中国農業農村部、酪農企業との座談会で企業の成功例を共有(中国)
中国農業農村部は2025年6月25日、「酪農業の支援を加速し、酪農業の質と量のレベルを引き上げる座談会」を開催した。この中で、同部の韓俊部長が、昨年以降価格低迷などで苦しい状況にある肉牛・酪農経営について、各種取り組み
(注1)により肉牛産業は実質的な進展が見られたが、酪農産業は引き続き困難な状況が続いているとして、今後、酪農について取り組むべき政策について講演した。
同座談会には首農グループ、伊利グループ、蒙牛グループなど酪農業界を代表する大企業のほか、河北(かほく)省および寧夏(ねいか)ウイグル族自治区の農業関係部署、中国乳牛協会などの代表者が参加し、酪農業の発展に向けて意見交換を行った。
韓俊部長の講演要旨およびこれに関連する中国企業の取り組みの実例を紹介する。
(注1)中国農業農村部が赤字経営に陥った肉牛および乳牛の飼養農家向けに取りまとめた支援策については「中国農業農村部、肉牛乳牛生産の安定化に関する通知を公表(中国)」(令和6年11月8日発)をご参照ください。
■今後、酪農について取り組むべき政策について
乳牛飼養農家、酪農企業への支援策を強化しなければならない。各地方が既存の支援策、例えば助成金の支給を確実に行うなど関連施策を着実に実施するよう指導し、信用貸付への支援を継続するとともに、乳牛飼養農場の観測を強化し、産出能力の低い牛の淘汰(とうた)を進めつつも、全体として生乳生産量が増加しないよう調整を図る。生乳生産者による酪農業への自信と酪農業の発展基盤、この双方を安定化することが重要である。取り組み方向としては次の通り。
(1) 各種措置により乳製品消費を増進し、乳製品の消費宣伝を強化し、乳製品は健康に良いという認識の向上を図るほか、2025年9月から施行される滅菌乳に関する国家基準(生乳の使用が原則とされている)の実施を進め、また、条件が整っている省において大学生の乳製品消費を促す。
(2) 乳製品に関する加工技術を深化させ、加工度合いの高い乳製品の商品開発、技術開発を強化するとともに、乳製品の高度加工に適した法令・標準の枠組みの整備を加速し、酪農業が生乳の簡易加工から高度加工に構造転換できるよう促す。
(3) 産業チェーン全体においてコストカットと品質向上を進め、酪農など畜産業での飼料穀物の節約を着実に実施し、疾病管理を適切に行い、飼養部門と加工部門の一体的な発展を推進し、各チェーンにおいて酪農業の質的発展を促す。
(4) 国内の品種改良力を引き上げ、企業が主導する商業ベースでの品種改良に関する連携の枠組みを整備するとともに、高効率な繁殖技術の研究開発・応用を推進し、改良と繁殖が一体的に行われる現代的な乳牛繁殖の仕組みを完備する。また、これにより、良質な国産改良種の創出と普及を拡大する。
■中国企業による取り組みの実例
中国の酪農業について現地酪農関係メディアは、「この2年間、中国の酪農業界は市場競争が激化し、下げ止まらない原乳価格に対して、過剰な生産能力の調整、企業の合併・再編、商品や経営モデルの刷新などを不断に行ってきた。上場酪農企業の8割は赤字経営と言われるが、一部の食品メーカー系列の酪農企業の中には成功例が見られる」としている。成功例のうち、前述の韓俊部長の発言に関連する実例を紹介する。
(1)乳製品の消費増進に関する成功例
天津食品グループ傘下の天津海河乳製品有限公司は、年間10億元以上(205億円:1元=20.49円(注2))の売上げを達成した。これは、同社が2022年から市場への投入を始めた乳飲料の「花色乳」シリーズがヒットしたためである。同社は若者、特に大学生が乳製品に対してやや偏った好みとニーズを持っていることを発見した。それは、栄養価よりも味やコストパフォーマンス、携帯に便利で、かつ、常温保存ができるものであることを重視する、というような好みである。過去の酪農企業が品質向上に力を入れていたとすれば、今の企業は人々の商品ニーズにより着目しなければならない、ということであろう。
この発見に基づき、同社はターゲット層を18歳から35歳の消費者とし、「おいしくて面白い」を中核とする販売戦略を打ち出した。同社が花色乳シリーズとして開発したのは、「さくら白桃」「香菜アボガド」「薄荷チョコレート」「おせんべいナッツ」など30種類以上の異なるフレーバーの乳飲料である。奇抜な味は消費者の好奇心を満足させ、想像力を刺激し、ネットでも話題となり、ブランドイメージが作られていった。同社は牛乳を売る会社から「情感価値」を提供する会社へと転換を遂げたのである。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年6月末日TTS相場を使用した。
(2)産業チェーン全体におけるコストカットの成功例
寧夏農墾グループ傘下の寧夏農墾乳業股份有限公司は、乳牛飼養頭数15万頭を誇る。「人と牛と飼料のコストを減らす」との考えで人件費や生産コストをカットし、2024年に4.6億元(94.3億円)のコストカットを実現したほか、デジタル化、管理の精緻化、販売ルートの開拓などに成功した。具体的な取り組み内容は次の通りである。
まず、従来、人が行っていた飼料の撹拌(かくはん)、乳牛への給餌(きゅうじ)などを機械化し、給餌工程の人件費を75%削減した。また、「精緻給餌」(飼育段階に応じて適切に配合したエサを過不足なく与えること)により、生乳1リットル当たりの飼料コストを2.52元(51.6円)から2.06元(42.2円)以下に抑制した。さらに、原乳の生産主体、流通途中のバイヤーなど関連の625社について、統一基準の導入などによる買い取りの規範化を進めるとともに、流通経路のシンプル化、買い取りの集中化、量の拡大などを進め、買い取りコストを全体で10%削減した。
同時に、乳量の低い雌牛や繁殖成績の悪い牛を淘汰し、優良な雌牛を導入することで優良雌牛の比率を54%向上する、産後管理をより適切に行うなどにより、乳牛1頭当たりの生乳生産量を2%引き上げた。
加えて、グループ幹部が自ら4つの営業部隊を率いて26の省・自治区に売り込みを掛け、24年に原乳71万トンの販売を達成した。これは、前年比18%の増加であり、かつ、増加分のうち43%は新規に開拓した販売ルートによるものであった。
【調査情報部 令和7年7月18日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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