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豪州製糖団体、持続可能なサトウキビ供給体制に向けた方針を公表

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最終更新日:2021年11月17日

 豪州の製糖業者が加盟する豪州砂糖製造業者協議会(ASMC)は2021年10月、現状のサトウキビ生産を踏まえ、持続可能な手法による業界が目標とする3400万トンの供給体制の実現に向けた方針を公表した。

 これによると、近年、クイーンズランド(QLD)州南部を中心に、同国のサトウキビ生産地では、バナナ、アボカドなどの他品目や放牧地、人工林などへの転換のほか、太陽光発電施設の設置などの理由により、サトウキビの栽培面積と供給量が減少し、製糖工場の稼働率も低下している状況にあるとしている(図1、図2、表)。
図1
図2
表
 これに対応するため、ASMCをはじめとした豪州の砂糖業界では、以下の取り組みを行っている。
・今後20年の産業ビジョンとロードマップの策定(2022年初頭公表予定)
・豪州砂糖研究センター(SRA)(注1)の戦略と運営モデルの変更
・業界内における定期的な会合(業界リーダーズフォーラム)の開催
・政策や規制の改善のための政府との対話(活性化アジェンダ)
(注1)サトウキビ生産者、製糖企業、連邦政府およびQLD州政府の拠出基金によって、サトウキビおよび砂糖の生産性の向上のための技術研究を行う非営利組織。

 さらに、同業界では、産業ビジョンとロードマップ策定に向けた指針として、次の三つの目標を設定している。
1.QLD州の年間のサトウキビ供給量を、過去10年平均の3040万トンから10年以内に3400万トンまで増加させる
2.サトウキビの栽培面積を維持する
3.多様な付加価値化などを図ることにより、補完的に収益を増やす

 1について、目標の3400万トンの供給量はQLD州内のサトウキビ製糖工場の処理能力の合計値であり、これが達成されれば製糖工場は付加価値のある多様なプロジェクトに投資することができるとしている。また、天候やサトウキビ価格の影響を除き、本目標を達成するためには、より効率的かつ積極的な優良品種開発・普及の取組みなどが必要としており、現在、SRAの年間予算である3000万豪ドル(26億4000万円:1豪ドル=88円(注2))のほとんどが、この品種開発に充てられている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2021年10月末TTS相場。
 2について、収穫後20時間以内に加工しないと品質が劣化するとされるサトウキビの特性上、これまで製糖工場から概ね30キロメートル内での栽培が行われてきたが、今後はより広範な地域での栽培が可能となるよう、品質維持のための水の供給と輸送に関するインフラ整備が必要としている。同時に、サトウキビ栽培に適した優良農地保護の強化に向け、州政府による規制も必要としている。
 また、3について、サトウキビ農家の持続可能な収益向上のため、栽培に関するコストを削減するための取組みが必要としている。特に、豪州砂糖産業におけるコージェネレーションシステム(注3)などによる砂糖生産以外からの収益は、全体のわずか13%にとどまっているが、タイでは同33%、ブラジルでは同61%を占めており、潜在的に豪州の砂糖生産以外の収益を拡大できる余地があるとしている(図3)。さらに、バイオプラスチック(注4)製造に関する企業との連携なども必要としており、豪州北部の産業問題に取り組む北部豪州開発共同研究センター(CRCNA)は、今後の豪州砂糖業界について、砂糖生産だけでなく、バイオエタノールやバイオプラスチックなどの代替市場参入の可能性を秘めたマルチ製品を生み出す「シュガープラス」業界を目指していくとしている。
(注3)二つのエネルギーを同時に生産し供給するしくみを指し、熱電併給システム(発電装置を使って電気をつくり、発電時に排出される熱を回収して、給湯や暖房などに利用)が主流となっている。本稿ではサトウキビの搾りかす(バガス)などを燃焼することで得られる電力と熱を供給するシステム。
(注4)QLD州をはじめとした豪州の多くの州では、使い捨てプラスチック製品の使用が段階的に禁止されているが、QLD州のサトウキビ生産者団体であるCANEGROWERSは、この動きは再生可能なサトウキビの糖液や繊維質を用いた食品用ラップ、バッグ、ストロー、食器などの利用拡大に絶好の機会である旨の声明を公表している。
図3
 ASMCは、これらの取組みを通じて豪州砂糖業界が栽培面積を維持したまま3400万トンのサトウキビ供給目標値を達成することは、野心的な目標であり、困難を伴うものとしつつも、実現に向けて挑戦する必要があるとしている。また、砂糖生産における長期的な持続可能性を見出すにはどうすればよいか、関係者間でより深い議論を喚起することが重要としている。


【調査情報部 令和3年11月17日発】
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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