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海外情報 畜産の情報 2019年1月号

米国における鶏肉需給の動向と消費の現状

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 米国産鶏肉の生産量は、国内外の堅調な需要を背景に各鶏肉企業が食鳥処理場の新設を進めており、今後も増加すると考えられている。輸出量についても、鶏肉に対する世界的な需要は堅調であり、米国政府も海外への市場アクセスの確保に注力していることから、増加傾向が今後も続くと考えられる。
 また、消費については、丸鶏から部分肉、加工品への需要の変化や、世代別の消費スタイルの違いが見られるものの、人口の増加が見込まれること、安価で健康的というイメージを持つ鶏肉を選ぶ消費者が増えていることなどから、今後も増加傾向が続くと考えられる。
 このように鶏肉を取り巻く環境は良好であるとみられる一方で、貿易紛争による需給の混乱、家畜疾病が発生した場合の輸出規制、干ばつなどの自然災害による飼料穀物価格の高騰に伴う鶏肉価格の高騰という、今後の見通しに影響を及ぼす需給変動要因が少なからず存在することから、今後も鶏肉を取り巻く状況は注視する必要がある。

1 はじめに

 米国農務省(USDA)の統計によれば、2017年の肉用鶏(ブロイラー)の生産額は、302億9970万米ドル(3兆4542億円)と、畜産業界において、肉用牛生産額502億2039万米ドル(5兆7251億円)、乳製品生産額381億1404万米ドル(4兆3450億円)に次いでおり、同産業は、同国の主要産業の一つとなっている。鶏肉は牛肉や豚肉と比べて、比較的安価に購入でき、生産段階における環境負荷が少ないこと、健康的なイメージや調理のしやすさなどへの注目から、生産量および消費量が増加している。
 一方、日本における一人当たりの食肉消費量を見ても鶏肉がトップであり、この傾向は10年前まで消費量トップであった豚肉を抜いてから継続している。日本国内の鶏肉消費量のうち、輸入は約3割を占め、そのうち米国はブラジル、タイに次いでわが国にとって第3位の輸入国となっている。本稿では、今後も生産量、消費量および輸出量のいずれも増加が予想される鶏肉について、米国における需給動向と消費の現状を報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=114円(2018年11月末日TTS相場114.47円)を使用した。

2 鶏肉需給の動向

(1)生産量

 米国は、世界第1位の鶏肉生産量を誇り、世界有数の鶏肉大国である。同国の鶏肉生産量は、1996年に牛肉の生産量を上回った後も増加傾向で推移したものの、2009年には36年ぶりに前年を下回った。同年は、飼料価格の高騰や国際金融危機に伴う経済状況の悪化などの要因が重なり、一時的に落ち込んだ。その後は、処理羽数および平均と体重量の増加に伴って、増加傾向で推移しており、2017年の生産量は1869万5000トン(可食処理ベース)となった(図1)。2019年以降の生産予測については、堅調な国内需要、フィリピン、アンゴラ、キューバなどのさらなる需要の拡大が見込まれる海外市場、飼料価格の低下といった生産者にとっての好材料が多いことから、今後も増加傾向を示すと考えられる。この見通しを踏まえ、各鶏肉企業では食鳥処理場を新設する動きが活発に見られており、米国の鶏肉生産能力はさらに増強されることが見込まれている。

 
図1 食肉生産量の推移

 

(2)消費量

 米国は、鶏肉消費量も世界第1位である。同国の鶏肉消費量は、飼料価格の高騰による鶏肉価格の上昇などによる影響で減少する年があるものの、おおむね増加傾向で推移しており、2017年は1563万7000トン(可食処理ベース)と過去最高を記録した(図2)。また、横ばいまたは微増という状況にある牛肉や豚肉の消費量に比べて、鶏肉の消費量は大きく増加している。この要因としては、米国の人口が増加し続けている中で、鶏肉は比較的安価で購入でき、低脂肪で健康的なイメージがあることが消費者に受け入れられていると考えられる。消費量は、2019年以降も増加傾向で推移すると考えられる。
 
図2 食肉消費量の推移
 
 

(3)輸出量

 米国は、ブラジルに次ぐ世界第2位の輸出国であり、世界の鶏肉産業にもたらす影響は大きい。米国内ではむね肉(通称:ホワイトミート)が好まれる一方、日本を含め世界にはもも肉(通称:ダークミート)を好む国もあり、米国はもも肉を多く輸出することで米国内の需要と供給のバランスを保っている一面がある。もも肉は中南米、カリブ海諸国を中心に輸出されており、アジアでは台湾やベトナム、韓国への輸出が多くなっている。米国の鶏の足(通称:モミジ)の輸出は、アジア諸国向けが全体の99%を占めており、近年では香港向けにモミジの輸出が集中している。
 2015年に高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が多発したことにより一時的に輸出量が減少したが、その後は順調に前年を上回って増加し、2017年の輸出量は、前年比2.0%増の308万トンとなった。
 米国はこれまで150カ国以上にブロイラーを輸出しており、最大の輸出国であるメキシコには2013年以降、毎年約60万トンを超える量を輸出している。その他の輸出国としては、キューバ、アンゴラ、台湾、カナダが続いている(図3、表1)。

 
図3 食肉輸出量の推移


表1 鶏肉の輸出量の推移


 ロシアは、1990年代後半以降米国産鶏肉の最大の輸出先で、2001年には総輸出量の約4割を占めていた。しかし、衛生条件を理由とした規制などによる輸入停止の影響で、2010年の同国向けシェアは総輸出量の1割程度に縮小した。さらに、2014年8月に同国は、ウクライナ情勢不安を契機とした米国などによる経済制裁に対抗して、鶏肉を含む米国産農産品の輸入を停止し、現在まで米国産鶏肉の輸入は再開されていない。
 中国は、米国で発生したHPAIの影響から、2015年1月9日以降、米国からの家きん類の輸入を停止しており、これに対し米国は早期の輸入制限解除を求めている。中国との間には先行き不透明な貿易紛争を抱えていることから、米国はアフリカ地域などの新たな輸出市場の獲得に注力しており、2018年8月にはモロッコへの輸出について二国間で合意された。鶏肉は比較的手頃な価格で手に入ることから、途上国における重要なたんぱく質源として重宝されており、海外からの堅調な需要と生産量の増加傾向にも支えられ、2019年以降も輸出量の増加傾向は続くものと考えられる。

3 鶏肉の生産構造

(1)インテグレーション

 ブロイラー生産の特徴としてまず挙げられるのが、ブロイラー業界は垂直統合(インテグレーション)が高度に発達していることである。かつては、飼料供給、ヒナのふ化、ブロイラーの飼養、食鳥処理などの鶏肉生産に必要な工程はそれぞれ独立していたが、1940年代頃から、より効率的な生産を目指して、これらの工程を企業が一貫して行うようになった。このインテグレーションによって、大幅なコスト削減や生産効率の向上が可能となり、鶏肉の安価で安定した供給や品質維持、消費者の要望に対する迅速な品質改善、機械化などの革新的な技術の導入がしやすくなるなど、劇的な改善が図られてきた。
 現在では、9割以上の生産者が垂直統合事業会社(インテグレーター)との契約農場になっており、生産者はインテグレーターからひなや飼料、薬品などの生産資材を導入して、ブロイラーの飼育・出荷までを担っている。
 インテグレーターの大手10社で鶏肉生産量の約8割を占めており、景気や買収案件などの影響で順位に変動が見られるものの、上位に名を連ねる企業は、タイソン・フーズ(Tyson Foods)、ピルグリムズ・プライド(Pilgrim's Pride)、サンダーソン・ファームズ(Sanderson Farms)、パーデュー・ファームズ(Perdue Farms)、ウェイン・ファームズ(Wayne Farms)、コッホ・フーズ(Koch Foods) などが挙げられる。
 

(2)鶏肉生産地

 米国のブロイラー主要生産地は、ジョージア州やアラバマ州の南東部である(表2、図4)。2012年時点でのブロイラー飼養農家数は約4万2200戸であり、農家数ではテキサス州が全米第1位であるものの、生産量(羽数)では第6位であり、ジョージア州やアラバマ州がテキサス州を上回っている。これは、テキサス州には中小規模農家が多く、ジョージア州やアラバマ州には大規模な企業系農場が多いためである。

 
表2 ブロイラー飼養農家数と生産羽数の上位5州



図4  ブロイラー生産の分布(2017年)
 
 

(3)生産の流れ

ア 種鶏業者
 鶏肉生産は種鶏業者(Primary Breeders)が肉用種鶏を生産することから始まる。種鶏市場は、グローバル企業と言われる数社の寡占状態にあり、肉用種鶏の主要企業としては、Aviagen、Cobb-Vantressがあり、それぞれ多くの子会社を抱えている。
 種鶏業者は、主に候補鶏(Elite)、原々種鶏(GGP:Great Grand Parent)、原種鶏(GP:Grand Parent)の3世代を保有しており、原種鶏が生産した卵からふ化した種鶏(PS:Parent Stock)の出荷までを事業範囲としている。

イ 肉用鶏業者
 種鶏業者によって生産されたPSは、肉用鶏業者の経営下にある種鶏場に送られる。PSは、生後約168〜約175日齢で受精卵を産み始め、生後約490日齢まで週5日ほどの頻度で産み続ける。その後、受精卵はふ化場に搬送され、約21日間のふ卵期間を経てふ化した初生ひなは、生後1日目にふ化場から肥育場に導入される。ブロイラーは、一般的に約50日齢、重量約2.8キログラムで鶏肉生産会社が所有する食鳥処理場に出荷される。若鶏などの鶏肉の規格によって、出荷日齢や出荷体重が調整されることとなる。
 近年、オーガニック志向を強める消費者動向を踏まえ、USDAが定めるオーガニック基準(注1)に基づく飼育方法が増えつつあるが、まだその割合は少なく、全体の生産量の数%にも満たないと考えられている。

(注1)  オーガニック畜産物の要件概要(家きんの場合)
・食肉用の家きんは生後2日目から、オーガニック基準に適合した環境下で飼育されなければならない。
・飼料は100%オーガニック農作物でなければならない。ただし、ビタミンやミネラルといった栄養補助製品を与えてもよい。
・予防医療は家畜の健康維持の目的でなければならない。病気や怪我をした家畜の治療を控えてはならないが、医薬品を使用して治療を受けた家畜をオーガニックとして販売することはできない。
・全てのオーガニック家きんは、年間を通して野外にアクセスできる必要がある。環境や健康上の問題があると認められる場合などには、一時的に屋内に収容してもよい。その他、アニマルウェルフェアへの配慮として、運動できる空間、日陰、新鮮な空気と飲水、清潔で乾燥した寝床、小屋、直射日光への常時のアクセスが必要とされている。
・オーガニック家きんには、いかなる理由であっても、成長促進物質や抗菌性物質を与えてはならない。


ウ 鶏肉生産会社
 鶏肉生産会社は、自社で所有する食鳥処理場や加工場で、食鳥処理や生肉のパッキング、梱包を行い、小売チェーン、フードサービス業者、レストランなどに出荷する。フードサービスや加工食品業者向けには、流通業者も利用する。大手鶏肉生産会社は、冷凍製品や加工鶏肉製品の生産施設も経営しており、そうした製品は一般的に流通業者を介して販売する。
 鶏肉の流通先として、小売向け、フードサービス向け、輸出向け、その他(ペットフードや素材・成分製造向けなどに利用)に大別できる。輸出とその他を除く大まかな割合として、小売向けとフードサービス向けの比率は、1970〜1980年代には3:1の割合で小売向けが多かったが、1990年代半ばから現在では1:1の割合に変化している。なお、2000年代から、フードサービス向けのうち、ファストフード向けのシェアは50%以上を占めている。
 
図5 鶏肉の生産から食卓までのイメージ
 

(4)品種

 米国で用いられているブロイラーの品種は、日本と同様にホワイトコーニッシュ(White Cornish)とプリマスロック(Plymouth Rock)の掛け合わせが基本であり、この品種は増体率が良く、狭い空間で動きの少ない環境にも適している。
 米国では、Aviagen、Cobb-Vantress、Hubbard、Heritage Breedersという種鶏業者が有名であり、それぞれの品種をブランド化したものが販売されている。
 

(5)鶏肉の肉質格付

 鶏肉の肉質については、USDAの農業マーケティング局(AMS)によるガイドラインに沿って格付けが行われる(図6)。品質をA、B、Cの3等級で示す任意の制度であり、AMS所管法規に基づく等級規則は、外観と表面の傷や色あせといった欠陥の許容範囲を示し、欠陥のない、あるいは極めて少ないものが等級Aとなる。一般的には直接消費向けには等級Aが使われ、等級BやCは加工品に利用される。等級BやCが直接消費向けとしてスーパーマーケットに陳列される場合、等級が記載されないことが多い。

図6 格付けAのロゴ例
 

(6)鶏肉価格

 鶏肉価格は、鶏肉生産企業の経営効率や生産コスト、市場の需給バランスなどで決まる。
 ブロイラーの生産コストは、飼料費が6割ほどを占めているとされ、飼料の中でもトウモロコシと大豆かすの割合が大きくなっており、飼料価格の高騰の影響を受けやすい。直近では、2011年から2012年にかけて米国を襲った干ばつの影響で、2012年から2013年にかけてトウモロコシおよび大豆の価格は急騰し、鶏肉価格もこれによって上昇した。
 近年では、トウモロコシや大豆の生産は、記録的な水準に近いほど好調であることに加え、中国との貿易紛争の影響により、特に大豆の米国内の在庫量が増加していることから、米国内の鶏肉業界としては、飼料が安く手に入る状況にある。先に触れたように、今後の鶏肉生産は、国内外の堅調な需要を背景に各企業が食鳥処理場の増設を行う動きが見られることなどから、増加傾向で推移すると予測されており、突発的に状況が大きく変化しない限りは、鶏肉価格は安定的に推移するものと考えられる。

 <コラム1> 鶏肉生産に関連する連邦政府の支援政策

 米国では、現時点において、鶏肉におけるチェックオフ制度(注)は存在しない。しかし、鶏肉業界から大多数の支持を得られた場合は、チェックオフ制度の導入を検討する余地があるとされている。
 (注)チェックオフ制度…品目毎に生産者等から拠出金を徴収し、これを原資として生産者が主体となり農畜産物の販売促進活動などを行う。
 連邦政府による鶏肉業界を支援するための価格安定制度として、USDAの農業マーケティング局(AMS)が毎年実施する買上政策が挙げられる。これは、国内生産製品を買い上げることで国内農業を支援することを目的としており、買上げた製品は、学校、フードバンクなどの全国の関連施設に供給される。この買上制度の計画やスケジュールは、政府の食料配給制度(Feeding Program)を運営する食品栄養局(FNS)とAMSによって調整が行われ決定される。
 この制度とは別に、生産者への支援が必要であると判断された場合には、緊急買上制度が発動される。鶏肉に関する直近の緊急買上制度の発動状況は以下のとおりである。
 ① 2010年6月、USDAは、鶏もも肉の在庫が増加し、鶏もも肉の卸売価格が下落したことを受けて1400万米ドル規模の鶏もも肉の買上げを発表した。この買上げは、最終的に3000万米ドルまでを上限として行われた。
 ② 2011年8月、USDAは、前年から引き続き、鶏肉生産の大部分を占める家族経営の養鶏農家の経営状況が依然厳しい状況にあることを受けて、4000万米ドル規模の鶏肉製品の買上げを発表した。

4 鶏肉消費の現状

(1)販売形態

 鶏肉の販売形態については、1960年代初めには丸鶏(ホールチキン)としての販売が80%程度を占めていたが、核家族化や手軽で省力的な製品を求める消費者の要望を受ける形で、部分肉への需要が高まった。さらに最近では、電子レンジやオーブンで加熱するだけの状態で販売されるReady-to-Cookに代表される加工品への需要も高まっており、鶏肉製品の販売形態のうちおよそ半数を占めている(図7)。
 
図7 鶏肉製品の販売形態の推移
 

 USDAは2005年以降、毎年、米国の小売店で販売されている鶏肉の部位別売れ筋ランキングを公表している(表3)。このランキングによれば、バリューパック(一般的には1.4キログラム以上)の骨なし・皮なしむね肉が4年連続で第1位となり、全体の10%を占めている。人気部位のバリューパックは、消費者を引きつける売れ筋商品として食料品店で重要なアイテムであり、同ランキングのトップ10のうち4種類はバリューパック形式で提供され、2017年に小売店で販売されたうちの25%以上を占めた。4種類のバリューパックのうち、第2位のドラムスティックと第3位の骨付きもも肉は、消費者に好まれる定番の商品である。骨なし・皮なしもも肉のバリューパックは、2016年から6ランク上昇し、2017年では7位に入った。骨なし・皮なしもも肉は、5年前にはトップ25にも入っていなかったが、消費者からの人気が年々高まっている。

 
表3 米国の小売店における鶏肉の部位別売れ筋ランキング


写真1 丸鶏の販売の様子 写真2 Ready-to-Cookの鶏肉加工品


 その他の傾向としては、抗生物質を使用せずに飼育された(ABF:Antibiotic-Free)鶏肉の増加が見られる。全米鶏肉協議会(NCC)によれば、米国におけるABFのブロイラー生産は、2016年末時点で全体の33%を占めているとされている。ABFの鶏肉のスーパーマーケットでの取り扱いは一般的になってきており、2017年にはABFの骨なし・皮なしむね肉は第4位にランクインした。 多くの鶏肉生産企業がABFの鶏肉生産ラインを設置し、抗生物質不使用と表示される鶏肉商品が増加するにつれ、消費者意識の高まりと相まって、抗生物質不使用が一般的なものとして受け入れられており、事実上、ABFの鶏肉が新しい“標準”として商品化されることになることも考えられる。また、2005年のデータ収集開始以来、初めてオーガニックの骨なし・皮なしむね肉がトップ10にランクインしており、オーガニックについても今後の動向が注目される。
 
 
 チキンウィングやロティサリーチキンは、米国で非常に人気の高い鶏肉料理である。チキンウィングに関しては、米国人は生涯で1万8000個も食べるという調査報告もあり、全米最大のイベントの一つでもあるナショナル・フットボール・リーグの優勝決定戦(スーパーボール)が開催される週末には、13億5000万個のチキンウィングが消費されると言われている。

 
写真3  チキンウィング(左)やロティサリーチキン(右)
 

 また、どのような人々がどの鶏肉の部位を好むかという傾向についての調査によれば、米国のシルバー世代がホールチキンを、ミレニアル世代(注2)がむね肉を好むという傾向が示されており、前述の輸出部位や鶏肉製品の販売形態にも表れている(図8)。
(注2)2000年以降に成人を迎えた人口層。

 
図8 各人口統計グループ別の鶏肉部位の嗜好性
 

(2)鶏肉に対する消費トレンド

 米国における鶏肉の一般的な消費スタイルを大別すると、小売店で購入した生肉や加工品を自宅で調理するか、外食先で鶏肉メニューを選択するかのどちらかとなる。2017年に行われた調査によれば、ミレニアル世代は調理済みのものをレストランなどで食べる割合が高く、より手軽に鶏肉を消費したいという傾向が見られる(表4)。

 
表4 世代別の鶏肉の消費スタイル
 

 2019年以降は、これまで若い世代とみなされてきたミレニアル世代が米国の成人人口の最大数を占める見込みとなっている。このため、鶏肉生産企業においては、ミレニアル世代の思考を踏まえたマーケティングがより重要になってくると考えられる。ミレニアル世代に関する調査によると、ミレニアル世代は、大規模な食品企業を信用していない(ミレニアル世代の43%が該当)、購入する食品についてインターネットで情報を検索する(同55%)、非道徳的だと思う企業の食品は購入したくない(同59%)という傾向がある。また、ミレニアル世代のうち78%は、食料品店やレストランは販売する食物がどのように生産されたかに関する情報を提供することが極めて重要であると考えている。
 ミレニアル世代の例を挙げたが、現在すべての消費者が食品に対して透明性を求めている。消費者が求める透明性は、栄養成分や生産地などの単純なものだけではなく、アニマルウェルフェア、遺伝子組み換え飼料の含有、飼育環境、輸送方法、持続可能性などのサプライチェーン全体におよぶ包括的なものである。
 消費者が他の畜産物よりも鶏肉を選ぶ理由として、以下の調査結果がある(図9、図10)。これらの調査結果から、鶏肉を購入する消費者は、鶏肉に対して、簡便性を求めており、健康的であるというイメージを持っていることが分かる。また、消費者の多くが鶏肉の生産方法などについての透明性を求めていることも分かる。
 
 図9 鶏肉の購入理由



図10 鶏肉の購入時に消費者が知りたい情報

 <コラム2> 米国における七面鳥の需給状況

 米国では、七面鳥は高たんぱく、低脂肪、赤身が豊富でヘルシーな畜産物として、一般的に食されている。飼養形態は鶏肉と同様であるが、大きく異なるのが飼養期間であり、七面鳥は約100〜140日間飼養され、鶏肉の約5倍となる約14キログラムで出荷される。また、七面鳥への肥育ホルモンの使用は認められていない。
 米国の2017年の七面鳥の生産量は、271万トンであり、近年は横ばいとなっている(コラム2–図1)。輸出量は、2017年時点で28万トンと、生産量の約10%が輸出されている(コラム2–図2)。主な輸出先は、メキシコ向けが62%となっており、次いで、香港(5%)、日本(3%)となっている(コラム2–図3)。2012年には過去最高となる35万1000トンを記録し、その後も高い水準を保っていたが、2015年には高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)発生の影響を受け大幅に減少した。現在は増加傾向にはあるものの、HPAI発生前の水準までは回復していない。

 コラム2-図1 七面鳥生産量    コラム2-図2 七面鳥輸出量
 
 2017年の七面鳥の一人当たり消費量は、7.4キログラムとなっている(コラム2–図4)。なお、他の畜種を見ると、鶏肉は41.2キログラム、牛肉は25.8キログラム、豚肉は22.7キログラムである。米国の祝日である感謝祭(Thanksgiving Day、11月の第4木曜日)には、家族や親族、友人が集まって食卓を囲むことが慣例となっており、七面鳥の丸焼きは、その際の代表的なメニューとして親しまれている。そのため、感謝祭が一年で最も七面鳥が消費される日であるが、通年では消費量が伸び悩んでいる。

 
コラム2-図3 米国産七面鳥輸出先 



コラム2-図4 一人当たり七面鳥消費量

5 おわりに

 今後の米国鶏肉業界については、明るい見通しを持つ関係者が多い。それは、他の畜産物と比べて比較的安価であること、健康的であるというイメージが持たれていること、鶏肉生産に伴う環境負荷が他の畜産物に比べて少なく環境に優しいというイメージがあること、宗教的禁忌が少ないことなどのさまざまな要因が背景にあると考えられている。
 国連は2055年には世界人口が100億人を突破すると予測しており、現在からさらに20億人以上の人口が増加することとなる。このような状況を踏まえて食肉代替製品(注3の開発も行われているが、従来の畜産物を求める消費者の需要は今後も増加すると考えられており、生産サイクルが他の畜産物に比べ短いため増産要望に応えやすく、上記のようなさまざまな特徴を有する鶏肉は、動物性たんぱく質の供給源として大きな役割を持つと考えられる。

(注3)植物などを原料にして、食肉に似せた食品。

 この状況を受けて、今後も米国における鶏肉の生産量、消費量、輸出量はいずれも増加すると考えられる。一方で、米国を中心とする貿易紛争に伴う関税賦課などの需給の混乱、完全に感染経路を遮断することが難しいHPAIなどの家畜疾病に伴う輸出規制、干ばつなどの自然災害による飼料穀物価格の上昇に伴う鶏肉価格の高騰、サルモネラなどの食中毒による鶏肉イメージの悪化など、今後の需給見通しの変動要因が存在する。また、鶏肉を消費する消費者の嗜好は時代とともに変わるため、鶏肉の消費量を安定させるためには、消費者動向を注視して、消費者が求める鶏肉を生産する努力も継続する必要があると考えられる。

 

(鈴木 浩幸(JETROニューヨーク))

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246