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欧州委員会、生乳・乳製品の短期的需給見通しを公表(EU)

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 欧州委員会は2022年10月5日、農畜産物の短期的需給見通し(注1)を公表した。このうち、生乳・乳製品の需給見通しの概要について紹介する。

(注1)欧州委員会は、農畜産物の短期的需給見通しを年3回(3月、7月、10月)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。
 <生乳生産>
 2022年の生乳出荷量は、前回7月時の見通し(前年比0.6%減)と同等の同0.5%減の1億4389万トンと見込んでいる(表1)。今年度の減少の要因として、夏の熱波による牧草の品質と収量の低下に加え、飼料用穀物の収量の減少を挙げている。冬季用として備蓄すべき飼料をすでに給与した生産者も多いことから、冬季の飼料不足も懸念されており、一部では、今後の飼料入手の見通しを憂慮し、乳用牛の淘汰とうたや搾乳期間の短縮を選択した生産者もあったとしている。また、夏の熱波は乳用牛に大きなストレスを与え、受胎率の低下や生乳生産量の低下も招いたと報告している。
 国別の状況を見ると、ポーランドやデンマークの生乳出荷量はそれぞれ前年比2.0%および0.5%の増加を見込み、イタリアとオランダでは前年並みと見込んでいる。しかし、フランスおよびドイツの減産分を補うには至らず、全体では減産見通しとなった。
 生産費の上昇や、世界的な生乳需給のひっ迫から、EUの生乳価格は上昇しており、7月以降100キログラム当たり50ユーロ(1キログラム当たり72円:1ユーロ=143.82円(注2))を上回る記録的な高値になっている。8月には例年の価格水準に比べて43%高となったが、加盟国によって状況は異なり、デンマークはEU平均と同様の傾向を示す一方で、フランスは同20%高にとどまった。
 23年の生乳出荷量については、飼料不足と高い生産費に加え、食品価格の上昇に伴い消費者需要が低迷する可能性があることから、厳しい状況と見込んでいる。しかし、天候が例年どおりとすれば、1頭当たりの乳量が若干伸び(同0.6%増)、牛群の縮小(同0.8%減)をある程度補うことで、前年比0.2%減の1億4354万トンと予測している。

(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の22年9月末TTS相場。
表1
<チーズ>
 2022年のチーズ生産量は、前回7月時の見通し(同0.5%増)から下方修正され、同0.5%減の1070万トンと見込んでいる(表2)。1〜7月はクリームの生産量の増加から、チーズの生産量は減少した。今後は、年末需要に向けて多くの生乳がバターに仕向けられるため、チーズ生産量は引き続き減少するが、年末には高値に支えられて増加に転じる可能性があるとしている。
 22年のチーズ輸出量および域内消費量は、チーズ価格が年初来30%以上上昇しているものの、前年並と安定した推移が見込まれており、それぞれ138万5101トン、957万720トンと見込んでいる。
表2
<バター>
 2022年のバター生産量は、前回7月時の見通し(前年比1.0%減)から下方修正され、同1.2%減の228万3702トンと見込んでいる(表3)。これは、生乳出荷量の減少および多くの乳脂肪がクリーム生産に仕向けられたことで、バターに仕向けられる乳脂肪の減少が見込まれることが影響している。
EU産バターの価格は、1キログラム当たり約7.3ユーロ(1050円)と前年比82%高の水準で推移しており、生乳価格の高騰を招くことが見込まれている。
 22年のバター輸出量は、前回7月時の見通し(前年比2.5%増)から上方修正され、同3.0%増の26万1541トンと見込んでいる。消費量については、植物油の価格が高値で推移していることから、バター消費量への影響は限定的とし、前回7月時の見通し(同0.2%増)からわずかに下方修正され、同0.1%増の209万2072トンと見込んでいる。
表3
<脱脂粉乳>
 2022年の脱脂粉乳生産量は、前回7月時の見通し(前年比1.5%減)から下方修正され、同2.0%減の139万9420トンと見込んでいる(表4)。これは、6月末以降、EUの脱脂粉乳価格は緩やかに下落しているものの、主要輸出競合国を上回る価格水準が輸出の妨げとなり、生産量の増加を阻んでいることによる。また、この脱脂粉乳価格が高値にある要因として、粉乳の製造に必要な燃料費の高騰によるものとしている。
 このため脱脂粉乳輸出量は、前回7月時の見通し(前年比5.0%減)から下方修正され、同15.0の減の67万210トンと見込んでいる。前述の高値に加え、中国の全粉乳の輸入需要の減少から、同国向け輸出割合が高いニュージーランドがバターや脱脂粉乳向けの生乳を増加させていることで、EUの脱脂粉乳輸出の抑制につながっているとしている。
 消費量は前回7月時の見通し(前年比0.0%減)から上方修正され、同1.2%増の69万9493トンと見込んでいる。しかしながら、輸出量が低調に推移する見込みから、6万トン程度の在庫が増加する可能性があるとしている。
表4
【渡辺 淳一 令和4年10月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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