畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2025年 > 農業由来GHG排出量削減技術の現在地、NZ政府は開発を更に加速(NZ)

農業由来GHG排出量削減技術の現在地、NZ政府は開発を更に加速(NZ)

印刷ページ
 ニュージーランド(NZ)第一次産業省(MPI:Ministry for Primary Industries)は2025年10月、農業由来の温室効果ガス(GHG)排出量削減技術の研究開発状況を取りまとめた進捗報告書を発表した。MPIはNZの農業由来GHG排出量削減に向けた取り組みを主導しており、官民ファンドであるアグリゼロNZ(AgriZeroNZ)および政府系研究機関アグエミッションセンター(AG Emissions Centre)への予算措置を通じて、新たなGHG排出量削減技術の開発・普及を推進している(図1)。
図1
 報告書によると、現在NZではGHG排出量削減技術として、1)酪農場の廃水をためる貯水池からのメタン排出を抑える薬剤処理サービス「エコポンド」、2)メタン排出量が少ない遺伝子を持つ羊群、3)肥料施用後の土壌からのGHG排出を抑制する尿素分解酵素阻害剤−の利用が可能とされている。これらに加え、30年までに11の新技術(注1)が導入される見込みとなっている(図2)。なお、生産者の15〜30%がこれら11の技術を導入した場合、農業部門のGHG総排出量の7〜14%を削減する効果があると試算されている。 
 
(注1)2030年までに実用化が期待される11の技術
※アグリゼロNZおよびアグエミッションセンターが投資・協業している技術
 1)継続的にメタン排出量を削減する生分解性の徐放性錠剤
・Ruminant Bio Tech(NZ):合成化合物が原料、反芻動物が対象

 2)メタン排出量を削減する飼料添加物(新たな機能成分)
・Agroceutical Products(NZ):スイセン由来の天然化合物が原料、牛が対象
・Agteria Biotech(スウェーデン):独自開発の機能分子が原料、牛が対象

 3)メタン削減と併せて生産性を向上させるプロバイオティクス系飼料添加物
・BiomEdit(米国):天然由来の微生物が原料、乳用牛が対象
・Bovotica(豪州):天然由来の微生物が原料、牛が対象
・Hoofprint Biome Inc(米国):天然酵素が原料、牛が対象

 4)メタン排出量を削減するワクチン
・Arkea Bio(米国):メタン生成菌の増殖を抑制、反芻動物が対象
・Lucidome Bio(NZ):メタン生成菌の増殖を抑制、反芻動物が対象

 5)メタン排出量を削減する飼料作物
・BioLumic(NZ):遺伝子制御により脂質量が多い牧草、反芻動物が対象

 6)亜酸化窒素排出量を削減する飼料作物
・Ag Research(NZ):オオバコの牧草地利用、反芻動物が対象

 7)メタン排出量が少ない遺伝子を持つ乳用牛
・Livestock Improvement Corporation(NZ):低メタン育種価を開発

 
図2
 NZ政府は25年10月12日、50年までの気候変動目標を見直し、農業由来のメタン削減目標を従来の「17年比24〜47%削減」から「同年比14〜24%削減」へと大幅に緩和することを発表している。メタン削減技術の開発には一定の進捗は見られるものの、農業部門の経済的影響を考慮した政策判断であると見られる。一方、農業由来のメタン排出に対する課税措置は導入しない方針が改めて示されており、技術革新による排出削減への期待が一層高まっている状況にある。NZ政府はアグエミッションセンターに対して、24年から29年にかけて1億4300万NZドル(129億3721万円:1NZ=90.47円(注2))の資金提供を約束しており、アグリゼロNZを通じた投資の拡大を含め、今後の動向が注目されている。
 
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年10月末TTS相場。 
【調査情報部 令和7年11月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4389