中国企業が語る中国における乳製品のマーケティング(中国)
中国乳業最大手の伊利集団と世界的に展開する米コンサルティング会社「NielsenIQ」は6月20日、北京市で開催された中国国際乳製品業界大会
(注1)において、中国の消費者市場や乳製品の売れ行き、消費者への効果的な販売方法などについて講演を行った。両者の発言の要旨は以下の通り。
(注1)中国食品土畜輸出入商会が開催した。今年の同大会の様子については「中国国際乳製品業界大会において政府機関が講演(中国)」(令和7年7月3日発)をご参照ください。
1 「NielsenIQ」中国小売市場洞察および分析部門の乳業担当者
(1)中国の消費市場について
近年の中国市場は、GDP(国内総生産)、社会消費品小売総額(注2)、消費者心理指数などいずれの指標をとってもかつてほど高成長ではない。このような状況で消費に影響を与えるのはやはり人口の増減である。中国は2022年から人口が減少し、子どもを産む干支として好まれる辰年(中国では「龍」)であった24年は新生児が前年より増えたが、それでも総人口は減少した。おそらく、この傾向は今後も変わらないだろう。同時に人口の集中も進んでいる。東北地方や西北地方は人口が流出する地域となっている。
(注2)中国における消費動向を示す指標で、卸売業、小売業、宿泊業および飲食業が個人消費者または社会団体に販売した消費財・サービスの総額を示す。
(2)短期サイクルの商品市場について
このような中、「快消費」と呼ばれる業界(「快速消費品」とも呼ばれ、消費寿命が短く、消費サイクルが短いものを指す)は新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年を100として106にまで成長した。中国市場全体の状況は厳しいが、「快消費」業界は健闘しているということである。しかしながらその内訳を見ると、19年を100とした場合、飲料業界は23年の113から24年の122に、酒類業界は96から102に、個人の美容保健業界は126から138に増加した。一方で、乳製品業界は97のまま変わらず、19年に比べて減少基調にある。乳製品について24年に川上での調整が始まり、乳牛飼育頭数が3557万頭から3463万頭に減少したものの、明らかに供給過多の状況にあるということである。
(3)乳製品の売れ方について
乳製品市場だけを見ると、販売総額は2022年以降マイナス成長にあり、24年は前年比2.7%減となった。特にオフライン(実体店舗)の落ち込みが大きく、24年は同5.0%減となった。オンライン販売は24年に同10.9%増となったが、販売量で販売額を稼いでいる状況である。つまり、販売単価は下がっている。また、オンライン販売は、従来の商品を売るだけのオンライン販売と、商品の特定の機能性などに着目して販売する新しいタイプの販売とに分けられるが、乳製品はその両方が消費市場の中で伸び率が低く、いかにそのてこ入れを図るかが課題となっている。
(4)今後の消費者へのアプローチ方法について
消費者へのアプローチ方法には、次のようなアプローチが考えられる。
まず、乳糖不耐症に対応した製品の開発である。ある研究によれば、中国の約3.1億人は乳糖不耐症であり、さらに3.5億人は乳糖不耐症の疑いがあるとされ、牛乳を飲む人口は25%程度にとどまる。他方で、「ゼロ乳糖」「低乳糖」をうたった商品の売上は乳製品全体の3%に過ぎない。これをいかに拡大していくか、ということである。
次に、海外市場への展開である。優先的に考えられるのは東南アジアであり、すでに2018年には伊利がインドネシアにアイスクリーム工場を建設し、21年には同国のアイスクリーム市場で4位の売上を占めた。また、同じく業界大手の蒙牛も18年にインドネシアに液体ミルク工場を建設するなどの動きを見せている。海外展開の課題は多いが、24年は乳製品の輸出額が前年より増加しており、成長の可能性は大きい。
国内市場の開拓も引き続き重要である。まだ伸びている飲料市場との連携として、勢いのあるスタンド販売型飲料店でミルク風味の商品を販売する、あるいは、同じく伸びている屋外活動やスポーツ産業と連携してプロテイン製品として売り込むことなどが考えられる。
同様に、輸入製品の市場を狙うことも考えられる。乳製品の輸入量は3年連続で減少しているものの、まだ250万トン以上もあり、ここを考えないということはあり得ない。
中国の消費者は、少し前の「性価比」や「質価比」(コストパフォーマンスの良さ)から、明らかに「情価比」(より共感できるものを購入するという消費行動)へ移行してきている。そのことを念頭に消費者アプローチを改善していくことが求められている。
2 中国乳業最大手の伊利のブランド副総監(副部長)
今の中国の消費者は情報過多であり、商品情報が届きにくくなっている。中国では毎日3億本の新しい動画と2億本の新しい文書(メディアニュースやブログ記事など)が生まれており、合計で5億本の情報の中から何を選べばいいのかわからない状態になっている。
また、消費者がどのような商品を購入するのか、について、あるアンケート調査の結果では、既存商品の不満を解消できる商品を購入すると答えた者が33%であったのに対し、共感できるものであれば購入すると答えた者が29%に上った。消費者の商品を購買する際の基準が変わり、物そのものの価値だけでは売れない時代になったということである。
このため当社では、「共感のあるブランドが物を動かす」(消費者に共感してもらえる商品を届けて初めて自社の商品が買ってもらえる)ことを基本的な考え方として、宣伝を工夫するようにしている。例えば、包装を工夫するなどの例が挙げられるが、動画での工夫の例を紹介する(同社が公式スポンサーを務めた北京オリンピック向け動画、男子サッカーワールドカップ向け動画、中国男子バスケット大会向け動画などを放映)。
動画作成時のコンセプトが解説され、男子サッカーは「情熱のためにフィールドに行け」、男子バスケットは「情熱をもって徹底的にやれ」をコンセプトに作成された。これは、いずれもファンの心理に寄り添った結果である。男子サッカーのファンはサッカーあるいはその試合の観ることが好きで、試合観戦時にはかなり熱量を持っているのに対し、男子バスケットは成績が振るわないなどのため、スポーツとしてもファンの心理としても低調になってしまっている。それでもバスケットが好きで試合を観戦する、というファンの心理は、「試合には負けてもいいから最後まであきらめずに頑張ってくれ」である。動画作成コンセプトの違いは、このファンの心理の違いに寄り添った結果である。
このように、当社は当社製品を口にする消費者がその時どのような心理状態にいるかということを考え、その消費者に寄り添ったコンセプトで動画を作り、当社ラインナップの中からお薦めの商品を選んで動画内で紹介する、という工夫をしている。同時に、農村の男子バスケットチームを世界大会に招待したことは、企業の社会的責任を果たしていると言うことができるだろう。
今の中国消費者は「情価比(より共感できるものであること)」を求めている。企業は消費者を満足させるだけでなく、社会的責任を果たすことも求められている。当社はいずれにも応えていく(写真)。

【調査情報部 令和7年7月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530