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ウクライナ産穀物の動向〜黒海穀物イニシアティブの延長〜(ウクライナ)

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黒海穀物イニシアティブ、2度目の延長

 国連のグテーレス事務総長は2023年3月18日、黒海穀物イニシアティブ(注1)の2度目の延長を公表した。これにより、ウクライナから黒海経由で飼料穀物や食料品、肥料などを輸出するための安全な航行が引き続き可能になる(図)。同イニシアティブは、22年7月22日から4カ月間の期間限定で始まり、その後の関係者の合意により、22年11月17日から23年3月18日までの4カ月間延長されていた。この間、ウクライナは約2500万トンの穀物や食料品を45カ国に輸出した。また、国連事務局は、世界の食料安全保障のために同イニシアティブを極めて重要なものとしつつ、ロシアの食品および肥料を世界市場に輸出するためのロシアとの覚書も同様としている。
 
(注1)22年7月22日、ウクライナとロシアは国連とトルコの仲介の下、ウクライナのオデーサ港(近港のチョルノモルスク港とイズニー港を含む)からの穀物と肥料の安全な輸出航路の確保に関する「黒海穀物イニシアティブ」に署名し、これに基づき輸出を共同で進める共同調整センターを設置。
図 黒海穀物イニシアティブの海上航行経路

ロシアは60日間の延長と主張

 現地報道によると、ロシアと国連の両代表は3月13日、ジュネーブで黒海穀物イニシアティブの延長について協議し、ロシアは60日間の延長を主張したとされている。ロシアのベルシーニン外務次官は、「ロシアに対する国際的な経済制裁によりロシアの貿易が制約を受けており、ロシアの合意はロシアの農産物の輸出正常化次第である。黒海穀物イニシアティブは60日間の延長であれば合意の準備がある」と述べている。もっとも、ロシアに対する国際的な経済制裁は、金融や保険などを対象としており、穀物や食品は対象に入っていない。
 また、国連が同イニシアティブの延長を公表した後、ロシア外務省は3月19日に改めて60日間の延長に合意したと発表している。なお、国連の公表には期間は触れてなく、延長とだけ言及されている。
 一方、ウクライナのクブラコフ復興担当副首相は3月18日、国連やトルコおよびすべての締結国の尽力により同イニシアティブが120日間延長されたと発表した。さらに、ロシアの60日間の主張に対し、それは同イニシアティブの中核的な内容の変更となるため、60日間の延長には新たな別の協定が必要になると主張している。同イニシアティブの有効期間は120日であり、ウクライナとロシアのいずれか一方が同イニシアティブを終了する意思を通知しない限り、自動的に延長されることになっている。

ウクライナ産トウモロコシの輸出状況および生産の見通し

 ウクライナ国税庁の月別輸出統計によると、2022年のトウモロコシ輸出量はロシアの侵攻の最中にもかかわらず前年をわずかに上回る2518万トンとなった(表)。これは、黒海穀物イニシアティブおよび連帯レーン(注2)の下でトウモロコシが順調に輸出された結果である。輸出先第1位の中国向けは前年比44%減の441万トンとなった。一方、例年輸出量の少ないルーマニアやポーランドなどウクライナの隣国向けには、それぞれ354万トンおよび210万トンと前年を大幅に上回る量のトウモロコシが輸出された。また、小麦や大麦の輸出は大きく前年割れしており、これらは冬作の主要生産地域がロシアの侵攻地域と一部重なった影響と考えられる。
 3月8日の米国農務省(USDA)の需給予測によると、2022/23年度(10月〜翌9月)のウクライナのトウモロコシ生産量は、前年比20%減の2700万トンと見込まれている。なお、小麦と大麦の生産量は、それぞれ2100万トン(同25%減)および610万トン(同30%減)と見込まれている。
 
(注2)連帯レーンについては、海外情報「欧州委員会、ウクライナ産農産物の輸出支援策を発表(EU)」を参照されたい。
表 ウクライナのトウモロコシ等輸出量

ウクライナ産品の関税停止を延長

 欧州委員会は2月23日、EUに輸出されるウクライナ産品に対する関税の停止を1年延長(注3)することを提案した。この措置は2022年6月4日に施行され、22年のウクライナの貿易は全体では大きく減少したものの、連帯レーンとともにEUへの貿易の安定化に大きく寄与し、黒海穀物イニシアティブと並んで世界の食料安全保障に貢献するものとしている。
 
 
(注3)海外情報「欧州委員会、ウクライナ産品に対する関税を1年間無税と提案(EU)」を参照されたい。
【渡辺淳一 令和5年3月27日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527