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インド政府が150万トンの砂糖輸出を許可(インド)

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最終更新日:2025年11月26日

 インド消費者問題・食糧・公共配給省は2025年11月14日、同省のプレスリリースを通じ2025/26年度(10月〜翌9月)に150万トンの砂糖輸出を許可する旨を発表した。今回の輸出許可は国内の余剰在庫の解消と国内価格の安定、さらに製糖工場ひいてはサトウキビ生産者の支援を目的としている。同国の近年の砂糖輸出については、気候変動に伴うサトウキビの減産や国内需要の確保、エタノール生産の拡大などを目的として制限されてきたが、前年度の100万トン(注1)に続き、2年度連続での輸出許可となった。
 製糖工場は25/26年度が終了する9月30日まで、直接または輸出業者を経由して輸出することが可能である。輸出を希望しない場合、3月31日までに輸出割当量の一部または全部を放棄するか、輸送コストの負担回避から輸出割当量を他の製糖工場の国内割当量と交換するかを選択できる。例えば、港から遠いパンジャブ州やウッタル・プラデーシュ州の製糖工場が輸送コストを理由に輸出を希望しない場合、港に近い他の製糖工場の国内割当量と輸出割当量を交換すれば、双方にメリットがある。
 150万トンの輸出割当量は過去3年度(22/23、23/24、24/25年度)の製糖工場の砂糖平均生産量に基づき、過去3年度のうち少なくとも1年度操業した製糖工場間で按分されるが、月間の在庫保有制限に違反した製糖工場や前年度の輸出枠が未調整の製糖工場については除外されている。同省は15州511の製糖工場に輸出枠を按分し、各製糖工場の過去3年度の平均砂糖生産量の5.286%を一律に割り当てている。州ごとの輸出割当量は、主要生産州であるウッタル・プラデーシュ州が最大の50万7090トン、次いでマハラシュトラ州が48万8467トン、カルナータカ州が24万7831トンであり、その結果、同3州で割当量全体の8割強を占めている(図)。なお、経済特区(SEZ:Special Economic Zone)内の精糖工場への砂糖供給は同割当量の範囲内であれば輸出とみなされ、事前認可スキーム(AAS:Advance Authorization Scheme)(注2)に基づく砂糖輸出は現行規定の下で継続できるとされている。
 
(注1)詳細については、2024年1月24日付け海外情報「インド政府が100万トンの砂糖輸出を許可(インド)」をご参照ください。
(注2)輸出製品の製造に必要な原材料の免税輸入を許可し、輸出促進を目的とする貿易優遇スキームのことで、砂糖では精製された後に再輸出することを条件に粗糖などの原料糖の輸入が免税となっている。
図
 インド砂糖・バイオエネルギー製造業者協会(ISMA)は、中央政府による本決定を歓迎し、時宜を得た輸出許可により、製糖工場は事前に生産計画を立て、余剰砂糖を世界市場に流通させることで、国内価格の安定維持に寄与するとした。
 ISMAは、10月1日から始まった25/26年度の砂糖生産量について、エタノール転用分の340万トンを差し引いたうえで、3095万トンと見込んでいる。一方、消費量は2850万トンと見込んでおり、これらの推計に基づくと国内の砂糖在庫量は745万トンと推定され、更なる輸出の余地があると言及し、追加の砂糖輸出が許可される可能性に期待している。
 一方で、ISMAは中央政府に対し、製糖業界の財政健全化とサトウキビ生産者への適時支払いを確保するため、製糖企業から卸売業者などへの砂糖の最低販売価格(MSP:Minimum Selling Price)やエタノール調達価格の見直しを検討するよう強く求めている。サトウキビの生産コストが上昇する中、19年2月以降、1キログラム当たり31ルピー(589円、1ルピー:19円(注3))で据え置かれているMSPの見直しが必要であるとした。サトウキビの公正収益価格(FRP:Fair and Remunerative Price)(注4)や州独自の買取価格である州勧告価格(SAP:State Advised Price)の引き上げを考慮すると、25/26年度の砂糖の生産コストは同41.7ルピー(792円)にまで上昇すると予測している。
 また、インドでは中央政府主導のエタノール混合ガソリン(EBP:Ethanol Blended Petrol)プログラムが実施されており、30年までに国内で流通するガソリンにエタノールを20%混合(E20)する目標が掲げられたが、25年7月にこの目標はすでに達成されたとする報道も流れている。国内でのエタノール需要が増加する中、直近ではトウモロコシなどの穀物由来のエタノールの急伸が目覚ましく、エタノール原料に占める割合はサトウキビ由来を上回っている。そのような状況において、10月末に公表された25/26年度最初の国営石油販売企業(OMCs:Oil Marketing Companies )によるエタノールの入札は総割当量の105億リットルに対し、穀物由来が72%、サトウキビ由来が28%の割り当てとなった。同措置について、ISMAはサトウキビ由来の割り当てが少ないとし、国内市場への砂糖の供給過剰、砂糖価格の下落、工場の資金繰り悪化、サトウキビ代金滞納リスクの高まりに繋がると懸念していた。
 しかし、現地報道によると、下落基調にあるニューヨーク粗糖先物相場(3(がつ)(ぎり))が21年4月以来となる1ポンド当たり14セント台(注5)と安値を更新する中、国内価格と比較して価格面で優位性が見いだせない状況にあることから、即時の輸出にはつながらないと考える業界関係者もあり、今後の動向が注目される。
 
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の10月末TTS相場を使用。
(注4)詳細については、2025年5月13日付け海外情報「2025/26年度のサトウキビの公正収益価格を引き上げ(インド)」をご参照ください。
(注5)1ポンドは約453.6グラム、1米セントは1米ドルの100分の1。

 
【調査情報部 峯岸 啓之 令和7年11月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9532