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ウクライナ産トウモロコシを巡る情勢(その2)〜輸出見通し〜

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食料不足は輸送手段の問題

 国連食糧農業機関(FAO)の「紛争がウクライナの食料安全保障に与える影響に関する留意事項」によると、今回の紛争が食料安全保障に与える影響は、食料の入手可能性よりも食料の輸送手段に関連するものであるとしている。つまり、生産量や在庫量自体は問題ではなく、収穫物の輸送手段が問題とされている。具体的には、黒海の輸出経路が封鎖されたことで農産物の輸出が困難になっていることであり、それに伴いウクライナ産穀物を輸入していた国では供給が不足し、他方で、輸出できないウクライナの生産者は在庫を抱えて収入を得られずにいる。
 ウクライナ農業政策食料省の6月24日の公表によると、今期の輸出可能な穀物数量は、1800万トンの在庫(旧穀)と今期の収穫見込み量6000万トンの合計から国内消費の2000万トンを引いた5800万トンとしている。しかしながら、主に農産品の輸出に利用されていた黒海の3港(オデーサ、ミコライウ、マリウポリ)が封鎖されていることから、それを輸出することは容易ではない。
 現状では、鉄道や車両を使ってウクライナの西部からポーランド、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアに輸送しているが、積載量が限られているため輸出用の穀物をすべて運び出すことは困難である。現地報道によると鉄道を利用した輸出については、現在のひと月当たり60万トンを100万トンまで拡大できる可能性はあるが、この進捗では現在の在庫(旧穀)だけでも輸出に18〜24カ月かかるとされている。

代替輸出経路の模索

 このような状況の中で、ウクライナをはじめ欧州各国は現在、ウクライナからの穀物輸出を可能とする代替経路を模索している。黒海での船舶による輸出経路が使えないことから、ウクライナからの欧州各国への穀物輸送の物理的な障壁としては、ウクライナと他の欧州各国との間で鉄道のレール幅が異なること(これにより国境で積み替えが必要となり時間や労力がかかる)、また、国境での検疫が必要なことなどが挙げられる。
 これらに対応するため、欧州委員会は5月12日に支援策を発表した(注)

(注)海外情報「欧州委員会、ウクライナ産農産物の輸出支援策を発表(EU)」を参照されたい。

 さらに7月6日には、EUとウクライナは道路運輸に関する二国間協定を締結し、EUまたはウクライナのいずれかに設立された事業者による両国間の通過および物品運送の権利強化、運転免許証など運転者の書類承認の容易化、両当事者間の国際道路運送事業の市場参入要件の緩和に向け取り組む意向を示した。
 一方、加盟国レベルでもウクライナとの二国間協議が進められており、4月にはウクライナとリトアニアとの間で物流に関する担当大臣会合を開き、リトアニア運輸省はウクライナに向けて2000トンの輸送能力を持つ列車を送るとした。また、同月にはラトビアとも会合を行い、ラトビアの港を利用したウクライナ産農産物の輸出の可能性について議論された。さらに5月には、ポーランドとウクライナの穀物輸出促進に関する共同声明が署名され、ポーランドはウクライナからの穀物の輸送貨物の検疫管理要件の見直しや国境検査場での穀物の通過保証、検疫官の増員、混雑する検疫地点の24時間稼働体制の確保などで合意されている。このほか、ドイツの担当相との間でも、6月の会合で穀物輸出に向けた恒久的な代替経路の模索に関する議論が行われている。

黒海からの穀物の輸出再開に向けた動向

 国連とトルコの仲介の下でロシアとウクライナ両国は、黒海のオデーサ港などからの穀物輸出の再開に関する交渉を進めており、7月13日には、海上輸送の調整機関の設置や、穀物輸出航路の安全確保などで合意した。また、同月19日にはイランでロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が穀物の輸出再開に関して会合を持ち、「プーチン大統領は、同交渉がトルコの仲介により前進したことに謝意を表明した」と報道されている。
 これらの状況を踏まえて同月22日、トルコのインスタンブールで4者が揃って合意文書に署名するに至った。これを受けてトウモロコシのシカゴ相場が続落するなど穀物のひっ迫懸念は和らいだものの、翌23日のロシア軍によるオデーサ港へのミサイル攻撃により相場は反発した。
 ウクライナ政府や国連は即座にロシアの攻撃を非難したものの、ロシア政府は、攻撃はオデーサ港のウクライナ軍の施設を攻撃したもので4者合意に違反するものではないとしている。このため、国連は改めて、ロシア・ウクライナ・トルコによる合意の完全な履行が不可欠であると声明を発出している。
【調査情報部 令和4年8月2日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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