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欧州委員会、生乳・乳製品の短期的需給見通しを公表(EU)

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 欧州委員会は2022年7月7日、農畜産物の短期的需給見通し(注1)を公表した。このうち、生乳・乳製品の需給見通しの概要について紹介する。
(注1)欧州委員会は、農畜産物の短期的需給見通しを年3回(3月、7月、10月)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。
 
<生乳生産>
 2022年の生乳出荷量は、前回3月時の見通し(前年並)から下方修正され、前年比0.6%減の1億4417万トンと見込まれている(表1)。減少の要因として、中欧および東欧での熱波により、今後数カ月にわたって牧草に悪影響を与える可能性や、飼料穀物価格の高止まりから牛群の縮小につながることが挙げられている。四半期ごとに見ると、第2四半期は前年同期比1.0%減となり、第3および4四半期は同0.6%減が見込まれている。
 1〜4月の出荷量は、春先の高温で乾燥した気候が経産牛のストレスとなり、主要生乳生産国であるドイツ、フランス、オランダおよびアイルランドで、いずれも前年同期を1.7%、1.3%、2.3%および0.7%下回った。特にドイツは、飼料価格の高騰および非遺伝子組換作物の調達が困難であったことから飼料穀物の給与量が減少し、乳脂肪とタンパク質の低下もみられている。その他の生乳生産国であるポーランド、イタリア、デンマークでは、同期間の出荷量がいずれも前年同期を2.4%、0.4%、0.6%上回った。
表1 生乳需給の前年比増減割合
<チーズ>
 2022年のチーズ生産量は、生乳出荷量の減少が見込まれる中でも、前回3月時の見通しと同様の前年比0.5%増と見込まれている(表2)。
 チーズ輸出量は、EU産の価格が米国産に比べて9%下回るなど価格面で競争力を持つことから、主に米国や英国向けの輸出の増加が見込まれることで同2.0%増と予測されている。
 チーズ消費量は、EU域内の安定した小売販売や外食産業の回復から、同0.1%増が見込まれている。
 こうしたチーズの生産量の増加は、バターをはじめとする他の乳製品に仕向けられる生乳の減少につながることになる。
表2 チーズ需給の前年比増減割合
<バター>
 2022年のバター生産量は、前回3月時の見通し(前年比0.2%増)から下方修正され、同1.0%減が見込まれている(表3)。これは、生乳出荷量の減少およびチーズ生産量の増加が見込まれることで、バターに仕向けられる乳脂肪の減少が見込まれることが影響している。
 EU産バターの価格は、2月のロシアによるウクライナ侵攻当初から6月中旬までに30%上昇し、1キログラム当たり過去最高の約7.3ユーロ(1052円:1ユーロ=144.17円(注2))に達している。これは、オセアニア産の価格を30%以上も上回っている。
 バター輸出量は、好調な輸出需要を背景に同2.5%増と見込まれており、消費量についても、外食産業の継続的な回復に支えられて、同0.2%の増加が見込まれている。
 なお、バター生産量の減少が見込まれる中での消費量や輸出量の増加は、低水準にある在庫から3万5000トン取り崩すことで対応するとされている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の22年6月末TTS相場。
表3 バター需給の前年比増減割合
<脱脂粉乳>
 2022年の脱脂粉乳生産量は、前回3月時の見通し(前年比1.5%増)から下方修正され、同1.5%減が見込まれている(表4)。これは、生乳出荷量の減少、脱脂粉乳の生産コストの増加、一部の仕向け先の需要減退、高い輸送費などが影響している。
 脱脂粉乳輸出量は、これら要因を背景に同5.0%減が見込まれている。1〜3月の輸出量は、EU産の価格が米国産を5%上回っていることや、中国とアルジェリアが年初に輸入を減少させたことから、前年同期比22%減となった。
 消費量は前年並みが見込まれているが、全粉乳の価格が高騰しているため、脱脂粉乳に植物性油脂を添加した植物性油脂添加粉乳で全粉乳を置き換えることにより、ある程度の消費量の増加につながる可能性もある。
表4 脱脂粉乳需給の前年比増減割合
【渡辺 淳一 令和4年7月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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