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さまざまな課題を抱えつつも酪農家の約7割超が将来に前向き(NZ)

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 ニュージーランド(NZ)の酪農生産者団体であるDairyNZは2025年6月、「View from the Cowshed report(牛舎からの眺め)」と題した酪農経営調査結果を公表した。これによると、酪農家の4分の3以上が今後3年間の酪農の見通しを「現状維持」または「改善する」と回答している(図)。また、全体の84.8%は酪農業界で働くことを誇りに思っていることが明らかとされた。これは、21年の同調査と比較して31.8ポイントの上昇であり、酪農業界でさまざまな課題があるにもかかわらず、酪農家の自信は高まっていることが明らかとされた。一方で、酪農家にとって最大の課題として挙げられたのは、飼料と肥料の生産コストの上昇であり、規制コンプライアンスの影響、地域的な気候条件、人材確保などがそれに続いた。
図
 DairyNZの最高経営責任者(CEO)であるパーカー氏は、「明らかに際立っているのは、農家が自分たちの仕事に誇りを持ち、動物福祉、環境管理、コミュニティに深く関わっている」と述べた。しかし、「酪農家は生産コスト上昇や規制の不確実性などの大きな課題に直面している。依然として、環境と気候条件は懸念事項であり、酪農家はより高い技術と支援を求めている」と述べた。

【生産コストの上昇】

 DairyNZは25年6月27日、2025/26年度(6月〜翌5月)の生乳生産の損益分岐点(注1)として、生乳の固形分(注2)1キログラム当たり8.68NZドル(779円1NZドル=89.71円(注3))との予想を発表した。25年5月発表時の予想から同0.1NZドル(9円)上昇し、24/25年度の同8.41NZドル(754円)に比べて0.27NZドル(24円)の上昇となる。
 この要因として同社は、飼料、肥料、エネルギーコストなどの農場運営費と収益上昇による税金の増加を挙げている。DairyNZの経済部長のストーリー氏によると、「コストの上昇にもかかわらず、25/26年度の見通しは依然として前向きであり、堅調な生乳価格に加え、農家は債務水準の低下と金利の引き下げから恩恵を受ける見込みだ」と述べた。一方で、「飼料コストのさらなる上昇やNZの輸入燃料への依存度を考慮すると、酪農家は特に生乳生産のピーク時にコスト上昇の可能性に備える必要がある」と述べた。また、DairyNZ会長のブラウン氏は、「世界市場の継続的な不確実性と主要経費の上昇圧力の中、酪農家は事前に計画を立て、予算に柔軟性を組み込むことが重要」と述べた。
 
(注1)農場費用に資本的支出とローンの返済元本は含まれていない。
(注2)乳脂肪分および乳たんぱく質。
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年6月末TTS相場。

【酪農家の高齢化と後継者問題】

 2025年6月に公表された農協系金融機関ラボバンクNZの調査によると、今後10年間で、果樹生産を含めたNZの約1万7320の農家の半数以上が65歳に達するとされた。さらに、同じく25年2月に450件の農場を所有する酪農家を対象に実施した、農業の事業承継計画の現状に関する調査では、所有者の32%は引退前に自分の農場を子供に譲るつもりであるが、39%は農業に真剣に興味を持つ子供がいないと報告している。また、正式な農業の事業承継計画を進めているのはわずか3分の1に留まった。農場承継計画を進める上での困難な課題として、1)高い参入コストや財務制約、2)次世代にとって農業が魅力的でないこと、3)政府政策(外国投資規制、気候変動規制)など−が挙げられた。
 ラボバンクNZのCEOのチャータリス氏は、「農業の継承問題は感情的でその解決の過程には時間がかかるものであり、農業資産の価値が上昇する中、国際情勢の動向、環境規制や気候変動の課題に直面しながら利益を維持する難しさから、農業の重要性は高まっている」としている。また、「農業の継承とは、家族経営の農場の所有権が世代間で移転されることを指すことが多かったが、現在は所有権の構造や土地利用の多様化のため、農場が異なる所有形態や運営形態に移行することも考慮していく必要がある」と述べている。
【田中 美宇 令和7年7月9日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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