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調査・報告 畜産の情報 2018年11月号

エコフィードによる生産コスト低減などの取り組み

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畜産経営対策部 養豚経営課

【要約】

 養豚経営における生産コストの6割以上は、配合飼料を中心とした飼料費が占めているが、主な原料であるトウモロコシなどは輸入に依存しており、海外の需給動向や為替レートなどによりその価格は大きく影響を受ける。トウモロコシなどの代替とすることで飼料自給率を向上させ、海外情勢により価格が左右されることのない国産飼料として期待されているエコフィードを利用している事例を調査した。その結果、地域独自の取り組みや補助事業の活用による生産コストの低減が確認された。

1 養豚経営の概要と現状

(1)飼養戸数は減少する一方、飼養頭数は900万頭以上を維持

 平成元年には約5万戸あった豚の飼養戸数は徐々に減少し、14年には1万戸を下回った。30年は平成元年の10分の1以下の4470戸となっている(図1)。
 
図1 豚の飼養戸数と飼養頭数の推移


 飼養規模別飼養戸数の構成比は、300頭未満の層では年々減少している一方で、2000頭以上の層では増加している(図2)。
 また、20年の飼養戸数と比較すると、2000頭以上の層は伸びているものの、その他の層では軒並み減少している(図3)。
 
図2 肥育豚飼養頭数規模別の飼養戸数構成比

 
 
図3 飼養頭数規模別飼養戸数の増減率


 全国の飼養頭数は、21年以降減少傾向にあり、30年は918万9000頭となっている(図1)。飼養戸数が小規模層を中心に減少する一方、飼養頭数は増減を繰り返しているものの、900万頭以上を維持している。このように飼養戸数が減少する中、飼養頭数はほぼ一定の水準を維持していることから、1戸当たりの飼養頭数は拡大している。
 

(2)収益には、配合飼料価格が大きく影響

 養豚農家の収益は、平成20年度には配合飼料価格の上昇による生産費の増加を受け、前年度から低下した。加えて、21年度には豚枝肉価格も下落したため、さらに低下した(表1)。
 
表1 肥育豚1頭当たりの生産費および販売価格の推移


 22年度には、枝肉価格の上昇および生産費の減少からプラスに転じたものの、23年度および24年度は、枝肉価格の下落および配合飼料価格の上昇により再び低下した。25年度以降、配合飼料価格は依然高水準であったが、国内での豚流行性下痢(PED)発生の影響などによる出荷頭数の減少から枝肉価格が上昇したことで、26年度にはプラスに転じている。
 28年度の肥育豚1頭当たりの生産費に占める飼料費の割合は、63%となっている(図4)。この割合は、牛1頭当たりの生産費に占める割合(繁殖(子牛生産)牛39%、肥育牛34%、搾乳牛46%)と比較して大きいため、牛以上に配合飼料価格などの飼料費変動の影響を受けやすいことがわかる。
 
図4 肥育豚1頭当たりの生産費構成割合
 
 

(3)輸入に依存する配合飼料からエコフィードへ

 エコフィード(ecofeed)とは、“環境にやさしい”(ecological)や“節約する”(economical)などを意味する“エコ”(eco)と“飼料”を意味する“フィード”(feed)を併せた造語であり、食品製造副産物(しょうゆかすや焼酎かすなど、食品の製造過程で得られる副産物)や売れ残り(パンやお弁当など、食品としての利用がされなかったもの)、調理残さ(野菜のカットくずや非可食部など、調理の際に発生するもの)、農場残さ(規格外農産物など)を利用して製造された家畜用飼料のことをいう。
 わが国の畜産における飼料供給の8割は濃厚飼料が占めており、原料となるトウモロコシなどの飼料穀物は輸入に依存していることから、その価格は海外の需給動向や為替レートなどによりその価格は大きく影響を受ける(図5)。
 
図5 若豚肥育用の配合飼料価格の推移


 エコフィードや飼料用米は、それら原料の代替とすることで飼料自給率の向上が期待されている。特にエコフィードは、食品の大量廃棄や最終処分場能力の逼迫ひっぱくが深刻化している中、再生利用の手法の一つである食品廃棄物の飼料化は、食品リサイクル法において、発生抑制の次に優先すべきものとして位置付けられている。

2 エコフィードの現状と課題

(1)食品廃棄物などの発生量と再生利用

 平成28年度の食品産業における食品廃棄物などの年間発生量は1970万トンで、業種別による食品残さの発生割合は、食品製造業82%、食品小売業7%、外食産業10%、食品卸売業1%となっている(図6)。
 また、食品廃棄物等の再生利用実施量は1398万トンで、発生量の約7割を占めている。再生利用の用途別の内訳は、飼料が1027万トンと最も多く、肥料を含めるとその約9割が農業分野に還元されている(図7)。

 
図6 食品廃棄物等発生量

 
 
  図7 食品廃棄物等の発生量に係る用途別再生利用実施量
 

(2)エコフィードの製造量

 エコフィードの製造量は年々増加しており、平成29年度(概算)の製造数量は、可消化養分総量(TDN(Total Digestible Nutrients:家畜が消化できる養分の総量))換算で122万TDNトンとなっている。これはトウモロコシ約152万トンに相当し、その年間輸入数量の15%に相当する量となっている。
 29年度(概算)のエコフィード製造数量122万TDNトンのうち、34万TDNトンは国産原料由来である(図8)。平成27年3月に閣議決定された、現行の「食料・農業・農村基本計画」における37年度の濃厚飼料自給率20%の達成のためには、同年度までに国産原料由来のものが50万TDNトンまで拡大する必要があるとされている。
 
図8 エコフィードの製造数量の推移

3 エコフィードの取り組み事例

(1)株式会社すが


ア 経営の概況
 株式会社菅与(以下「菅与」という)は、秋田県南部の中心である横手市に本社を構える一貫経営の養豚事業者である。平成元年に同市に設立された飼料販売会社から始まって、飼料と肉豚の運搬業にも進出し、現在は売り上げの中心になっている養豚業に加えて、酪農業や肉用牛(日本短角種)の肥育も行っている。
 秋田県、山形県および岩手県に繁殖豚舎15棟、肥育豚舎25棟を有し、肉豚を年間5万8000頭出荷し、北海道においても繁殖豚舎8棟、肥育豚舎14棟を有し、肉豚年間2万8000頭を出荷している。母豚は、イワタニ・ケンボロー社の技術指導を受けてきた経緯からハイブリット豚(ケンボロー)を使用し、豚舎を繁殖、離乳および肥育のステージごとに分ける3サイトシステムの導入などにより肉豚の平均出荷日齢は165日、出荷体重130キログラムと全国平均を上回っており、肉豚の約7割はエコフィード給与をしたブランド豚として販売されている。
 菅与は、自社で食品リサイクル工場を有している。同工場は17年に操業を開始し、食品メーカーなどから提供される食品残さを原料としてエコフィードを製造している。このエコフィードを活用して畜産業を営む一方で、豚の肥育中に排出されるふん尿をたい肥製造の原料として利用している。このたい肥を、自社で生産するデントコーンや飼料用米などの飼料用作物の肥料として利用し、収穫された作物が畜産業の飼料となることで資源循環を実現している。

イ 飼料について
(ア)エコフィード活用の取り組みを始めた経緯
 菅与がエコフィードの取り組みを始めたきっかけは、地元のパン工場から排出される毎日2トンもの食品残さを畜産業において有効利用できないかという提案があったことである。この提案を受け、産業廃棄物収集運搬業者の協力のもと、各工場の視察を重ね、エコフィードとして給与できる食品残さを確保できることが判明し、17年に産業廃棄物処分業の許可取得と同時に食品リサイクル工場を横手市内に設立し、年間約700トンの食品残さからエコフィード製造を開始した(図9)。
 
図9 菅与のエコフィードなどの資源循環の流れ


(イ)エコフィード活用に関する取り組み
a エコフィードの原料
 エコフィードの原料として、平成28年は、年間で約8600トンの食品残さを東北地域の約70社から受け入れている。その中で最も多いのはホエイなど「液体」もの、次に菓子パンやパン生地などのパン類(写真1)、稲庭うどんなどの麺類(写真2、3)が続いている。
 
写真1 菓子パンなどのパン類。 


   写真2 稲庭うどんなどの麺類   写真3 うどん生地を細かく粉末状にしたもの
 

 パン類や麺類は、製造工場の基準で廃棄になったものや流通在庫を使用している。これら以外の原料としては、酒かす、納豆、おから、冷凍食品などがある。
 菅与は、食品残さを提供する食品メーカーなどとそれぞれ受け入れの条件を書面により協定を結んだ食品工場からの食品残さのみを受け入れている。菅与の食品リサイクル工場では、食品残さをキログラム単位で管理し、1ケースごとに同工場の従業員の目視により異物が混入していないかなどの確認が行われている。また、収集先の食品工場からの視察を年1回受け入れている。
 また、菅与はこれら食品残さについて、賞味期限切れの食品は原料として使用しないこと、包装された食品残さの開封作業は手作業で行うことなどにより、飼料としての安全性を確保するとともに、質の高いエコフィードを製造している。
 その運搬方法は、食品メーカーが食品リサイクル工場に直接持ち込む方法と産業廃棄物運搬業者が仲介者として持ち込む方法、菅与が食品メーカーから回収する方法の3通りがあり、それぞれで異なっている。

b エコフィードの製造方法
 菅与で豚に給与しているエコフィードは、すべてリキッドの状態である。そのリキッドは、パン類・麺類を軸とした固形原料を1、シロップかすなどの液体原料を3から4の割合で製造しており、その年間製造量は約9400トンである(写真4)。
 製造されたリキッドは、工場内のタンクに貯蔵され、毎日計56トンを自社のタンクローリーにて菅与の各農場に運搬し、各農場で配合飼料などと混合して、豚に給与している(写真5)。
 
  写真4 リキッド製造のため、かき混ぜている様子   写真5 製造されたリキッド保管タンク

 
 工場で製造されるリキッドのエコフィードは、発酵によってpH4付近(酸性)になるように調整されており、これにより工場内のタンクで1週間保存が可能である一方、冬場は温度が低いことから、発酵の進行度合が遅くなるため、原料の調整などを工夫することでpH調整をしている。
 また、発酵に当たっては、自社で培養した乳酸菌を含む液体を添加している。エコフィード取り組み開始時より自社でさまざまな乳酸菌について研究を重ね、豚にとって増体率の良いものを使用している。

c エコフィードの製造費用など
 菅与では、エコフィードの利用を開始するに当たり、約5億円の費用をかけ、食品リサイクル工場やリキッドのエコフィードを給与する配管システムを豚舎に整備している。
 現在のエコフィード製造費用では、人件費の占める割合が最も大きい。食品メーカーなどからの食品残さは、製造された菓子パンのように包装された状態で集積されるものも多く、開封作業をすべて手作業で行うためである(写真6)。

 
写真6 菓子パンなどの包装を開封している様子
 

 次に、光熱費の割合が大きくなっている。これは、パン・麺の生地、酒かすは機械を使って熱を加え、細かくすることで液体に溶けやすくしていることや、かき混ぜた後にも機械を使って熱を加えていることが要因である(写真7、8)。


  写真7 原料を細かく粉状にし、液体に溶けやすくする機械   写真8 かき混ぜたリキッドを加熱して発酵しやすくするための機械


 エコフィードの原料費は、全体として1キログラム当たり0.5円から1円であり、製造費用において大きな割合を占めていない。
 なお、配合飼料のみで肥育される肉豚と比較するとエコフィード・配合飼料混合飼料により肥育される豚では、経営全体で約25%の飼料コストを削減できるとのことである。

d エコフィード給与豚(銘柄豚の笑子豚(エコブー))の販売
 菅与では、エコフィードにより飼育された豚は「笑子豚(エコブー)」として、わかばグループなど地元の畜産物の販売店に販売している。
 「笑子豚」とは、「子供を囲んで笑いのある明るい食卓に」という願いを込めて名付けられもので、栄養成分は表2の通り、エネルギーや脂質が配合飼料のみで肥育した一般の豚肉の約3分の2で、その反面、炭水化物が同約23倍となっている(表2)。このため、甘みと旨みがある脂が特徴の軟らかい肉質となっている。
 
表2 笑子豚(バラ)の成分分析表


 また、「笑子豚」の販売では、プレミアムといった上乗せ価格は設定されてない。これはエコフィードを飼料として利用することで飼料経費の削減になっており、この差額で十分な利益を得ていることから、購入する消費者のために価格は変えていないとのことである。ここにも「笑子豚」に込めた願いがうかがえる。

(ウ)エコフィード活用の取り組みに関する課題

 現在のエコフィードの需要に対して、食品リサイクル工場の製造能力が追い付いていない。その上、製造能力以上に、原料となる食品残さを菅与の食品リサイクル工場に持ち込みたいという業者からの依頼もある。この依頼に応えるため、秋田県内において新しい食品リサイクル工場の建設を検討しているとのことである。
 さらに、飼料として利用できない食品残さについても有効利用するためにバイオマス発電設備の建設を計画している。

(2)有限会社大西海だいさいかいファーム


ア 経営の概況
 有限会社大西海ファーム(以下「大西海F」という)は、長崎市と佐世保市との中間に位置する西海市内の一貫経営の養豚事業者である。長崎県の養豚事業者が減少している中で、安定的な豚の生産頭数を確保するため、平成10年に長崎西彼農業協同組合が設立し、28年の肉豚出荷頭数は約3万頭である。また、現在は養豚業のほかに肉用牛(黒毛和種)の肥育を行っている。
 大西海Fは、西海市内に4農場を所有し、そのうちの一つは「大西海SPF豚」を生産する農場である。

イ 飼料について
(ア)エコフィード活用の取り組みの経緯
 平成21年に疾病の影響で生産性が低下し、経営が悪化したことから、まず疾病対策の徹底により生産性向上に取り組んだ。さらに、豚の行動を観察し続けた結果、餌の形状によって食い付きに差が出ており、粉状の餌よりもリキッド状の餌を好むことが分かった。また、リキッド状の餌に切り替えることで、粉じんによる呼吸器疾患の減少にもつながり、総合的な経営改善策になると判断し、エコフィードのリキッドフィーディング導入に至った。
 同年に農林水産省の地域バイオマス利活用交付金を活用してリキッドフィーディング装置(約1億円)を導入し、26年には、長崎県のエコフィード利活用畜産経営安定チャレンジ事業を活用して食品残さの飼料化装置(約1400万円)を導入し、自社でのエコフィードの製造が可能となった。

(イ)エコフィード活用の取り組み概要
a エコフィードの原料について
 エコフィードの原料として、平成28年は、年間で約9300トンの食品残さを受け入れ、その約9割をシロップかすと焼酎かすが占めている。これら以外の原料としては、パンくず、食品残さスープ、小麦粉などであり、焼酎かす取引量の一部を除き、県内でも近隣の地域から調達し、これら原料から、自社でエコフィードを製造している(図10)。

 
図10 大西海Fのエコフィードなどの資源循環の流れ


(a)焼酎かす
 長崎県および福岡県内の酒造メーカーから焼酎かすを引き取っている。焼酎かすが発生するタイミングは一定ではないことから、各メーカーと調整を行い週に1〜4回引き取っている。
 焼酎かすの焼却処理費と運送費は、酒造メーカーにとって大きな負担であったため、大西海Fが飼料として引き取ることはその克服に大きく貢献している。

(b)シロップかす
 焼酎かすは独特の苦味があり、豚の嗜好性が悪いため発育に影響が出てしまったが、甘みのあるシロップかすを混ぜることにより格段に嗜好性が向上したことから、焼酎かすの給与量を引き上げることができた。
 シロップかすを保管する専用のタンクの設計、造設は大西海Fの職員が行っている(写真9)。
 
写真9 大西海Fの職員が設計・造設したシロップかす専用のタンク

(c)食品残さスープ
 近隣の廃棄物処理業者から1週間に約10トンの食品残さスープを購入している。原料は、食品残さや菓子くず、野菜くず、規格外野菜などで、製造される食品残さスープの成分は年間を通して大きく変動することはない(写真10、11)。

 
写真10 未使用で廃棄となったにんじん

 
写真11 葉物野菜の外葉など調理段階で廃棄となったもの
 
(d)その他
 大西海Fは、エコフィードの導入以前は豚の肥育仕上げ期に麦類を20%含む配合飼料を使用し、高い肉質の評価を受けていた。エコフィードの導入後は、肉質低下を防ぐことを目的に、パンくず・小麦粉をエコフィードの原料として使用している(写真12)。
 
写真12 廃棄となったサンドイッチ類

b エコフィードの給与について
 大西海Fは、分娩舎および肥育舎でドイツのWEDA(ウェーダ)社のリキッドフィーディングシステムを導入している(写真13)。このシステムはコンピュータ管理により、1頭(肥育豚は1ロット)ごとの飼料を摂取する目標や実績などを算出し、それらから算出された餌の給与時刻と給与量に基づき、原料を配合・加熱しながらかき混ぜることで製造した液状の餌を、個体ごとにきめ細かに給与することができる。また、スマートフォンによる遠隔操作により、24時間外部からの操作も可能とのことである(写真14)。


  写真13 飼料の摂取状況を確認することができ、必要に応じて原料を調製する      写真14 農場不在時の緊急事態にはスマートフォンで対応できる

 また、技術的なトラブルがあった場合、日本とドイツとの時差の関係上、WEDA社にその日のうちに解決策を確認できないことがある。しかし、給餌を止めることはできないため、場長が日々の勉強と実践を繰り返したことで、現在では大抵のトラブルは半日以内に解決できるようになった。部品の取り寄せは2日以上かかることから、緊急的な部品交換にも対応できるよう常にさまざまな部品をストックしている。

(ウ)エコフィードの活用体制について
 平成25年に、「長崎県食品リサイクルループ高効率システム構築検討会」が農林水産省の農山漁村6次産業化対策事業のうち食品環境対策推進事業(新たな食品リサイクル推進事業)を活用して発足し、開催されている。
 この検討会は、長崎県におけるエコフィードの普及を目的とし、畜産(養豚)農家、食品排出事業者および廃棄物処理業者がそれぞれの立場から意見を出し合い、食品リサイクルについて検討を重ねているものである。廃棄物処理業者が食品残さスープを製造する際には、飼料コンサルタントや食品系団体からアドバイスを受けたり、研究機関での試験実施の協力を得るなどして、検討会の参加者が一体となって地域の食品リサイクル体制を築いている。

(エ)エコフィード導入後の変化・所感
a 生産コストについて
 エコフィードは、乾物換算で配合飼料の約16%が代替できており、その結果、約15%の生産コスト削減ができている。これは、エコフィード導入当初のコスト削減目標を達成しており、現状を維持することに努めている。

b 販売について
 大西海Fは、12年からSPF豚を出荷開始し、販売店では「大西海SPF豚」などのブランド名で販売されている(写真15)。
 
写真15 店頭で販売されている様子

 取材したLaLaあたご(長崎市内にある生活協同組合ララコープの愛宕支店)では、豚肉は「大西海SPF豚」として販売されている。
 販売開始時から大西海Fの「安全・安心で美味しい豚肉」に賛同し、厚い信頼関係を構築しており、これからも関係を維持していきたいとのことであった。
 なお、販売先からは生産量の拡大を求められているが、豚舎の稼働率は限界であり、敷地に余裕がないことから増築が困難なため、生産量は拡大できない。

(オ)今後の課題と方向性
 長崎県は離島が多く、海岸線も長く複雑に入り組んでいるという地理的な特徴から、関東などの陸路に恵まれたほかの地域に比べて原料の調達が容易ではない。このため、大西海Fでは、現在のエコフィードの使用状況を維持し、さらなる安定的な原料の確保に資するため、新たな原料の導入を検討しているものの、同社の導入方針に沿うことを条件とすると地理的な特徴も相まって難しい。
 大西海Fの原料導入の方針は、基本的には肉質向上のための小麦粉は除き、乾物での単価と可消化養分総量当たりの価格が丸粒トウモロコシの価格以下であれば積極的に利用している。
 現在、新たにばれいしょや豆腐かすの導入を検討しており、豆腐かすはすでに引き取り依頼が来ている。腐敗が早いことから導入は慎重に検討する必要があるものの、たんぱく質量当たりの価格が大豆かすの2分の1程度の製造コストになれば前向きに検討する意向である。

4 おわりに

 調査事例から、エコフィードを活用することで養豚経営におけるコストの低減が図られていることが確認できた。また、エコフィードを給与した豚の評価はいずれも高く、豚の嗜好性が向上し、発育も良くなった事例からもエコフィードをうまく導入することで生産性が向上し、経営改善の成功につながることも確認することができた。
 今回の調査で特に明らかになったことは、関係各者との連携の重要性である。養豚事業者と食品産業や廃棄物処理業者など他産業が連携することで、それぞれの経営の効率化が促されるとともに、共存することで地域産業としての地位を確立させている。これは、各経営者の創意工夫が重要であることに加えて、関係者から得た情報をいかに活用するかがポイントとなっているといえるだろう。
 また、食品残さなどの飼料化は、それ自体が有する豊富な栄養価を最も有効に活用できる食品リサイクルの手法の一つである。 
 農林水産省では、「エコフィードについて」
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/ecofeed.html
というサイトでエコフィードに関するさまざまな情報を提供しており、環境省でも、エコフィードに関連する食品リサイクル法等の特例制度や廃棄物処理法の運用に関する通知を紹介する資料集「養豚業におけるエコフィードの利用の促進と廃棄物処理法制(ガイドブック)」

(http://www.env.go.jp/recycle/food/kanren_siryo/ecofeedguidebook1504.pdf)
をホームページで公表しており、多角的な情報収集も可能である。
 畜産業における地域の連携といえば、まず、耕畜連携が挙げられるが、食品リサイクルという側面においても畜産業、とりわけ養豚業の果たす役割は大きい。エコフィードの取り組みは、食の安全・安心、そして環境にも寄与することを広く普及させることができれば、消費者の豚肉の継続的な購入意欲につながり、養豚経営の安定に資すると考えられる。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246