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米政権、大手食肉会社の価格引き上げを批判(米国)

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 米政権のホワイトハウス経済協議会は2021年12月10日、11月の消費者物価指数のデータおよび大手食肉会社の決算報告書を踏まえ、大手食肉会社が市場の優位性を利用して価格を引き上げたものの、生産者には十分な見返りを与えず、自らの利益を拡大していると指摘した。

ホワイトハウス経済協議会による指摘

 ホワイトハウス経済協議会は12月10日、同日に発表された11月の消費者物価指数と大手食肉会社4社(タイソン・フーズ社、JBS社、マルフリグ・グローバル・フーズ社、シーボード社)の四半期決算報告書を踏まえた食肉価格に関する分析結果をホームページに掲載した。その概要は以下の通りである。
 11月の消費者物価指数のデータによると、牛肉、豚肉および鶏肉の価格上昇が家庭用食品の価格上昇の主たる要因となっている。また、大手食肉会社4社の四半期決算報告書によると、新型コロナウイルス感染症の拡大(以下「パンデミック」という)前と比較して、売上総利益は120%以上、純利益は500%の伸びを示しており、さらに、パンデミック以降の配当が30億米ドル(3450億円:1米ドル=115円(注))以上あることに加え、新たに10億米ドル(1150億円)以上の配当と自社株買いを発表したとしている。
 大手食肉会社による「人件費や輸送費などのコストの上昇により、食肉価格も引き上げざるを得ない」との主張は、利益が増加しているという報告書の内容と矛盾している。また、販売量が減少したにも関わらず、牛肉価格を35%以上も引き上げたことから記録的な利益を出しており、ある大手食肉会社は決算説明会の場で、「売上原価の上昇を補って余りある」と述べている。つまり、食肉価格の上昇は、自由市場における需要と供給の結果がもたらしたのではなく、競争力が機能していない市場で、市場の優位性を利用した企業が生産者には十分な見返りを与えず、自らの利益を追求した結果がもたらしたものである。

(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の11月末TTS相場。

家庭用の牛肉、豚肉、鶏肉の価格上昇

 米国労働省(USDOL)が12月10日に公表した11月の消費者物価指数によると、直近6カ月の間にも家庭用食品は上昇を続けている(表1)。前年同月比では、牛肉が20.9%、豚肉が16.8%、鶏肉が8.4%、いずれも上昇するなど、他の食料品と比べても上昇率が高い(表2)。  USDOLは、「家庭用食品は前年同月比で6.1%上昇し、2008年12月以来最大の上昇率となった。その中でも、特に、牛肉の上昇率が高かった」としている。
表1
表2

肉用牛、養豚、肉用鶏農家の販売収入および1農場当たり平均農業現金所得の推移

 米国農務省(USDA)が12月1日に公表した米国農業部門の所得見通しによると、肉用牛、養豚、肉用鶏農家の販売収入について、2020年はそれぞれ631億米ドル(7兆2565億円、前年比4.8%減)、192億米ドル(2兆2080億円、同11.9%減)、217億米ドル(2兆4955億円、同23.4%減)といずれも減少したが、21年はそれぞれ714億米ドル(8兆2110億円、同13.2%増)、269億米ドル(3兆935億円、同40.1%増)、322億米ドル(3兆7030億円、同48.6%増)といずれも増加が見込まれている(表3)。また、21年の1農場当たり平均農業現金所得について、肉用牛では1万6900米ドル(194万円、同17.6%減)と減少が見込まれる一方、養豚および肉用鶏では、それぞれ44万4000米ドル(5106万円、同49%増)、12万7000米ドル(1460万円、同3.3%増)の増加が見込まれている(表4)。
表3,4

食肉業界からの反発

 北米食肉協会(NAMI)は12月10日、ホワイトハウスからの指摘に対する見解をホームページに掲載し、反発する姿勢を示した。その概要は以下の通りである。  ホワイトハウス経済協議会の分析は、データの「いいとこ取り」であり、燃料コスト、サプライチェーンの課題、労働力不足などのデータを都合よく排除している。経済全体に及んでいるインフレを食肉・食鳥業界に責任転嫁しているようだ。同協議会は農業経済や需給の基本を理解しておらず、食肉価格が上昇している原因が市場構造にあると主張し続けているが、大手食肉会社による食肉市場のシェア拡大は30年近く続いているものであり、市場構造では急な食肉価格の上昇は説明できない。この食肉価格の上昇は、食肉需要がかつてないほど高まっていることによるものである。
【調査情報部 令和3年12月22日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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