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ウクライナ産トウモロコシを巡る情勢(その3)〜輸出再開〜

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ウクライナ・ロシア、穀物輸出再開に向けた合意

 ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月24日)以降、ウクライナの穀物輸出の主要経路である黒海の海運経路が遮断されたことで、ウクライナ産穀物が輸出できず、世界的な食料危機やウクライナの穀物生産者の経営悪化が懸念されていた。
 このような状況を受け、ウクライナや欧米諸国は黒海経路の代替輸送経路(鉄道や車両)を模索してきたが、鉄道や車両では一度に運べる量が限定的なうえ、EU入国時の通関手続きや鉄道のレール幅の違いなどの障壁があり、思うように輸出を拡大することができなかった。
 そうした中で、ウクライナとロシアは22年7月22日、トルコと国連の仲介により、トルコの首都イスタンブールで穀物および肥料の貿易再開に向けた協定に署名した。同協定により、ウクライナのオデーサ港、その近隣のチョルノモルスク港、ピブデニ港の3港から穀物や肥料の安全な黒海の海運経路が確保されることとなった。
 
 協定で合意された主な内容は以下の通りである。
  • 穀物輸送の船舶はウクライナの指示により、黒海の安全な経路を航行し、トルコ北西部のボスポラス海峡を通過して世界市場に向かう。
  • 船舶は、ウクライナ到着前に、ロシア、ウクライナ、トルコの3カ国によって検査され、武器がウクライナに密輸されていないことが確認される。
  • 船舶は、国連の支援の下でウクライナ、ロシア、トルコの3カ国が参加する共同調整センター(JCC:7月27日設立)により監視される。
  • ウクライナとロシアは、これらの3港から黒海に向かう船舶に対して、いかなる攻撃も行わないことに合意する。
  • 同協定は調印から120日間有効であり、ウクライナとロシアの一方がその有効性を終了させる意思を通知しない限り、同期間延長することができる。

  最初の輸送船は8月1日、ウクライナ産トウモロコシ2.7万トンを積んでオデーサ港からレバノンに向けて出港した。同船舶は黒海と地中海を結ぶトルコのボスポラス海峡を通過した後、レバノンのトリポリ港へ向かうことになっている。ウクライナのゼレンスキー大統領は、今回の輸出は「世界的な食料危機を食い止める」ためのものとしており、欧州向けに穀物が輸送されるのは、まだ先になるとみられている。
 
 船舶による輸送が再開された一方で、鉄道などの陸上輸送経路の開拓も継続されており、ドイツの国有鉄道会社であるドイツ鉄道は、ウクライナからドイツの港湾まで貨物列車で穀物を輸送する計画を進めている。ドイツ鉄道は、ウクライナの穀物をドイツのロストック港、ハンブルク港、ブラーケ港に運ぶために、人道支援輸送のための経路を穀物輸送用に変更すると発表した。ドイツ鉄道は週に数本の列車を運行する計画で、穀物の大部分はルーマニアとポーランドを経由して輸送されるとしている。

ウクライナからの穀物の輸出状況

 ウクライナ農業政策食料省は8月5日、穀物・豆類の輸出情報を更新した。これによると、2022/23年度(7月〜翌6月)のウクライナ産穀物・豆類の輸出状況として、2022年7月は160万5000トンを輸出している(表1)。これは前年同期比47%の減少となる。内訳を見ると、小麦や大麦、ライ麦は大幅に減少している一方で、トウモロコシが伸びている。
表1 2022/23年度のウクライナの穀物輸出量
 また、ウクライナ農業政策食料省の月別輸出統計(7月5日公表)によると、22年6月は217万トン(前月比25%増)の穀物、豆類、油糧種子、搾油粕を輸出した(表2)。このうち、トウモロコシは全体の47%を占めたが、前年同月の輸出量(170万トン)に比べると大幅に低い水準(40%減)にとどまっている。
表2 ウクライナの穀物等輸出量(2022年)

EUのウクライナからのトウモロコシの輸入状況

 EU統計局によると、EU域内に輸入されたトウモロコシ(輸出先国にEU加盟国を含む)は、22年2月の輸入量は146万トン(同月の過去3年平均比16%増)とロシア侵攻の影響は見られなかったものの、3月には54万トン(同57%減)、4月は33万トン(同69%減)、5月は56万トン(同41%減)と軒並み減少した(表3)。
 このような中でもウクライナはEUのトウモロコシの主要輸入先であり、2月は他を圧倒して1位の輸入先であったが、3月および4月は輸入量を大幅に減らしたものの2位となっている(表4)。
表3 EUのウクライナ産トウモロコシ輸入量
表4 2022年2〜4月のトウモロコシの主な輸入先と輸入量
【調査情報部 令和4年8月12日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527