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調査・報告(学術調査) 畜産の情報 2019年3月号

国産飼料の増産・鶏肉の輸出促進に向けた飼料用米による国産鶏肉のおいしさの向上

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国立大学法人神戸大学大学院 農学研究科 准教授 本田 和久

【要約】

 飼料用米は、年間約1000万トン輸入されている飼料用トウモロコシの代替品となる国産の飼料素材として期待されているが、その生産量はいまだ年間約50万トンに過ぎない。本研究では、飼料用米の家きん用飼料素材としての利用を促進する目的で、飼料用米の給与が肉用鶏の産肉量と食味に及ぼす影響について調べた。その結果、飼料用米の給与は、ブロイラーおよび地鶏の産肉量に悪影響を及ぼさないこと、および配合飼料に含まれるトウモロコシを飼料用米に置換してもブロイラーおよび地鶏肉の食味に悪影響はみられないことが示唆された。今後、飼料用米の活用による多様な食味の鶏肉の開発が期待される。

1 はじめに

 昭和35年度に79%であったわが国の食料自給率は、その後断続的に低下し続け、平成28年度には供給熱量ベースで38%にまで落ち込んだ1)。これに伴い、耕地面積も減少し続けており2)、わが国の食料生産基盤の脆弱化に改善への期待は小さい。一方で、世界人口の恒常的増加や新興国の経済発展から、世界的な農作物の価格はより一層不安定になるものと予想され、その対応が急務となっている。加えて、わが国への食料輸送のための化石燃料の使用は地球温暖化の原因にもなり得る。すなわち、わが国の食料自給率の改善は、上述のような世界的な問題の解決にもつながる極めて重要な課題であると言える。
 飼料用米は、年間約1000万トン輸入されている飼料用トウモロコシの代替品となる国産の飼料素材として期待されているが、その生産量はいまだ年間約50万トンに過ぎない3)。ここで、鶏肉生産用の配合飼料の原料のほとんどは海外からの輸入に依存していることから、65%と比較的高い鶏肉の自給率も、飼料自給率を考慮すると9%にまで低下するとされている4)。しかしながら、代表的な肉用鶏であるブロイラーの配合飼料に含まれるトウモロコシをコメに置換しても成長に影響はないこと5, 6)、および農林水産省の試算によれば、ブロイラーの配合飼料の原料として、飼料用米は年間最大229万トンまで利用できる可能性があること3)から、国産鶏肉生産用の飼料原料として飼料用米が有効に活用されれば、わが国の食料自給率の改善に大きく貢献できると判断される。加えて、今後、2050年に向けて拡大が予想される世界の鶏肉市場7)にわが国の高品質な鶏肉(例えば、純国産飼料で生産した地鶏肉)が参入することができれば、わが国の食料生産基盤の再構築に基づく農業立国化も期待できるかもしれない。しかしながら、飼料用米の給与が、食品として最も重要な点と言える「鶏肉の食味」に及ぼす影響に関する報告は少ない。
 本研究では、食料自給率改善のための一環として、飼料用米の家きん用飼料原料としての利用を促進する目的で、飼料に含まれるトウモロコシの飼料用米への全量置換がブロイラーおよび地鶏の産肉量と食味に及ぼす影響について調べた。

2 材料および方法

(1)飼料用米の給与が肉用鶏の産肉量に及ぼす影響

 1日齢の雄のブロイラー(Ross 308)にブロイラー肥育前期用配合飼料(注1)を3週間、あるいは0日齢の雄の地鶏(ひょうご味どり)に幼すう用配合飼料(注2)を4週間、それぞれ給与した後、ブロイラーは7週齢まで、地鶏は11週齢まで、それぞれトウモロコシ主体飼料(注3)、あるいはパワーゴールのトウモロコシを全て飼料用米(精白米)に置換し、粗たんぱく質含量と代謝エネルギー量が等しくなるよう調整した飼料用米主体飼料のいずれかを給与して飼育した。試験飼料給与期間終了後、16時間絶食し、炭酸ガス麻酔下で安楽死させた後、解体し、むね肉、もも肉、ささみ、手羽元、および手羽先の重量を測定した。24時間冷蔵保存後、むね肉の色を分光色査計(NF 333, 日本電飾工業株式会社)を用いて測定した。もも肉は官能検査に供するまでマイナス30℃で冷凍保存した。得られた結果は、チューキー・クレーマー法により統計解析した。
 

(2)官能検査用パネラーの訓練と官能検査方法の決定

 まず、官能検査のパネラーとして、神戸大学の学生および教員17名から、五味テストに合格した10名を選抜した。選抜されたパネラーには、ホットプレートで加熱処理した、和牛、国産牛および輸入牛のロース肉を用いて、官能検査項目[香り(鶏肉らしい香り、獣臭、異臭、全体の強さ)、風味(鶏肉らしい風味、獣風味、異風味、全体の強さ)、食感(咀嚼(そしゃく)しやすさ、歯ごたえ、ジューシー感、かみ切りやすさ)、および味(うま味、甘味、酸味、塩味、苦味、異味、コク、脂っこさ、まろやかさ、持続性、全体の強さ)]、ならびにその評価方法[標準検体を基準値0とした上下3段階(+3:とても強い、 +2:強い、+1:やや強い、 −1:やや弱い、 −2:弱い、 −3:とても弱い)]を判断できるよう訓練した。また、市販の国産若どりと地鶏(ひょうご味どり)のもも肉(各10個)の上ももを約1センチメートル幅にスライスし、3倍量の1%食塩水を加えた後、90℃以上で15分間湯煎した鶏肉の官能検査を同パネラーを用いて行った。パネラーには、上述の項目について、最初に食べた鶏肉(若どり、あるいは地鶏)に比べ、次に食べた鶏肉(地鶏、あるいは若どり)の値を評価させた。なお、食べる順序が官能評価に与える影響を無くすため、パネラーにはわからないよう鶏肉の食べる順序を5名ずつ異なるように調整した。その結果、この方法により地鶏肉の特長であるコクおよび味の持続性の検出が可能であったことから、同様の方法により、飼料用米の給与が鶏肉の食味に及ぼす影響を調べることとした。

注1:粗たんぱく質22%以上、1キログラム当たり代謝エネルギー3050キロカロリー以上、日和産業株式会社
  2:粗たんぱく質21%以上、代謝エネルギー1キログラム当たり3000キロカロリー以上、日和産業
  3:粗たんぱく質18%以上、代謝エネルギー1キログラム当たり3150キロカロリー以上、日和産業

 

(3)飼料用米の給与が鶏肉の食味と呈味成分に及ぼす影響

 (1)で冷凍保存したもも肉を冷蔵庫内で一晩解凍した後、(2)と同様の方法で、ブロイラーおよび地鶏のそれぞれについて、飼料用米の給与が食味に及ぼす影響を官能検査した。さらに、同様に湯煎した鶏肉をミンチ後、ホモジナイズし、3倍量の超純水を加えた後、4℃で3時間振とうした。その後、不溶物をろ過して除去して得られたろ液を、アミノ酸分析(ワコーパック® ワコーシル®-PTC 4.0、和光純薬工業株式会社)、核酸関連物質分析(Atlantis® dC18 Column、 日本ウォーターズ株式会社)、および味覚センサー(SA402B、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)による呈味分析に、それぞれ供した。
 

(4)統計解析

 官能検査の結果は順序変数で表される2群間のデータを比較することとなるためマン・ホイットニーのU検定を用いて、味覚センサーで得られた結果は連続変数で表される2群間のデータを比較することとなるためスチューデントのT検定を用いて、その他の結果は連続変数で3群間以上の群間のデータを比較することとなるためチューキー・クレーマー法を用いて、それぞれ統計学的に有意な差があるかどうかを検定した。
 

3 結果および考察

 体重、むね肉、もも肉、およびささみの重量は、地鶏に比べてブロイラーの方が有意に高い値を示したが、飼料用米の給与は、ブロイラーおよび地鶏の体重、むね肉、もも肉、ささみ、手羽元、および手羽先の重量には影響しなかった(表1)。González-Alvaradoらは、トウモロコシ主体飼料、あるいはコメ(粉砕米)主体飼料のいずれかを21日齢までブロイラーに給与した場合、体重に有意差は認められないことを報告している5)。また、Nantoらは、トウモロコシ主体飼料、あるいはコメ(玄米)主体飼料のいずれかを28日齢まで給与した場合、体重に加え、浅胸筋および骨付きもも肉の重量にも有意差は認められないことを報告している6)。本研究においては、飼料用米が鶏肉の食味に及ぼす影響を検証するべく、ブロイラーと地鶏の肥育後期用飼料におけるトウモロコシの飼料用米への全量置換が鶏肉の生産性に及ぼす影響を調べ、体重ならびに産肉量に有意差は認められないことを明らかにした。これらの結果から、飼料用米は鶏肉の生産性に悪影響を及ぼすことなく、トウモロコシから全量置換できる国産の飼料素材として利用できることが示唆された。

 
表1 飼料用米の給与がブロイラーおよび地鶏の体重、産肉量およびむね肉の色調に及ぼす影響 

 
 官能検査の結果、ブロイラーのもも肉の食味には飼料用米の給与による影響は認められなかった(図1)が、地鶏のもも肉においては肉の香り全体の強さが弱まる一方で、鶏肉らしい香りがやや強まる傾向、および脂っこさがやや弱まる傾向が示された(図2)。また、味覚センサーによる分析では呈味の差は認められなかった(図3)。ブロイラーにおいては、飼料用米の給与期間(3週間)が地鶏のそれ(7週間)に比べて短かったことから、食味に及ぼす飼料用米の影響が表れなかったのかもしれない。また、豚骨ラーメンを好む人もいれば、しょうゆラーメンを好む人もいるように、人によって鶏肉の嗜好も異なることから、今回認められた食味の変化は、必ずしも全ての消費者にとって望ましいものではないかもしれない。しかしながら、本研究によって、少なくとも鶏肉の食味は飼料用米による悪影響を受けないことが明らかになった。
 
 
図1 飼料用米の給与がブロイラーの湯煎もも肉の食味に及ぼす影響
 

 
図2 飼料用米の給与が地鶏の湯煎もも肉の食味に及ぼす影響



図3 ブロイラーおよび地鶏の湯煎もも肉抽出液の味覚センサーによる解析

 
 これまでの種々の鶏肉の食味比較に関する報告においては、湯煎したむね肉8)、湯煎した赤身(皮と脂肪を除いたもの)のもも肉スライス9)、オーブンで熱処理した皮なしももひき肉のパティ10)、オーブンで熱処理した浅胸筋、深胸筋、あるいは大腿二頭筋11)、オーブンで熱処理したもも肉を冷蔵後、室温に戻したもの12)が用いられており、実際に食する鶏肉の調理法とは必ずしも一致していない。官能検査に供する検体は均一性が求められることから、このような調理法が用いられているが、わが国においては、むね肉に比べて脂肪分が多く、ジューシーなもも肉の需要が多いことから、本研究では、実際に食する調理法(鍋料理)に近い方法で調製したもも肉を官能検査に供した。また、地鶏とブロイラーの間で肉の呈味成分含量を比較した報告においては、比内地鶏とブロイラーの浅胸筋の一般成分、アミノ酸、無機質、および脂肪酸組成からは肉の食味に影響する成分は特定できないこと13)、名古屋コーチンとブロイラーのもも肉から調製したスープ中のアミノ酸の濃度は、ブロイラーの方がむしろ高いこと9)、ローストしたもも肉の遊離アミノ酸含量は、名古屋コーチンおよび三河地鶏に比べてブロイラーの方が多いこと12)、および会津地鶏、名古屋コーチン、およびブロイラーの皮無むね肉の遊離アミノ酸含量の比較では、多くの遊離アミノ酸がブロイラーで多いこと14)が報告されている。本研究においては、これまでの報告で調べられてきた調理前の鶏肉抽出液や鶏肉スープではなく、実際に食する機会の多い湯煎調理した鶏肉に残存する呈味成分としてアミノ酸および核酸関連物質を分析したところ、これまでの報告と同様、地鶏肉に多く含まれる呈味成分は認められなかった(表2)。それ故、鶏肉の食味にアミノ酸および核酸関連物質が関与する可能性は低いと判断された。
 飼料用米の給与は、ブロイラーのむね肉のL値を有意に上昇させた(表1)。一般に、肉色は赤みが強い方が望ましいとされるが、ニワトリのむね肉に関しては、蒸し鶏、サラダチキン、およびチキンフィレカツなど、白い肉色が好まれる用途が多い。それ故、飼料用米給与によるL値、すなわち明るさの上昇は、食品素材としてのむね肉の価値を高める望ましい変化と言える。
 鶏肉の肉質については日齢13、15)、あるいは飼育形態16、17)により影響を受けることが報告されている。また、地鶏肉においては雌雄の飼育期間が異なる場合も多く、例えば、本研究に供したひょうご味どりは、雄は90日齢、雌は110日齢まで飼育することが推奨されている18)。さらに、極端な例としては、比内地鶏においては雄の鶏肉は味が劣ることから、雌しか鶏肉生産用に供されない場合が多い。それ故、雄の比内地鶏の食味改善を目的に雄ヒナの効率的な去勢方法が検討されているほどである19)。今後、地鶏肉の性や日齢の違いによる食味の違いに及ぼす飼料用米の影響を調べる必要もあると考えられた。

 
表2 飼料用米の給与がブロイラーおよび地鶏の湯煎調理もも肉抽出液のアミノ酸およびイノシン酸の濃度に及ぼす影響

 
【参考文献】
1)食料需給表、平成28年度食料需給表、関連指標 5-1、自給率の推移、総合自給率等の推移、https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001202544
2)作物統計調査、平成29年耕地および作付面積統計、累年統計(2018年2月19日公表)、耕地面積および耕地の拡張・かい廃面積、耕地面積、田畑別耕地面積
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001202630
3)飼料用米の推進について、農林水産省政策統括官、平成30年1月
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kokumotu/attach/pdf/siryouqa-26.pdf
4)食料需給表、 平成28年度食料需給表、(参考)PFC供給熱量比率、食料自給率および飼料需給表、
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001202544
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6)Nanto F, Kikusato M, Ito C, Sudo S, Toyomizu M. Effects of defulled, crushed and untreated whole-grain paddy rice on growth performance in broiler chickens. The Journal of Poultry Science 2012; 49: 291-299.
7)Alexandratos N, Bruinsma J. World agriculture towards 2030/2050: the 2012 revision. FAO, ESA working paper No.12-03, June 2012.
8)Fujimura S, Muramoto T, Katsukawa M, Hatano T, Ishibashi T. Chemical analysis and sensory evaluation of free amino acids and 5'-inosinic acid in meat of Hinai-dori, Japanese native chicken.-comparison with broilers and layer pullets. Animal Science and Technology 1994; 65: 610-618.
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18)地鶏銘柄鶏ガイド、ひょうご味どりhttp.www.j-chicken.jp/anshin/sanchi4_28_03.html
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