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ウクライナ産トウモロコシを巡る情勢(その4)〜EUの飼料生産見通し〜

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ウクライナ南部の干ばつによる減産懸念

 ウクライナからの穀物輸出再開の見通しが立ち始めた一方で、今期のウクライナのトウモロコシ収穫が懸念されている。ウクライナ穀物協会(UGA)が7月6日に公表した2022年のトウモロコシの生産量は2730万トンの見通しであるが、欧州委員会の共同研究センター(JRC)が7月25日に公表した最新の作物観測によると、同国南部では雨不足が干ばつに発展し、夏作物の収量が減少する可能性があるとしている。これによると、ウクライナの大部分の地域では、降雨量が1991〜21年の平均を3〜5割下回っており、特に南部(ヴィーンヌィツャ州、オデーサ州)と東部(ドネツク州、ルハンスク州)は同平均を最大8割下回る厳しい干ばつから生産予測の下振れが懸念されている。なお、北部では7月上旬以降、例年より雨の多い状態が続き土壌の水分状態の改善が報告されている。

EU域内の飼料生産、22年は減少の見通し

 欧州配合飼料生産者連盟(FEFAC)が5月20日に公表した2022年のEUの配合飼料生産見通しによると、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で、市場の不確実性は非常に高く、EUの養豚・養鶏は飼料原料の高騰、市場需要の低下、鳥インフルエンザの拡大の影響から、豚用配合飼料の生産は前年比4.2%減、鶏用配合飼料は同3%減と予測されている。また、牛用配合飼料の生産も同1.6%減とされており、配合飼料全体の生産量は同2.9%減(430万トン減)と予測されている。一方で、ウクライナとロシアから輸入していた飼料用トウモロコシ、ヒマワリ、その他の飼料原料の減少分は、主に米国とカナダからの輸入によって部分的に補われるとされている。
 
 EU統計局によると、米国およびカナダからのトウモロコシの輸入量は22年3月以降、劇的に増加しており、米国からの輸入量は4月が30万トン、5月が39万トンを記録している(表)。また、カナダからの輸入量は米国ほどの増加ではないが、4月が20万トン、5月が36万トンとなった。このほか、ブラジルや南アフリカからのトウモロコシ輸入量も増加している。
表 米国およびカナダからのトウモロコシ輸入量

EU飼料業界は自給率向上に向けた動きを支持

 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、2022年3月に緊急開催されたEU首脳会談で採択された「ベルサイユ宣言」の中で、EU各国首脳は「主要な農産物および投入物の輸入依存を減らし、特に植物由来タンパク質のEUでの生産を増やすことにより、食料安全保障を強化する」ことに合意した。

 FEFACは、EU各国首脳の立場を支持し、ウクライナから黒海を通る穀物輸送経路の遮断に伴う短期的な影響への対処のみならず、長期間におよぶ可能性のあるウクライナ危機の影響を緩和するため、「EUは、穀物および油糧種子の食料・飼料用途を優先した包括的なEU食料・飼料安全保障危機管理計画を策定する必要がある」としている。また、特に「EUは、域内の穀物、油糧種子、植物性タンパク質の生産強化のために、革新的な植物育種技術と優れた農業実践を支援する必要がある」としている。
【調査情報部 令和4年8月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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