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欧州委員会、共通農業政策の簡素化案を発表(EU)

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 欧州委員会は2025年5月14日、共通農業政策(CAP)の簡素化案を公表した。農家の管理負担などを軽減することで、農家のコストを年間最大15億8000万ユーロ(2586億円、1ユーロ=163.67円(注1))、加盟国の行政コストを2億1000万ユーロ(344億円)それぞれ削減し、併せて農業部門の競争力強化やデジタル化を支援するとしている。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年4月末TTS相場。

簡素化案の主な内容

(1)小規模農家への年間一括支払上限額の拡大

 加盟国は、小規模農家に対してCAPの直接支払いを年間一括で行うことができるが、当該制度を導入している加盟国は27カ国中6カ国にとどまっている。より広範な利用を促すため、年間一括支払金の上限を従来の1250ユーロ(20万5000円)から2倍の2500ユーロ(40万9000円)に引上げる。この額は、農地10ヘクタールへの直接支払い額のEU平均に相当する。10ヘクタール未満の小規模農家は、2024年5月のCAP簡素化により既に環境要件などが免除されており、さらに本措置の実施により、直接支払の申請業務の負担の軽減も可能になる。これにより年間14億6000万ユーロ(2390億円)の農家コスト削減が見込まれ、これは今回の簡素化による効果で最大のものである。

(2)環境要件の簡素化

 2023年から開始された現行のCAPにおいては、直接支払いの受給要件として9項目の「良好な農業環境要件(GAEC)」が定められたが、農家からは不満の声が上がっていた。これを受け24年5月に、GAECの一部が緩和された(注2)。さらに今回、永年牧草地の保全(GAEC1)および湿地泥炭地保全(GAEC2)について、下表の通り緩和することで、環境要件対応に係る負担軽減を図る。
 また、有機農業者として認証された農家は、GAECの一部(GAEC1および3から7まで)を満たしているとみなす措置も導入される。
 
(注2)詳細は海外情報「EU理事会、共通農業政策における環境要件の緩和を承認(EU)」をご参照ください。
表

(3)検査などの簡素化

 加盟国の検査業務の簡素化も盛り込まれており、検査は原則「1農場当たり年間1回」に限定するとされた。また、衛星技術を活用した検査の合理化も図られる。
 また、加盟国が策定するCAP実施計画を変更する際に必要となる欧州委員会の承認が、新たな介入策の導入や目標に影響するものなど「戦略的修正」を行う場合に限定される。

(4)競争力の強化、デジタル化の支援

 小規模農家の競争力強化のため、最大5万ユーロ(818万円)を一括で提供する新たな資金支援プログラムを措置する。
 また、農家が同一のデータを複数回提出することを回避するため、加盟国内の異なる制度間で相互にデータが共有可能となるデジタルシステムの開発を促進する。

(5)危機管理支援の強化

 自然災害や家畜疾病による損害を補償するため、CAP下での危機支払い(crisis payment)スキームを新設する。これにより加盟国は、CAP予算の最大3%を同支払いに仕向けることができる。

今後の流れ

 今回の簡素化案の提案は、現行の欧州委員会が優先課題に掲げている域内産業の競争力強化と事務負担軽減の一環となる。本提案は欧州議会とEU理事会に提出され、今後採決が行われる。欧州委員会農業委員のハンセン氏は、本提案が年内に採択され、2026年から適用されることを望むとしている。

関係者の反応

 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、簡素化と競争力強化の方向性を支持するとしつつ、簡素化の内容については今後詳細な分析を行うとした。一方、欧州最大の環境団体ネットワークである欧州環境事務局(EEB)は、今回の簡素化により、証拠や影響評価なしに草地や泥炭地・湿地の保護などの重要な措置が弱体化されるリスクがあり、農業のレジリエンス(回復力)を損なうものである、と非難している。
【調査情報部 令和7年5月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527