
 一方で、AHDBは、今回のASAの結論を英国の農畜産業にとって重要なものであると述べ、ASAの結論を喜ばしく思うとともに指摘されたすべての点が慎重に検討されたことに感謝した。また、この結論は、バランスのとれた食生活の一環として食肉と乳製品を摂取することの利点を引き続き訴え続けることができる重要な日となったと述べた。

(注1)英国の独立した広告規制機関。広告に関する苦情があった場合には、広告内容等を調査し、広告コードなどに違反がないか評議会で審査を行い、違反があった場合には、必要な変更等を加えるよう裁定を下す。また、苦情が評議会によって、支持されないと判断された場合には、それ以上の措置は取られない。

(注2)AHDBは、牛肉、羊肉、豚肉、酪農、穀物・菜種、ばれいしょ、園芸作物の販売促進、輸出プロモーション、市場調査、研究開発、情報収集など、さまざまな活動を行っているイギリスの政府外公共機関。

(注3)英国の国民保健サービスのHPでは、食肉、魚貝類、動物性副産物のほか、卵や乳製品などの動物性食品を食べない人々のこと指している。

(注4)VeganとJanuaryを組み合わせた造語であり、英国の非営利団体が1月の1カ月間、もしくはそれ以降も継続してヴィーガンの食生活に挑戦することを促すキャンペーン
【小林 智也 令和3年8月27日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527