本章では、パルミジャーノ・レッジャーノ、ゴルゴンゾーラなど、日本でもなじみのあるGIチーズを多く生産し、また、産品ごとの生産量も多いイタリア産GIチーズについて取り上げることとする。
イタリア産チーズがGI制度の認定を受けるためには、まず、チーズの種類ごとに組織された保護協会(Consorzio)が仕様書を作成し、規制当局であるイタリア農業省に提出する必要がある。イタリア農業省で審査された仕様書案が欧州委員会に提出され、欧州委員会での審査を経て最終決定されることにより、当該チーズがGI制度で認定される。
なお、GI登録数は年々増加傾向にある。
(1)イタリア産GIチーズの生産、輸出の推移
イタリアのチーズの生産量は増加傾向で推移しており、2017年は126万トン(対前年比2.3%増)であるが、そのうち4割を超える54万トン(同1.6%増)がGIチーズ(PDOチーズ)である(図8)。
GIチーズ(PDOチーズ)の中で生産量が多いのはハード系のグラナ・パダーノ(約19万トン)やパルミジャーノ・レッジャーノ(約15万トン)、次いでブルーチーズのゴルゴンゾーラ(約6万トン)となっている(図9)。
先述のとおり、EU全体でみると、GIチーズは非GIチーズの1.59倍の価格で販売されている。なお、生乳取引価格(2015〜2017年平均)について見てみると、GIチーズの生産量が多いイタリアは100キログラム当たり34.56ユーロ(1キログラム当たり44.93円)であり、EU28カ国平均の同31.37ユーロ(同40.78円)を10.2%上回っている。このことから、GIチーズが評価され、高値で取り引きされることで、イタリアの酪農家の収入の向上につながっていることがうかがえる。
輸出量について、生産量の大きいグラナ・パダーノ、パルミジャーノ・レッジャーノと、ゴルゴンゾーラをみると、いずれも増加傾向で推移している(図10、図11)。なお、2017年は、グラナ・パダーノ、パルミジャーノ・レッジャーノは生産量の26%を、ゴルゴンゾーラについては、同35%をEU域内・域外へ輸出している。
なお、GIチーズ生産者からは、日EU・EPAにより、「関税の削減によって、日本の消費者がGIチーズを手に取りやすくなるだろう」と期待するものの、「GIチーズはそもそもの価格が高いため、関税の削減によって爆発的に日本への輸出量が増えるものでもない」とのコメントが得られた。
(2)イタリア産GIチーズの中で最大の生産量を誇るグラナ・パダーノ
グラナ・パダーノは、1996年6月にPDO(イタリア語ではDOP:Denominazione di Origine Protetta)として登録されたハードタイプのGIチーズである。
グラナ・パダーノの大手生産者である、ザネッティ社によると、イタリアで生産される生乳の2割、仕様書で定められた生産地域(5州(ロンバルディア州、ヴェネト州、ピエモンテ州、トレンティーノ・アルト・アディジェ州、エミリア・ロマーニャ州)34県の定められた地域)で生産される生乳の4割がグラナ・パダーノ製造に使用されているという。
GI制度で保護されるということは、その製造に係るさまざまな事柄が仕様書で定められることになる。グラナ・パダーノについては、グラナ・パダーノ保護協会により、例えば以下の事柄が定められている。
•チーズは、仕様書で定められた指定地域(生産地域のうち33県の定められた地域)(図12)で、製造および熟成されなければならない。
•原材料は、生産地域内で育てられた牛から搾乳した生の牛乳、天然乳清、子牛由来のレンネットでなければならない。
•乳牛の飼料のうち、飼い葉の乾物の75%は、生産地域で生産されたものでなければならない。その他、給餌できる飼料は限定されている。
•搾乳は1日2回までで、生乳は無殺菌のままクリームと自然分離させ、部分脱脂して使用しなければならない。
•チーズの形状については、直径は35〜45センチメートルで端部(側面)は高さ18〜25センチメートル、重量は24〜40キログラム、外皮は固く滑らかで、厚さ4〜8ミリメートルでなければならない(写真7)。
このような、細かな仕様を守って製造されたものが、グラナ・パダーノとして認定される。
なお、グラナ・パダーノ保護協会の会員になっている製造業者は132社、熟成業者は156社となっている。また、130社がグラナ・パダーノのカット・包装の認可を、30社が粉末加工の認可を受けている。