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欧州委員会がCAPの一部見直しと食料供給チェーンの監視強化を提案(EU)

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 欧州委員会は3月15日、政策の実行面の簡素化を目的とした共通農業政策(CAP)の一部見直しの提案と、食料供給チェーンの監視強化についての提案を行った。
 欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は「生産者が多くの課題に直面しているため、生産者支援のために強力かつ迅速な行動を取り、政策に対する生産者の信頼と予測可能性を向上させつつ、柔軟性を提供する」として、今回の提案の意義を強調した。

1 CAPの一部見直し

 この提案は、EUの生産者にとって規制に関する負担を軽減し、直接支払いの受給要件のうち、環境面の条件(コンディショナリティ)(注1の柔軟性を高めるものである。生産者から委員会に寄せられた多くの要望に応えるものとされ、一部はすでに発表された内容(注1)であるが、今回は正式な提案として取りまとめられている。
(注1)海外情報「生産者による抗議行動を受け、EU農相理事会が対案を発表(EU)」もご参照ください。

提案されている見直し案の内容

● 休耕義務の緩和(GAEC8)(注2)
  耕作地を休耕地など非生産的な土地に割り当てる義務がなくなり、生垣の設置といった景観的配慮の実施などにより、エコスキームを通じた追加的な財政支援を受けることを可能とする。
(注2)加盟国が定義する「良好な農業環境要件(GAEC)」と呼ばれる環境保全などに関する条件で、直接支払いを受けるためにその遵守が求められている。畜産の情報「欧州グリーン・ディール下で進められる農業・畜産業に影響する各種政策」もご参照ください。
● 輪作義務の緩和(GAEC7)
  輪作または作物の多品目化のいずれかを選択することで、輪作義務を満たしていると認める。
● 土壌被覆に関する規制の緩和(GAEC6)
  厳格な土壌被覆が求められる乾燥期などの「敏感期(sensitive period)」の設定や、土壌被覆として認める管理方法について、加盟国ごとの地域や気象変動の状況などを考慮し、柔軟な設定を可能とする
● 加盟国によるGAEC5〜7の免除
  特定の作物や土壌の種類および栽培体系を対象に、農地管理(GAEC5)(注3)、土壌被覆(GAEC6)および輪作・多品目化(GAEC7)の義務について、加盟国による免除を認める。
(注3)GAEC5は、傾斜地など土壌浸食に脆弱な地域における耕作の制限による土壌保全
● 小規模生産者に対する環境面の条件緩和
  10ヘクタール未満の小規模生産者に対するコンディショナリティ(直接支払いの受給要件のうち環境面の条件)の免除

2 食料供給チェーンの監視強化

 欧州委員会は、不公正な商習慣からの生産者保護を目的として、食料供給チェーンにおけるコスト、利幅および商習慣を監視する機関の設置を提案した。同機関は、食料供給チェーンの各部門の代表者、加盟国および欧州委員会の代表者で構成され、コストと利幅の透明性を高めるために関連情報を共有・公開する。この夏には最初の会合が開かれる予定である。
 また、農産物共通市場制度(CMO)で定められた枠組みについて、改善策を提案している。具体的には、生産者が食品産業や小売業者と結ぶ契約に適用される規則の強化や、生産者の組織化に関する支援が含まれる。
 さらに欧州委員会は、2021年から施行されている食料供給チェーンにおける不公正な商習慣に関する指令の実施状況について評価を行う。加盟国による同指令の実施状況をまとめた最初の報告書は24年春に提出され、25年に欧州委員会が提出する詳細な報告に反映される予定である。
 
 これらの提案については、3月26日に開催された農相理事会でも支持されており、4月に予定されている欧州議会で検討される予定である。

3 関係者による反応

 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は3月15日、屋外農業は外部要因の影響を受けやすいことに加え、異常気象やウクライナ紛争のような地政学的な混乱、インフレなどの経済的混乱によって、現行のCAPで求められる義務をすべて果たすことは困難として、同見直しを歓迎している。一方、輪作義務(GAEC7)の緩和が不十分であることや、休耕義務(GAEC8)の緩和において生産者が自主的に休耕を選択した場合もエコスキームによる追加的な支払の対象となることと同様に、他のコンディショナリティについても同様の緩和を求めている。
 さらに同委員会は3月26日、これらの措置が2024年1月に遡って適用され、生産者が将来を見通して営農計画を策定できるよう、同緩和策の27年までの継続を求めている。
 一方、有機農業を推進する国際的なNGOである国際有機農業運動連盟(IFOAM)は3月15日、このCAPの見直し案は、生産者が水準の高い取り組みを行うことなく、政策的に要求される環境要件を引き下げるだけのものとして、非難している。
【調査情報部 令和6年4月16日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527