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海上輸送の管理等強化を目的とした米改正海運法案が下院を通過(米国)

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 米国の下院は2021年12月8日、2021年米国改正海運法(HR4996)を本会議で可決した。この改正法案は、同年8月10日に超党派の2人の議員によって下院に提出され、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)が国際海上輸送に深刻な影響を及ぼす中で、サプライチェーンにおける深刻な遅延や、一部の海上輸送業者(船会社)による不公正な行為に対処することを目的としている。同改正法案は、今後、上院で審議されるが、可決された場合、23年ぶりの大幅な見直しとなる。

海上輸送業者による不公正な行為

 米国の輸出業者などから下院議員に寄せられた不公正な行為としては、外国籍の海上輸送業者が多数の空コンテナをアジア地域に返送しているため、コンテナが不足しているとして米国からの輸出貨物を拒否していること、また、コンテナの超過保管料(デマレージ)や空コンテナの返却延滞料(ディテンション)を不当に高額に請求していることが挙げられている。
 コロナ禍において、ステイホームやテレワークなどによる日常生活の変化に伴い輸入品などの需要が急増する一方、港湾地域などサプライチェーンでは労働者不足が生じている。その中において、これらの行為は、港湾の混乱を悪化させており、農畜産物輸出の損失額は15億米ドル(1725億円:1米ドル=115円(注))に迫るとの試算もある。

(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の11月末TTS相場。

米国改正海運法案の概要

 同改正法案は、外国籍の海上輸送業者などの慣行・慣習に対する米国連邦海事委員会(FMC)の権限強化などが盛り込まれている。一例としては、超過保管料や返却延滞料が連邦規則に準拠していることの証明を義務付け、それがない場合は罰則の対象とすること、また、外国籍の海上輸送業者に対して米国に入港した船舶の貨物輸出入量についてFMCへの報告を義務付けることなどが挙げられる。

農業団体などの対応

 同改正法案に対しては、数多くの農業・製造業関係者が支持を表明している一方、海運業界は大きな反対勢力となっている。
 支持を表明している米国乳製品輸出協議会(USDEC)のクリスタ・ハーデン会長兼CEOは、2021年米国改正海運法の下院通過について、「2021年の米国の乳製品輸出は記録的な高水準が見込まれているが、今年のような輸送上の問題や手数料の高騰がなければ、どれだけ多くの乳製品を輸出することができたかを考えることが重要である。信頼できるサプライヤーとしての米国の評判がこれ以上損なわれないようにするために改革が必要であり、重要な一歩を踏み出した下院のリーダーシップを称賛する」とコメントしている。
 一方、世界の主要な海上輸送業者によって米国の海運政策・問題に対応することを目的に2000年に結成された世界海運評議会(WSC)は、「下院は適切な議論やプロセスを経ずに同改正法案を可決した。サプライチェーンの課題に対する不満は海運業界も共有しているが、同改正法案は、サプライチェーンの混雑・遅延を解決できるように設計されていない。このため、我々は、コロナ禍において米国経済を支えてきた海上輸送システムをさらに強化する真の解決策を求めて、議会と協力していく」とコメントしている。
 なお、支持を表明する農業団体には、アメリカン・ファーム・ビューロ・フェデレーション(AFBF)、国際酪農食品協会(IDFA)、全米鶏肉協議会(NCC)、全米生乳生産者連盟(NMPF)、全米豚肉生産者協会(NPPC)、北米食肉協会(NAMI)、米国乳製品輸出協議会(USDEC)、米国食肉輸出連合会(USMEF)など多数が名前を挙げている。
【河村 侑紀 令和3年12月20日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9805