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〜地理的表示(GI)で保護された伝統的なチーズ〜

特集:TPP11協定および日EU・EPAにおける代表的な畜産物の輸出見通し  畜産の情報 2018年12月号

EU産チーズの輸出見通し 
〜地理的表示(GI)で保護された伝統的なチーズ〜

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調査情報部 前田 絵梨、佐々木 勝憲

【要約】

 EU産チーズが評価される点として、その特性や品質が挙げられるが、それらが地理的表示(GI:Geographical Indication)制度により保証されているチーズ(GIチーズ)がある。日EU・EPAは、EUの乳業界も注目しており、特にGIチーズについては、EU側の関心が高い分野となっている。EUのGIチーズ生産者は、日EU・EPAにより日本でのEU産GIチーズの消費拡大を期待しているものの、生産地域などが限定されるGIチーズは生産量を急激に増やすことができないため、日本への輸出量が急増する可能性は低いとみられる。

1 はじめに

 EUは、生乳生産量で全世界の約2割を占める大産地である(図1)。チーズについてみると、年間の生産量は1000万トンを超え、第2位の米国の2倍近くを生産している(図2)。生産されたチーズの大部分はEU域内で消費され、生産量の1割弱が輸出に仕向けられている。輸出に仕向けられているのは、生産量の一部とはいえ、年間の輸出量は80万トンを超え、第2位の米国の2倍以上を輸出している(図3)。
 

 

 


 なお、日本は、EUのチーズ輸出先国第2位で輸出量の約1割がわが国に仕向けられている。一方、わが国のチーズ輸入先を見ると、EUが3割以上を占め、最大の輸入先となっている(図4)。
 


 わが国とEUは、2013年に交渉が始まった日EU経済連携協定(日EU・EPA)について2017年12月に妥結し、2018年7月に署名式を行った。
 日EU・EPAの合意内容によれば、チーズに関しては、EU産のハード系チーズは関税が段階的に引き下げられ16年目に撤廃となり、ソフト系チーズには関税割当枠が設定され、枠内税率は段階的に引き下げられ16年目に無税となる。また、その他に、日EU間で地理的表示(GI:Geographical Indication)について相互に保護されることになる。
 EUの最大の関心事項は、EU産農畜産物の、1億人を超える日本市場へのアクセス改善であった。その中でも、パルミジャーノ・レッジャーノやゴルゴンゾーラなどのGIで保護される伝統的なチーズを多く有するEUの乳業界にとって、日EU・EPAは非常に関心の高いものであった。
 本稿では、EUのチーズ生産と輸出の現状とともに、EU側の関心の高かったGI制度で保護されたチーズのうち、産品数が多く、また産品ごとの生産量の多いイタリア産について、その制度や生産・輸出状況、日EU・EPAの合意内容を踏まえた今後の輸出に対する生産者の見解などを、2018年9月に実施した現地調査を踏まえて報告する。なお、本稿の為替レートは、1ユーロ=130円(2018年10月末時点)とした。

2 EUのチーズの生産・輸出の動向

(1)チーズ生産量

 2017年のチーズ生産量は、前年比1.9%増の1022万トンとなった(表1)。生乳生産量が増加傾向で推移する中、チーズの生産量も増加傾向で推移している。チーズは、EU域内外からの需要が高い上、付加価値製品として利益率が他の乳製品よりも高くなっている。



 

  欧州委員会は、2018年および2019年の生乳出荷量をそれぞれ前年比0.8%増、同0.9%増と見込んでいる。また、チーズの生産量は同2.0%増、同1.5%増、バター生産量は同0.1%増、同0.9%増と見込んでおり、生乳出荷量の増加分は、バター・脱脂粉乳よりも利益率の高いチーズ・ホエイに仕向けられると見込まれる。EU産チーズは、種類の豊富さやブランド力などにより輸出量を拡大させており、アジアなどを中心に今後も増加が見込まれている。
 なお、今回の現地調査で、2017年に環境保護を目的として、リン酸塩排出削減のために乳牛の(とう)()を行い2018年の生乳出荷量が前年を下回って推移しているオランダにて聞き取りを行ったところ、今後のチーズ生産について、同国の大手乳業メーカーからは「たとえ生乳出荷量が減少したとしても、チーズ以外の乳製品への仕向け量を減らしてチーズ工場をフル稼働させるので、チーズ生産量は増加し続けるだろう」とのコメントが得られた。

 

(2)チーズ輸出について

 2017年の輸出量は、前年比3.7%増の83万トンと過去最高となり、2014年から始まったロシアの禁輸措置以前の水準を超えている(図5)。主な輸出先は、米国(輸出量に占めるシェア17.0%)、日本(同11.4%)、スイス(同7.3%)、韓国(同5.4%)、サウジアラビア(同4.9%)の順となっている(図6)。また、チリ向け、中国向けは、それぞれ同2.5%、同2.2%とシェアは小さいものの、対前年比では、それぞれ121%増、31%増と大きく増加している。

 


 


 欧州委員会は、チーズ生産量が増加傾向で推移すると予想される中、チーズ輸出量は、2018年を前年比1.5%増、2019年を同2.0%増と見込んでいる。
 長年にわたり、日本へゴーダチーズなどを輸出しているオランダの大手乳業メーカーからは「日本のチーズ消費量は、今後伸びる余地がある。食の西洋化はさらに進み、チーズを食材の一つとした料理や若い人が好むチーズを使用した多国籍料理も増えている。例えば、チーズ入りのお好み焼きなど、和食でもチーズの使用が増えている。日本向け輸出は、特に業務用のチーズが増えていくだろうが、日EU・EPAにより輸出量が急激に増加することはないだろう」とのコメントが得られた。
 なお、EUで生産されるチーズの9割以上がEU域内で消費されており、各チーズメーカーは、EU域内市場を最も重要な市場と捉えているものの、EUはすでに成熟市場でもあることから、今後の販路として、中国、日本、韓国などのアジア諸国、北アフリカ、中東、南米といったEU域外の市場拡大を目指している。日本市場は重要な市場ではあるものの、輸出先のひとつであり、日本への輸出量などについては、世界的な需給動向を踏まえて検討するという態度であった。



 
 

3 GI制度で保護されるEU産チーズ

 EU産チーズが評価される点として、その特性や品質が挙げられるが、それらがGI制度により保証されているのがGIチーズである。EUの各地でさまざまな特徴あるチーズが生産されており、2010年時点のデータによるとEU産チーズのうち、約1割がGIチーズであるとも言われている。世界中で作られているゴーダチーズ、モッツァレラチーズ、チェダーチーズは一般的なチーズの名称であるが、例えば、オランダで作られるゴーダチーズの中には、GI登録された「ゴーダ・ホラント」がある。同様に、イタリアで作られるモッツァレラチーズの中には「モッツァレッラ・ディ・ブファーラ・カンパーナ」が、英国で作られるチェダーチーズの中には「ウェスト・カントリー・ファームハウス・チェダーチーズ」が、GI登録されている。
 同制度は、地域特有の伝統的生産方法や生産地の自然的な要因によって、ほかには無い特性、高い品質、評価を獲得しているものについて、地理的表示(知的財産)を保護し、生産者と消費者の利益を守るものである。EUでは、すでに3000を超える農林水産物・食品・飲料が、GI制度により保護されている。

(1)EUにおけるGI制度

 EUにおけるGI制度の代表的なものには、農産品および食品の品質制度に関する「欧州議会・理事会規則(EU)No1151/2012」に基づく原産地呼称保護(PDO:Protected Designation of Origin)と地理的表示保護(PGI:Protected Geographical Indication)がある(表2)。GI制度で保護を受けるためには、EU域内の生産者団体などが各加盟国の政府を通して欧州委員会に申請し、欧州委員会により要件に適合していると認証される必要がある。

 


 EUのGI産品の名称は、透明性を確保するため、厳しい基準に基づいたシステムによって認証を受けており、GI産品は、正確な仕様を遵守しなければならない。
 GI制度で保護された産品は、3389産品(2018年8月時点)あり、ワインが5割以上(1763産品)、食品が4割(1374産品)を占めている。なお、チーズは235産品が登録されており、食品の約2割を占めている。
 国ごとにみると、登録数が最も多いのはイタリアで900産品(写真3)を越えており、次ぐフランスも800産品近くとなっている。

 


 チーズについてみると、2018年8月時点で、登録数が最も多いのはフランスで54産品、次いでイタリアは52産品が登録されている。続いて、スペインは28産品、ギリシャは21産品、英国は17産品となっている。
 

(2)GI制度のメリット

 GI制度には、原産地の伝統や文化、地理に深く根付いた製品を保護し、地域社会に文化的・経済的な価値を創出し、かつ消費者に信頼できる情報を伝達できるといったメリットがある。そして、生産者、消費者、地域社会のそれぞれにメリットがあると考えられている。
 生産者にとっては、透明性の高いシステムに基づき、EU加盟諸国により保護された名称を使用する権利が与えられる。また、GI制度で保護された産品は、一般の製品よりも高値で取り引きされ、生産者の収益向上につながっていると言われている。2012年の報告書によると、農産物・食品全体についてはGI産品が一般の製品に比べ1.55倍の価格となっており、チーズについては、価格差は1.59倍となっている(図7)。さらに、原料の生乳生産からチーズ製造に至るまで詳細な項目が定められた仕様書を守る必要があるため、生産のノウハウが伝承される。

 


 消費者にとっては、生乳生産からチーズ製造まで、仕様書に即し徹底した管理が行われ、品質が保証されたものを購入できる。
 地域社会にとっては、その地域以外では生産することができないため、酪農業からチーズ製造業、加工業まで幅広い分野での雇用機会の創出や地域観光につながることが期待される。また、地域の伝統が次世代にまで保全される。
 

4 生産量、輸出量ともに拡大するイタリア産GIチーズ

 本章では、パルミジャーノ・レッジャーノ、ゴルゴンゾーラなど、日本でもなじみのあるGIチーズを多く生産し、また、産品ごとの生産量も多いイタリア産GIチーズについて取り上げることとする。
 イタリア産チーズがGI制度の認定を受けるためには、まず、チーズの種類ごとに組織された保護協会(Consorzio)が仕様書を作成し、規制当局であるイタリア農業省に提出する必要がある。イタリア農業省で審査された仕様書案が欧州委員会に提出され、欧州委員会での審査を経て最終決定されることにより、当該チーズがGI制度で認定される。
 なお、GI登録数は年々増加傾向にある。
 

(1)イタリア産GIチーズの生産、輸出の推移

 イタリアのチーズの生産量は増加傾向で推移しており、2017年は126万トン(対前年比2.3%増)であるが、そのうち4割を超える54万トン(同1.6%増)がGIチーズ(PDOチーズ)である(図8)。

 


 GIチーズ(PDOチーズ)の中で生産量が多いのはハード系のグラナ・パダーノ(約19万トン)やパルミジャーノ・レッジャーノ(約15万トン)、次いでブルーチーズのゴルゴンゾーラ(約6万トン)となっている(図9)。

 

 先述のとおり、EU全体でみると、GIチーズは非GIチーズの1.59倍の価格で販売されている。なお、生乳取引価格(2015〜2017年平均)について見てみると、GIチーズの生産量が多いイタリアは100キログラム当たり34.56ユーロ(1キログラム当たり44.93円)であり、EU28カ国平均の同31.37ユーロ(同40.78円)を10.2%上回っている。このことから、GIチーズが評価され、高値で取り引きされることで、イタリアの酪農家の収入の向上につながっていることがうかがえる。
 輸出量について、生産量の大きいグラナ・パダーノ、パルミジャーノ・レッジャーノと、ゴルゴンゾーラをみると、いずれも増加傾向で推移している(図10、図11)。なお、2017年は、グラナ・パダーノ、パルミジャーノ・レッジャーノは生産量の26%を、ゴルゴンゾーラについては、同35%をEU域内・域外へ輸出している。

 

 
 
 




 なお、GIチーズ生産者からは、日EU・EPAにより、「関税の削減によって、日本の消費者がGIチーズを手に取りやすくなるだろう」と期待するものの、「GIチーズはそもそもの価格が高いため、関税の削減によって爆発的に日本への輸出量が増えるものでもない」とのコメントが得られた。
 

(2)イタリア産GIチーズの中で最大の生産量を誇るグラナ・パダーノ

 グラナ・パダーノは、1996年6月にPDO(イタリア語ではDOP:Denominazione di Origine Protetta)として登録されたハードタイプのGIチーズである。
 グラナ・パダーノの大手生産者である、ザネッティ社によると、イタリアで生産される生乳の2割、仕様書で定められた生産地域(5州(ロンバルディア州、ヴェネト州、ピエモンテ州、トレンティーノ・アルト・アディジェ州、エミリア・ロマーニャ州)34県の定められた地域)で生産される生乳の4割がグラナ・パダーノ製造に使用されているという。
 GI制度で保護されるということは、その製造に係るさまざまな事柄が仕様書で定められることになる。グラナ・パダーノについては、グラナ・パダーノ保護協会により、例えば以下の事柄が定められている。
•チーズは、仕様書で定められた指定地域(生産地域のうち33県の定められた地域)(図12)で、製造および熟成されなければならない。

 


•原材料は、生産地域内で育てられた牛から搾乳した生の牛乳、天然乳清、子牛由来のレンネットでなければならない。
•乳牛の飼料のうち、飼い葉の乾物の75%は、生産地域で生産されたものでなければならない。その他、給餌できる飼料は限定されている。
•搾乳は1日2回までで、生乳は無殺菌のままクリームと自然分離させ、部分脱脂して使用しなければならない。
•チーズの形状については、直径は35〜45センチメートルで端部(側面)は高さ18〜25センチメートル、重量は24〜40キログラム、外皮は固く滑らかで、厚さ4〜8ミリメートルでなければならない(写真7)。

 

 このような、細かな仕様を守って製造されたものが、グラナ・パダーノとして認定される。
 なお、グラナ・パダーノ保護協会の会員になっている製造業者は132社、熟成業者は156社となっている。また、130社がグラナ・パダーノのカット・包装の認可を、30社が粉末加工の認可を受けている。
 

コラム1 GIチーズ生産/ザネッティ社:グラナ・パダーノ

 1900年創業のザネッティ社は、グラナ・パダーノとパルミジャーノ・レッジャーノの輸出第1位のチーズ製造・熟成者である。同社は、八つの工場と七つの熟成庫(コラム1–写真1)を所有し、グラナ・パダーノの製造・熟成とパルミジャーノ・レッジャーノの熟成を行っている。熟成庫では78万玉(約3万1000トン:1玉≒40キログラム)を保管することができる。
 
 


 グラナ・パダーノは、集乳から玉製造、熟成まで、全ての工程を同社で行い、年間36万5000玉を製造している。
 同社の強みは、集乳からチーズ生産、カット、出荷まで、一貫して製造できることから、需要先からの信頼を得ることができる点にある。また、グラナ・パダーノは、川沿い、山間部などさまざまな場所で製造されているが、同社は、自社で製造したチーズ以外にもさまざまな地域で製造されたチーズを扱っていることから、「この地域で製造されたチーズが欲しい」という需要先の要望に対応できることも強みである。
 2017年のチーズ販売先は、イタリア国内(41%)、EU域内(35%)、EU域外(24%)となっている。販売先は、大規模小売店向けが多く、プライベートブランド製品も多く製造している。また、卸売業者を介して、ホテルやレストランへも販売している。

 


 


 

(3)保護協会の果たす役割

 GIチーズにとって、保護協会は、不可欠な組織であるという。
 保護協会の役割の一つは、生乳生産段階からチーズ生産に至るまで、仕様書どおりにチーズが作られているかどうかを監査することである。
 またGIチーズを世界中でプロモーションすることも重要な役割である。例えば、グラナ・パダーノ保護協会は、同じイタリアのGI産品であるパルマハムの保護協会であるパルマハム協会とともに、EUの助成を受け、日本および中国への輸出促進を図るキャンペーンに取り組んでいる。2016年に採択された同キャンペーンの実施期間は3年間で、総事業費590万ユーロ(7億6700万円)のうち472万ユーロ(6億1360万円)をEUが負担するというものである。
 また、世界中で販売されているGIチーズの模造品の把握と情報収集なども行っている。
 その他に、保護協会は、衛生管理の向上に関する取り組みも行っている。7〜8年前にゴルゴンゾーラの輸出が急増した際、ゴルゴンゾーラ保護協会は、世界市場に対し安定した品質の高い製品を供給するために、より衛生環境を整えることが必須と判断し、専門家などと検討して、衛生管理に関する指針を作成した。この指針に基づき、保護協会がゴルゴンゾーラ製造者を指導した結果、ゴルゴンゾーラ業界全体の一層のレベルアップにつながったという。
 

コラム2 イタリアのGIチーズ生産/イゴール社:ゴルゴンゾーラ

 1935年創業のイゴール社は、最大のゴルゴンゾーラ製造者であり、年間200万玉のゴルゴンゾーラを製造している。
 同社は、1996年に全自動の工場を新設した(コラム2–写真3)。制御室では、技術者によるモニター管理が行われており、工場内の空気を循環させることで、一定の湿度を保つよう管理している。また、チーズ製造工程の上流から下流へと空気の流れを一方通行にすることで、徹底した衛生管理を行っている。

 


 
 

 


 


 イタリアにおけるゴルゴンゾーラの生産量は、2017年には473万玉となり、1996年の353万玉から3割以上増加した。なお、ゴルゴンゾーラ生産量に占める同社のシェアは、1996年は4%だったが、2017年は47%にまで拡大した。
 同社のゴルゴンゾーラの仕向先は、イタリア国内向け48%、輸出向け52%となっている。また、輸出先の内訳は、EU域内が88%、EU域外が12%となっている。輸出向けについては、大手量販店等小売向けが6割強、フードサービス向け3割強、原料として食品製造業に仕向けられるのは数%程度となっている。
 イタリアにおけるゴルゴンゾーラの生産量は、ゴルゴンゾーラ向けの生乳出荷量の増加に伴い増加傾向で推移している。同社は、ゴルゴンゾーラ向けの生乳仕向け量は今後も増加するとみており、ゴルゴンゾーラの全生産量は2~3割の増加が期待できるとしている。

(4)GIチーズの生産量の今後の見込み

 イタリアの主な生乳生産地は北部に集中している。生乳生産量は増加傾向にあり、特に、主な生乳生産地での増加が大きい。生乳クオータ制度の廃止以後、イタリアの酪農家は規模拡大を図っており、増産のためにより規模の大きい牛舎を建設するなどの設備投資を行っているという。一頭当たりの乳量も増加しており、今後年間2〜3%の割合で生乳生産量が伸びていくのではないかとみているチーズ生産者もいる。
 あるチーズ生産者によれば、GIチーズ向けの生乳は乳価が高いこと、北欧諸国から安価なモッツァレラチーズが輸入されるようになったことから、モッツァレラチーズ向けに生乳を出荷してきた酪農家が、GIチーズ向けの生乳生産へシフトする動きもみられているとのことである。GIチーズについては、原料の生乳について、乳牛の品種や飼料など、保護協会の仕様書で細かい事柄が定められていることから、モッツァレラチーズ向けからGIチーズ向けに仕向け先を変えるためには、酪農家自身で、さまざまな改良などの努力をする必要があるが、そうした動きが見られるという。
 一方、別のチーズ生産者によると、GIチーズの種類によっては、原料の生乳についての仕様が厳しいことから、生産拡大が難しいという面もあるとのことである。

コラム3 GIチーズの生産技術を利用した非GIチーズの生産拡大/ブラッツァーレ社

 1784年創業のブラッツァーレ社は、GIチーズであるセミハード系のプロヴォローネ・ヴァルパダーナ、ハード系のアジアーゴを製造している。同社は、イタリア国内でチーズ生産を行うほか、チェコにも工場を構え、チェコ産の生乳を使用したチーズ生産を行っている。
 同社は、過去にはグラナ・パダーノも製造しており、GIチーズを中心としたチーズ生産を行っていたが、2002年に、チーズ生産の拡大を目指し、GIチーズに主軸を置いた製造を見直すという経営方針の転換を図った。
 その主な理由の一つに、同社がイタリアで工場を構える地域では生乳の増産が困難であり、原料の生乳が限定されるGIチーズでの増産は限界があったことが挙げられる。そこで、GIチーズと同じ品質のチーズを生産できる良質な生乳として、チェコ産の生乳が候補に挙がった。
 現在、GIチーズと同じ製法で、チェコ産生乳を使ったチーズを製造しており、チェコに構える工場でチーズ作りを行うほか、チェコの工場でカードまで製造し、カードの状態でイタリア国内の工場に搬送しチーズ作りを行っている。
 同社のイタリア内の工場(Monte di Malo工場)では、現在、年間1万トンのチーズを生産している。10年程前は、生産量に占めるGIチーズの割合は8割、チェコ産生乳を使ったチーズの割合は2割であった。現在は、生産量に占めるGIチーズ(2500トン)の割合は25%となり、チェコ産生乳を使ったチーズ(7500トン)は75%と逆転している。

 


 


 

5 日EU・EPAを踏まえた今後の動向について

 このような中、日本輸入チーズ普及協会は、今年9月29日、GI制度の普及を目的として、EUのGIチーズを一堂に集めた「EU GIチーズフェスティバル」を開催した。同フェスティバルは、一般消費者を対象としたもので、グラナ・パダーノやアジアーゴなどの特設ブース(写真10、11)が設けられたほか、生産者などによるトークショーが行われ、さまざまなEU産GIチーズの試食も振る舞われた。

 


 

 




 日EU・EPAの合意内容によれば、日本においてもEUのGIチーズが保護されることになる。具体的には、日EU・EPAで日本側が保護するとしているEU産の26産品のGIチーズについては、産地・品質基準・生産方法などについて記載されたGIチーズの明細書(仕様書)に沿わない産品は、GI表示が禁止されることになる。ゴルゴンゾーラを例に挙げると、「●●県産ゴルゴンゾーラ」など、日本におけるチーズの製造産地を記載していたとしても、明細書に沿っていないことから、GI侵害とされ、GIの使用(ゴルゴンゾーラという表示)が禁止される(ただし、GI保護の前から使用されていた同一・類似名称については、GIの使用が禁止となるまでに一定の期間が設けられている。また、チーズのスライスやカットなどの加工地域に関する制限について、一定の期間、明細書が適用されない例外が設けられている)。
 このようなことから、日本市場においては、消費者がEUのGIチーズを選ぶ際に、EUで保護されたものと同じものを選ぶことができる状況が整えられることになる。
 ゴルゴンゾーラを例にとると、日本市場においてゴルゴンゾーラとは、EUでGI登録されたゴルゴンゾーラのみになるため、ゴルゴンゾーラを楽しみたい日本の消費者は、GI制度で特性や品質が保証されたゴルゴンゾーラのみを楽しむことができるようになる。また、競合産品であったゴルゴンゾーラの名称を使ったGIチーズ以外のチーズが日本市場において規制されることから、ゴルゴンゾーラへの需要が高まることが予想される。
 なお、日本においても日本版のGI制度が実施されているが、日EU・EPAによりGI制度が注目されることにより、GI制度の意義がより認知され、今後、日本の産品を含めたGI産品全体への評価が高まっていくことも予想される。
 EUのGIチーズ生産者は、日EU・EPAにより、日本市場でもGIチーズが保護されることから、味が良いものを求める日本の消費者が、誤認することなくEUのGIチーズに触れることで、日本におけるGIチーズの消費が拡大することを期待していた。一方で、GIチーズは、仕様書に縛られていることから、生産量を急に増やすことはできないため、日本への輸出量が急増することはないのではないかという見方が大勢であった。
 また、「生乳生産からチーズ製造まで定められた地域で行われるため、その産地の風土の中でしか、その味を作ることができないという個性を持つのがGIチーズである。そのため、日本で製造されるナチュラルチーズとは、味などの特徴が異なる」とし、「今後、日本への輸出が拡大しても日本産のナチュラルチーズと競合することは考えられない」とのコメントもあった。
 なお、これまで、日EU・EPAによるGI保護について、EUチーズの観点から紹介してきたが、日EU・EPAでは、EU側71産品(うちチーズ26産品)、日本側48産品の食品GIを相互に保護することに合意していることから、日EU・EPAの発効により、日本産の農林水産物についても、EU各国で保護されることになる。これにより、日本のGI産品の名前を用いた非GI産品はEU市場で規制されることになる。また、GI産品の価値を高く評価するEU市場での日本のGI産品の知名度が向上していくことが予想され、今後の日本の農林水産物輸出拡大にもつながることが期待される。なお、EUで保護される日本のGI産品として、2018年10月現在、畜産物では、牛肉である但馬牛、神戸ビーフ、特産松阪牛、米沢牛、前沢牛、宮崎牛、近江牛、鹿児島黒牛が登録されている。

6 おわりに

 今回の調査では、オランダとイタリアを訪問したが、EU産チーズは、生産される国や地域によりさまざまな種類があり、地域の自然条件や文化と強く結びついていることを実感した。
 オランダのスーパーマーケットには、多くのゴーダチーズが並んでいた。一言でゴーダチーズといっても、さまざまな製造者のものがあり、熟成期間によって製品が異なるため、それだけで沢山の種類がある。伝統的なゴーダチーズのほか、ハーブやスパイスなどの個性的なフレーバーのゴーダチーズも多く、消費者は沢山のチーズの中で、好みのものを選ぶことができる。
 また、イタリアのスーパーマーケットには、グラナ・パダーノ、ゴルゴンゾーラ、アジアーゴなどがショーケースいっぱいに並んでおり、GIチーズが消費者にとって身近なものであることを強く感じた。また、同じイタリアでも、地域によってチーズの品ぞろえは異なり、やはり、その地域で生産されるGIチーズの品ぞろえが多い印象を受けた。GIチーズ生産者はその伝統に誇りを持っており、消費者もGIチーズの価値を評価している。
 原料が限定されており、すぐに生産を増やすことは困難であることから、日EU・EPAが発効してもEU産GIチーズの日本への輸出量が急増する可能性は低いとみられるが、さまざまな種類があるEU産チーズは日本の消費者にとってチーズに親しみ、GI制度への理解を深めるきっかけになると思われる。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246