欧州委員会、米国の鉄鋼・アルミニウム関税に対し、農畜産物を含む対抗措置内容を公表(EU)
欧州委員会は2025年4月14日、9日に実施を表明していた、米国が3月から開始した鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税強化への対抗措置について、対象品目、追加関税率、適用時期などの内容を公表した。
対抗措置は、現在一時停止している18年の追加関税(注1)の再適用と、新たな品目への追加関税からなる。18年時の追加関税の再適用については、対象品目と追加関税率を見直し、統計品目番号(HSコード)で350の品目について10%(50品目)または25%(300品目)の追加関税を課すとしている。さらに、今回新たに1327の品目について25%の追加関税を課すとしている。これら合計1677の対象品目は、農畜産物から工業製品まで幅広く、欧州委員会は、対象品目の米国からの輸入総額は210億ユーロ(3兆4352億円:1ユーロ=163.58円(注2))に上るとしている。
(注1)鉄鋼・アルミニウム製品を巡っては、第一次トランプ政権が2018年にEUに追加関税を課したことをきっかけに、EUも対抗措置として米国に追加関税を課した。その後、バイデン政権への移行により、両者は協議による解決を図ることで合意し、EUは追加関税を一時停止している。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年3月末TTS相場。
農畜産物・食品への対抗措置の内容
農畜産物・食品(注3)では349の品目が対象となっており、適用される追加関税率はすべて25%となった。追加関税率の適用は、米国が4月9日に相互関税の適用を90日間延期すると発表したことを受け、7月14日まで一時停止される(注4)。ただし、米国のEU向け主要輸出産品である大豆とアーモンドについては、12月1日からの適用とされた。米国からの大豆とアーモンドの米国からの輸入額(2022〜24年の平均)は、それぞれ28億7200万ユーロ(約4698億円)、10億3500万ユーロ(約1693億円)である。
畜産関連品目で対抗措置の対象となった品目は下表の通りである。前述した大豆のほか、輸入額の大きいものとしては、牛肉(冷蔵)、トウモロコシや飼料用の調製品などが対象となっている。公表前の報道では、乳製品が対抗措置の対象品目に含まれるという予測もあったが、対象から外されている。欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)は、乳製品が対象外とされたことを評価する旨のコメントを発出している。また、豚肉も対象外とされている。
また、畜産関係以外の品目で対象となった主なものは、オレンジ・レモンなどの青果、エンドウ豆、コーヒー、茶、香辛料、玄米、精米、魚油、シュリンプおよびプローンの調製品、甘しゃ糖(着色糖含む)、砂糖菓子、穀物調整品、ベーカリー製品、クランベリーの調製品、ノンアルコール飲料、たばこ類などである。
(注3)本稿では、統計品目番号第1類から第24類までを農畜産物・食品とした。
(注4)適用開始日は、当初、18年の追加関税の再適用は(1)2025年3月12日時点では4月1日、(2)これを3月31日に同年4月15日に延期し、今回追加する追加関税のうち大豆とアーモンド以外は同年5月16日としていた。
関係団体の反応
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、対抗措置の一時停止の間に米国との交渉による解決を望むとしているが、交渉次第ではさらなる追加対抗措置を設けることも示唆しており、交渉の行方が注目される。
米国はEUにとって英国に次ぐ第2位の農産品・食品の輸出先であり、重要な市場である。EUの対米農産品・食品貿易は黒字で推移しており、24年には対米貿易黒字額が前年比19.9%増の185億9000万ユーロ(3兆410億円、輸出額305億3000万ユーロ(4兆9941億円)、輸入額119億4000万ユーロ(1兆9531億円)となった。
こうしたことから、米国が相互関税を公表した翌日の4月3日に、EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa−Cogeca)、欧州食品飲料産業連盟(Food Drink Europe)、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)、欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV)などの各団体は、いずれも対抗措置ではなく交渉による解決を望むとのプレスリリースを発出している。欧州配合飼料生産者連盟(FEFAC)は、EUが輸入する米国産大豆の代替先は限られ(注5)、他の産地からの大豆輸入に切り替えた場合には国際相場の上昇を招くことで、畜産経営の飼料コスト増加が懸念されるとしている。
(注5)EUの畜産物生産に用いる飼料用たんぱく質のうち、主に養豚や養鶏向けの配合飼料の原料となる大豆の輸入依存度が非常に高く、2023年の輸入量は米国(43%)とブラジル(41%)の2カ国で84%を占めている。
【調査情報部 令和7年4月21日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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