中国市場監督管理総局など政府機関が食品安全に関する取り組みを振り返り(中国)
中国は五カ年計画制度を採用しており、2025年は今期第14期5カ年の最後の年に当たる。26年から30年までの次期第15期5カ年に向け、各種政策分野に関する計画(中国ではこれらを略して「十五五」と称する)の策定が進められる中、中国市場監督管理総局
(注1)は11月25日、中国農業農村部、中国海関総署(税関)および地方政府と共同で食品安全に関するメディア懇談会を開催した(写真)。会には「サプライチェーン全体にわたってサンプル調査を展開し、サプライチェーン全体への監督を強化する」との副題が付された。本会の主な内容を紹介する。
(注1)中国市場監督管理総局が実施する食品安全の確保などに関する取り組みについては、海外情報『中国市場監督管理総局、2024年の市場取締り状況などを公表(中国)』(令和7年4月7日)をご参照ください。
2025年の食品安全に関する取り組み状況
食品安全サンプル調査は食品安全法に定められた法定事項の一つであり、市場監理監督部門の責務の一つであり、かつ、国民にとっては日々の安定感を得るための重要な指標の一つである。
今年に入ってから11月中旬までの間、既に全国で約570万回に及ぶサンプル調査を行った。不合格品の検出件数は15.6万件で、不合格率は2.7%、特に残留農薬の基準値超えや食品添加剤の濫用、微生物汚染などの件数が多かった。
このサンプル調査業務を、市場監督管理総局は主に次の4つの観点から実施している。
1 全面的な捕捉を大原則とし、サンプル調査がより説得力のあるものとなるようにすること。「大きなものを捕まえ、小さいものも逃さない」を方針とし、零細な食品加工場に対する調査の程度を強めている。調査対象も、スーパーマーケット、コンビニエンスストアや伝統的な農産品市場だけではなく、飲食店、セントラルキッチン、学内食堂など各種飲食サービス関係を既に網羅しており、宅配専門店、即売機能を兼ねたライブコマースの場、生鮮食品の電子商取引場のような新たな業態の事業者や輸入食品なども対象としている。これらの対象に関する食品安全についての確認項目は農薬、獣医療薬、微生物、食品添加剤など総計で2066項目にも及ぶ。これらの項目すべてに科学的な検査方法と検出基準が定められており、われわれ市場監督管理総局だけでなく、農業農村部、国家衛生管理委員会、海関総署、国家食糧および物資貯蓄部など関係部門が協力して調査に当たっている。
2 問題の発見を目的とすることによって、見通しを持ったサンプル調査を実施すること。サンプル調査に当たっては、「子どもが食べるもの」を重点とし、幼児向け食品生産企業は100%調査対象とするほか、幼児向け粉ミルクメーカーなどは「毎月検査」の対象とし、毎月全社調査を実施することで、幼児という国の宝の食の安全を全力で保障している。また、各省の市場監督管理部門は学校給食の調理場およびその食材提供場に対して「二周検査」を実施し、2年に一度すべての施設を検査することによって、児童には良い食を、保護者には安心を提供できるよう努めている。また、「問題がある」と認めた食品群も重点的に調査することとしており、今年は学内給食のほか、農村にはびこる劣悪食品、食肉の劣悪食品、食品添加物の乱用などについても重点的に調査した。今後も国民の関心が高い分野への監視の程度を高めていく。
3 科学の力でサンプル調査の精度を高めていくこと。研究開発を進めることによって、「検出できない、検出が不正確、検出が遅い」といった課題を克服し、農産品市場や学内食堂など重点調査対象の現場で速やかに検査できる方法を考案、整理し、問題発見の効率を高めていく。
4 「根本から取り除く」を旨とし、サンプル調査の波及効果を高めること。今期五カ年期間中(2020年〜25年)11月中旬までの間、調査の結果不合格とされた食品に関する行政処罰は107万件、罰金にして約43億元(約964億円、1元=22.43円(注2))、うち公安部門に移送した件数は1.3万件にのぼる。われわれは公安部門との連携を強化し、問題の原因を突き止めて根本から正すことに力を入れてきた。その結果、24年に不合格となった企業の数は20年に比べて約半数となっている。また一方では企業支援も強化しており、食品安全に関する技術専門家のバンクを各地に整備、公表することによって食品企業が問題を解決できるようにしている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2025年11月末日TTS相場を使用した。
農業農村部による食品安全に関する取り組み状況
農畜産品の食品安全に関する取り組みについて、農業農村部農産品品質監督管理局副局長は次のように説明した。
農業農村部は農畜産品の安全性を確保するため、四半期に1度重点区域に対して専門チームを派遣し、重点対象農畜産品の品質・リスク調査を実施している。毎回の調査では食品の分類ごとに各省で2都市を選定し、それぞれ3〜4の県(日本の市町村に相当)または区を対象に、生産現場、飼育場、と畜場、貯蔵施設、輸送車両、産地市場などあらゆる主体が調査対象となるようにするとともに、対象食品についてもコメや小麦といった大宗食品からその地域の特産品まで広く対象となるようにすることによって、国民が日々口にするあらゆるものが対象となるように努めている。
調査結果が広く社会から関心を持たれること、また、問題解決に向けて活用されることも重要である。調査結果を有効活用すべく、四半期ごとに耕種、畜産、水産、土地改良の行政担当部門が研究開発や技術の普及、リスク検査などの専門家、関連企業と座談会を開催し、調査結果に基づいて隠れたリスクがないか、その対処はどうするのかと言ったことについて討論し、また、提案を行うことを通じて、産業側と監督する側の相互協力を確保している。調査結果の公表にも努めている。
社会からの通報があれば迅速に対応し、また、国家衛生健康委員会など関連部門にわれわれからも情報提供することなどを通じてリスク管理を強化している。問題の発生が突出している地域または品目に対しては、啓発、警告などによりその地域の担当部門が責任を負うことも促している。
海関総署による食品安全に関する取り組み状況
輸入品の食品安全に関する取り組みについて、海関総署輸出入食品安全局副局長は次のように説明した。
海関総署は国家の門を守る立場から、輸入食品に対して厳格な輸入元国での「源頭管理」、税関での厳格な検査、輸入後の厳しい処置といった全チェーンでの監督管理体系を整備している。
まず、厳格な輸入元国での「源頭管理」について。食品は製造されるものである以上、源にさかのぼっての管理、具体的にはわが国に輸入された後のことに留まらず、輸入元国でも安全管理が適切に行われることが必要である。初めて中国に輸入される動植物を由来とする食品についてはリスク評価を適切に行うとともに、国外の輸入食品製造企業に対しては100%の企業登録を必須とし、また、高リスク食品については100%その国の政府機関が推奨リストに登録することを求めるなど、輸入元政府機関の監督責任と製造企業の製造責任とを不断に求めている。現在、輸入食品製造企業登録を実施しているのは178の国または地域の9.4万社に及ぶ。
次に、税関での厳格な検査について。海関総署は「デジタル通関強国」プロジェクトを実施しており、デジタル技術を活用した技術と設備によって輸入食品の一層の安全の確保とより科学的な検査・監督の実施に努めている。2025年1月から10月までの間、全国の税関で実施した輸入農産物・加工食品の検査実績は、9万7793個のサンプル品に対して96万回(1検査項目の検査を1回と数えた回数)であり、返送または破棄したものは7138個(包)に上る。違法行為への取り締まりも強化しており、同期間中86件を対象に26.5億元(594億円)相応の違反品を没収などするとともに、食品密輸など745件、密輸額にして81.7億元(1833億円)相応を起訴対象として移送した。
今後も海関総署として、輸入品の食品安全に関する責任の明確化、輸入先国の源頭以降全サプライチェーンの捕捉などを追及し、社会各界とともにより安全で安心に輸入食品が消費できる環境の構築を目指していく。
【調査情報部 令和7年12月9日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9532