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欧州委員会、食肉の短期的需給見通しを公表(EU)

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 欧州委員会は2022年7月7日、農畜産物の短期的需給見通し(注1)を公表した。このうち、食肉(牛・豚・鶏)の概要について紹介する。

(注1)欧州委員会は、農畜産物の短期的需給見通しを年3回(3月、7月、10月)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。

<牛肉>
 2022年第1四半期(1〜3月)の牛肉生産量は前年同期比0.8%減となり、年間生産量は前回3月時見通しの前年比0.9%減から若干上方修正され、同0.5%減と見込まれている(表1)。第1四半期の主要牛肉生産国の動向として、フランスとドイツでは飼料価格の高騰から酪農家などからのと畜向け出荷が増加し、経産牛飼養頭数が減少している。一方で、イタリアでは肥育牛をフランスから輸入して牛群の減少を補っている。また、スペインでは、牛群の拡大および生体牛の輸入で牛肉生産量を増やしており、アイルランドでは、搾乳牛の更新により乳廃牛のと畜が増えている。このように、酪農への影響や高騰する牛肉価格を背景に国ごとの状況は異なるが、飼料をはじめとする資材費の高騰が少なくとも年末までは続くとみられる中で、と畜頭数の増加と1頭当たり枝肉重量の減少が見込まれている。
表1 牛肉における前年比増減割合
 22年第1四半期の牛肉輸出量は、前年同期が比較的低調であった反動もあるが、カナダ、日本、英国向けなど高価格帯製品の需要が高い市場への輸出増から、前年同期比6.0%増とかなりの程度増加した。22年の輸出量は、前年比4.0%増と見込まれているが、生産量の微減や域内価格が比較的高いことが輸出の制約になるとみられている。
 一方、22年の輸入量は、外食産業の再開やブラジルからの供給回復、アルゼンチンからの関税割当枠内の輸入により、前年比15.0%の増加が見込まれている。
 牛肉の価格は、世界的に供給量が限られる中で、新型コロナウイルス感染症により減退していた需要が回復しつつあることから大きく上昇しており、22年5月には100キログラム当たり約500ユーロ(7万2085円:1ユーロ=144.17円(注2))と前年同月の3割高となった。

(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の22年6月末TTS相場。

<豚肉>
 2022年の豚肉生産量は、前回3月時見通しの前年比3.0%減から下方修正され、同4.7%減と見込まれている(表2)。要因としては、環境規制の強化や飼料など資材費の高騰、アフリカ豚熱の感染拡大やアフリカ豚熱による輸出制限などが挙げられる。特にアフリカ豚熱が発生しているドイツ、イタリア、ポーランドは大幅な減少が見込まれている。また、環境負荷低減のための規制が議論されているオランダとベルギーの減産も織り込まれている。一方で、最大の豚肉生産国であるスペインは、引き続き増産が見込まれている。
 豚肉価格については、22年2月以降急速に上昇しており、4月以降は、17〜21年平均の同月を17%上回る100キログラム当たり約190ユーロ(2万7392円:1ユーロ=144.17円)を超えて推移している。
表2 豚肉における前年比増減割合
 22年の豚肉輸出量は、中国が豚肉生産能力を回復させていることから、中国向けは前年比40%減と見込まれている。一方で、英国や日本、フィリピン、米国、オーストラリア向けなどは増加し、全体としては前年比9.6%減と見込まれている。
 また、豚肉消費量は、前年比3.3%減と見込まれ、域内の1人当たり豚肉消費量も31.7キログラム(同4.3%減)とやや減少する見込みとされた。

<家きん肉>
 2022年の家きん肉生産量は、前回3月時見通しの前年比0.5%増からわずかに下方修正され、前年並と見込まれている(表3)。主要生産国であるスペインおよびポーランドはそれぞれ前年比2.4%増、同2.5%増となる一方で、その他の国では、資材費の高騰や環境規制の動きが減少の要因として挙げられている。特にオランダとベルギーでは、家畜のふん尿による窒素やリンなどの過剰な栄養素を削減するために豚肉と同様に環境規制が検討されている。
 また、22年初めから非常に高い水準にあった家きん肉価格は、4月以降は前年比38%高とさらに上昇し、100キログラム当たり約260ユーロ(3万7484円:1ユーロ=144.17円)を超える水準で推移している。
表3 家きん肉における前年比増減割合
 22年の輸出量は、英国向けがEU離脱前の水準に戻りつつあることから前年比20%増が見込まれているものの、アフリカやアジア諸国向けは鳥インフルエンザにより輸出が制限されていることから、全体では前年比0.9%増とされた。
 22年の輸入量は、外食産業の回復により前年比16.5%増と見込まれている。年初には、英国、ブラジル、ウクライナから前年同期並みの輸入が確認されている。ウクライナからの輸入は継続されており、近年と同様の水準に達している。6月以降は同国からの輸入関税が無税とされる(注3)ことから、さらなる増加も予想されている。
 また、22年の家きん肉消費量は、前年比0.9%増と見込まれている。

(注3)海外情報「欧州委員会、ウクライナ産品に対する関税を1年間無税と提案(EU)」を参照されたい。
【渡辺 淳一 令和4年7月22日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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