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〜養鶏・鶏肉企業の事例を中心に〜

海外情報 畜産の情報 2019年4月号

インドの家きん、特に鶏肉産業の状況 
〜養鶏・鶏肉企業の事例を中心に〜

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調査情報部 青沼 悠平、小林   誠
畜産需給部         坂西 裕介

【要約】

 インドの家きん肉生産量は、経済発展や人口増加による内需の拡大などにより増加している。現在のところ、国内需要を満たす水準で増加しており、当面の間はまとまった量の鶏肉製品を輸出、輸入する動きはないようである。
 しかし、インドは潜在的な市場規模が大きいだけに自国の需要を補うために鶏肉製品や養鶏用の飼料原料を輸入するようになれば、これらの国際需給に影響を与える可能性がある。

1 はじめに

 「21世紀はインドの時代」だという見方があるほど、インド経済は急速な成長を続けており、世界の注目を集めている(図1)。若年層が多く、生産年齢人口(15〜64歳)の割合は全体の66%を占めるなど、経済成長と消費が拡大する条件が整っている。

 
図1 インドの経済成長率の推移
 
 
 特に、経済成長により中間層の割合は目を見張る勢いで増加している。2000年時点では全人口に占める同層の割合は約4%に過ぎなかったが、2030年には50%を超えると予測している資料もある。
 人口増加と中間層の増加による可処分所得の向上などは、一般的には食肉消費の増加につながるとされる要因である。しかし、宗教上、食肉に関する摂食制限が多い同国においては、消費の伸びが見込めない食肉が多い。そのような中、例外的に家きん肉は宗教上の制約が少ないため、同国の経済成長に伴って消費の伸びが見込まれる唯一の食肉である。
 一方で、鶏肉の供給について日本の状況を見てみると、その4割を輸入しており、ブロイラー用配合飼料の原料もほとんどが輸入品である。同配合飼料の原料の約5割を占めるトウモロコシについては、インドからの輸入はごく少量ではあるが、同約2割を占める大豆油かすについては、2017年は輸入量全体の2割を占めている。
 現在のところ、インドにおける鶏肉製品や養鶏用の飼料原料の輸入はほとんどないものの、今後、インドが自国の需要の増加を補うためそれらを輸入することになれば、国際需給に影響を与える懸念があるだけではなく、将来的には日本の輸入競合国になる可能性もある。
 このような状況にも関わらず、インドにおける家きん肉生産をめぐる状況についてはほとんど知られていない。
 本稿では、2018年11〜12月に実施した現地調査を基に、インドの家きん肉、特に鶏肉をめぐる状況と今後の見通しを筆者の考察を交えて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1ルピー=1.7円(2019年2月末日TTS相場:1.72円)を使用した。
 

2 家きん肉の概要

(1)家きん肉の供給状況

 家きん肉生産量は、人口や所得の向上などから増加傾向で推移しており、2017/18年度(4月〜翌3月)は376万7000トン(前年度比8.8%増)となった(図2)。13/14年度は干ばつの影響により飼料穀物が不作であったことなどから、生産量の多いアンドラプラデシュ州などの生産量が減少したため(図3)、大幅に減少した。14/15年度は統計を取得することができなかった。
 家きん肉輸出入量は生産量と比較して非常に少なく、2017年の輸入量は91トン(HSコード:0207)、輸出量は3820トン、うちベトナム向けが半数を占める。
 
図2 家きん肉生産量の推移



図3 インドの地図
 

(2)食肉における家きん肉の位置付け

 17/18年度の主要食肉の生産量に占める家きん肉の割合は49.6%となっており、次いで、水牛肉、ヤギ肉となっている(図4)。家きん肉には、ブロイラー、地鶏、採卵鶏(廃鶏)、アヒルなどの水きん類が含まれている。今回の調査などからブロイラーが家きん肉の大宗を占めていると思われるが、家きんの種類別の統計がないため正確な割合は把握することはできない。地鶏は在来種の鶏のことを指し、全国各地で飼養されており、農家の裏庭で飼養されていることが多い(写真1)。

 
図4  主要食肉の生産量に占める家きん肉の割合


写真1  インドで飼養されている地鶏、アシール
 

  インドは人口の80%がヒンズー教、14%がイスラム教、残りはキリスト教、シーク教となっている。ヒンズー教徒は基本的には肉食全般を避ける傾向があり、社会的な地位が高い者や信心深い者ほどその傾向が強いと考えられている。
 しかし、インド内務省が調査した報告書によれば、2014年の全国の菜食主義者の人口割合は28.9%と、宗教別人口比ほど菜食主義者の割合は高くない。ただし、地域別には大きな格差があり、ラジャスタン州など北西部においてその割合が高い(表1)。

 
表1  主要州・連邦直轄地における菜食主義者の割合

 
 ヒンズー教徒は雄牛を神聖視しており、と畜が禁止されているほか、豚は宗教的な理由ではないが不浄な動物という意識が浸透しているため、非菜食主義者であっても牛肉や豚肉を食べることはほとんどない。そのため、宗教的な禁忌が少なく、値段が比較的手頃な鶏肉が消費されることが多い。さらに、外資系ファストフードチェーンの進出により、消費者が家きん肉を食べる機会がますます増加している(写真2)。鶏肉は、タンドリーチキンやビリヤニ(スパイスと肉の炊き込みご飯)などの料理で食べられている(写真3)。
 
 
写真2  ファストフード店の鶏肉のハンバーガー


写真3  鶏肉のビリヤニ
 

(3)鶏肉の購入場所や価格など

 今回調査で訪れたムンバイ、ハイデラバードなどの大都市では、街中に量販店があるほか、小売店、レストラン、映画館などがそろうショッピングモールも複数あった。中間層以上の消費者は、これらの場所で日常的な買い物を行っているとみられる。今回調査した三つの量販店のいずれにおいても、家きん肉、主に鶏肉やその調製品が冷凍、冷蔵ショーケースに入れて販売されていた(写真4)。パック詰めされた鶏肉もあったが売場面積は小さかった(写真5)。

 
写真4  ハイデラバードの量販店で販売されている鶏肉


写真5  ハイデラバード 鶏肉のパック詰め
 
 今回、ムンバイにて食料品から生活雑貨など幅広い商品を販売するHyperCityのマネージャーに鶏肉の販売に関して聞き取りを行うことができたため、以下に写真6〜8を交えて紹介する。
・販売している鶏肉は全てブロイラーで、1週間当たりの販売量は750キログラム程度、全てハラル処理をしている。
・ムンバイ在住のインド人の8割程度は、個人で家きん、家きん肉を販売している店(以下「家きん小売店」という)などで家きん肉を購入している。
・消費者に冷凍・冷蔵肉はあまり浸透しておらず、常温肉の方が新鮮であるという意識が強い。しかし、近年は、共働きの世帯が多くなってきているため、鶏肉の冷凍食品(ready-to-eat食品)のラインナップも増えてきている。
 
写真6  取材に応じてくれたHyperCityのマネージャー


写真7  冷蔵ショーケースで販売されている丸鶏


写真8  鶏肉の冷凍食品

 
 インド政府の研究機関であるインド家きん研究総局(以下「総局」という)によると、家きん小売店はインドに数多く存在しており、消費者はかごに入れられた鳥から好きなものを選び、その場で処理してもらうか、丸鶏や部分肉に分割され店頭に置かれたものを購入しているという(写真9〜10)。扱っている家きんのほとんどがブロイラーで、中には地鶏やアヒルなどを販売しているところもある。

 
写真9  ムンバイの家きん小売店の外観


写真10  ハイデラバードの家きん小売店
 
 鶏肉の小売価格については、量販店と家きん小売店に大きな差はなく、いずれも丸鶏1キログラム当たり200ルピー程度(340円)と、日本と比べてかなり安い価格で販売されていた。地鶏の方がブロイラーより歯ごたえがあり味わい深いため消費者に好まれるとのことである。
 インドは、コールドチェーンが未発達なところが多いため、冷凍・冷蔵肉を街中で目にする機会は少なく、伝統的なスタイルの購買チャネルを利用することが多いようである。一方で、近年の経済成長により徐々に量販店で鶏肉を購入する消費者層は増加しており、スマートフォンの普及はEコマース(電子商取引)市場を拡大させ、鶏肉などの生鮮食品も手軽に購入できるようなってきている。最近普及してきている「big basket」や「Licious」などのオンライン生鮮食品サービスは、消費者が店舗に買いに行くまでの交通渋滞を避けることができ、各種割引サービスも充実しているため、利用者は年々拡大している。
 

3 家きん肉の生産概況 〜ブロイラーを中心に〜

(1)家きんの生産地域

 家きん肉の生産は南部、北部および東部の一部で盛んで、生産量の多い上位10州で全体の約9割を占めている(表2、図3)。特に、菜食主義者の割合が少ない南部で生産量が多くなる傾向がある。マハラシュトラ州や北部3州は、菜食主義者の割合は高いものの、マハラシュトラ州やウッタルプラデシュ州は1〜2億人の人口を有しており、さらに、北部には首都ニューデリーを擁するデリー連邦直轄地が隣接しているため、当該地に供給するための家きん肉を、近隣州で生産している。

 
表2 家きん肉生産量上位10州とシェア
 

 なお、北部、西部は酪農が盛んであり、菜食主義者にとって貴重なたんぱく質源となる牛乳・水牛乳の生産が多い。このように、インドの畜産業は、宗教との関わりが深いことがうかがえる。
 

(2)ブロイラーの品種とひなの供給

 ブロイラーの品種は、コッブ系、ロス系などが飼育されているが、後述するインドの大手養鶏・鶏肉企業のVenkateshwara Hatcheries Group(以下「VH社」という)によると、同社のVencob系が市場シェアの80%を占めているという。同社がコッブ系のGP(原種鶏)を輸入してPS(種鶏)を生産し、自社販売店、フランチャイズ店、販売代理店を通じて養鶏・鶏肉企業にPS世代のひなやコマーシャル世代のひなを販売している。養鶏・鶏肉企業は、購入したひなを契約農家に育てさせて家きん小売店などに販売するだけの企業から、種鶏場、食鳥処理場、加工場、飼料工場などの全部や一部を自社で所有している企業(以下これらを総称して「インテグレーター」という)までさまざまである。
 

(3)ブロイラー経営の形態

 総局によると、ブロイラー生産量の8割程度は養鶏・鶏肉企業の生産であり、そのほとんどが肉用鶏農家への生産委託契約によるものであるとしている。今回の調査や各種資料から推察すると、契約農家の飼養羽数は1000羽程度の小規模なものから数百万羽の大規模なものまでさまざまである。
 インテグレーターは直営ブロイラー農場を保有しているところもあるが(写真11)、契約農家からブロイラーを調達している割合の方が高い。実際に、VH社はブロイラー生産量の75%を契約農家から調達している。

 
写真11  VH社の直営ブロイラー農場
 

 養鶏・鶏肉企業は契約農家に対し、初生ひな、配合飼料、動物用医薬品、給餌器などの器具、技術指導の提供を行っている。肉用鶏農家が養鶏・鶏肉企業の契約農家になるためには、土地と鶏舎を保有し、養鶏・鶏肉企業の生産マニュアルを順守する必要がある。ハイデラバードを拠点に活動するインテグレーターのSneha Group(以下「SG社」という)は、契約農家になるための条件として、40アール以上の土地と最低でも1000羽を飼養できる鶏舎を保有していることを挙げている。多くの肉用鶏農家は買取価格が安定している養鶏・鶏肉企業の傘下に入りたいと考えているが、一般的に肉用鶏農家は資金力に乏しく、飼養羽数1000羽以下の小規模の農家が多いため契約農家になることは容易ではない。資金力のある農家は、養鶏関連団体や大学においてブロイラーの飼養管理などを学び、その後、土地や鶏舎を取得して経営を開始する。また、金融機関から融資を受けて鶏舎を建設する者も多く、担保に充当するものがない場合は、養鶏・鶏肉企業が保証人となることもある。

 

(4)VH社のブロイラー飼養に関する条件や基準など

 ここでは、今回訪問したVH社が契約農家に求めるブロイラー飼養に関する条件および管理基準などを以下に紹介する。VH社は、1976年に設立したインド最大のインテグレーターで、飼料、種鶏、動物用医薬品、ブロイラー、SPF卵、鶏肉加工品などの生産、販売を手掛ける。VH社、SG社と業界大手のSuguna Foodの概要は表3の通り。

 
表3 今回訪問した養鶏・鶏肉企業などの概要
 

ア  養鶏場の立地および鶏舎設立の条件
・養鶏場を建設する場合は、他の養鶏場から最低1.6キロメートル以上の距離を置くこと。
・水資源が豊富な土地であること。
・当該地の気候条件に合った換気システムを導入すること。
・鶏舎間は、最低18メートル以上の距離を置くこと。
・鶏舎は、野生動物(野鳥、野獣)などの侵入を防止するため、側面を金網で囲い、鶏舎の土台はコンクリートを使用すること。

イ  鶏舎の消毒と清掃
・前回の鶏群管理で使用した給餌器などの器具、壁などにある汚れやクモの巣、鶏舎回りの排水路などの清掃を行うこと。
・4%炭酸ナトリウム(ソーダ)を用いて鶏舎内の洗浄と消臭を行うこと。
・消毒液、消石灰を散布すること。
・鶏舎内が空になったら最低1週間は乾燥させる。その期間は鶏舎内に人、物を入れないこと。

ウ  野生動物の鶏舎内への侵入防止
・野生動物のエサとなる害虫を呼び寄せないため、鶏舎回りの雑草やゴミの除去や清掃を行うこと。
・ネズミなどの齧歯類(げっしるい)の捕獲器を鶏舎回りに設置すること。
・技術指導員などが定期的に鶏舎内の見回りを行うこと。
 
エ  飼養管理
・オールイン・オールアウトの原則に従い、同日齢と同品種のブロイラーを飼養すること。
・飼養密度は1平方メートル当たり9羽程度(インドは開放型鶏舎が主流で、機械的な換気が行えないため飼養密度を低くする)
・給水器は1000羽当たり16〜20個を設置すること。
・給餌器は1000羽当たり20個設置すること。
・暖房は、ガスブルーダーの場合は1000羽当たり1機、一斗缶(木炭)の場合は350羽当たり1個を設置すること。
・日齢別の鶏舎内の温度管理
 1日齢:32〜33度
 2日齢:31〜32度
 3〜7日齢:30〜31度
 8〜14日齢:26〜28度

オ  バイオセキュリティ
 2006年2月に国内で初となる高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)がマハラシュトラ州とグジャラート州で確認されて以降、頻繁にHPAIの発生事例が報告されている。農業農民福祉省畜産酪農水産局はHPAIの流行を食い止めるため、ブロイラーの飼養が多い地域で経営を行っているインテグレーターに対し、コンパートメント化(注)を推奨している。
 VH社では、労働者や訪問者などが養鶏場内に入る際は、記帳、靴底消毒、人および車両の噴霧消毒を行い、病原体を鶏舎内に持ち込まないよう指導している。
 契約農家がへい死した鶏を発見した場合は、VH社の技術指導員に報告するとともに、予め設置してある廃棄所に入れ、他の鶏への疾病感染のリスクを最小限にとどめる。廃棄所はコンクリートで建設することが望ましいが、多額の費用を要するため実際には穴を掘った簡易なものが使用されているという。

(注):コンパートメント化とは、ひなの供給、肥育、輸送、食鳥処理などの一連の生産工程において、バイオセキュリティ、モニタリング、通報、トレーサビリティなどの管理措置を高レベルで行うことにより、万一に疾病が発生しても清浄区画と発生区画を明確に識別できるよう施設などを区画分けすることである。
 

(5)飼料

 インドでは家きん肉生産量の拡大を受け、飼料、特に、配合飼料の需要は拡大を続けている。米国農務省(USDA)は、インドで生産される配合飼料の約7割が養鶏用、約1割が酪農、約1割が水産、残りはその他として使用されており、養鶏用配合飼料原料の大宗を飼料用トウモロコシ、大豆油かすが占めているとしている。その他に、小麦、魚粉、破砕米、その他かすなどが原料となっている。
 16/17年度のトウモロコシ生産量は2626万トンとなっており、ここ数年は2100〜2600万トン台で推移している(図5)。大豆は、12/13年度以降減少したが、16/17年度は増加に転じている。総局は、トウモロコシ生産量のうち8割が飼料用、残りは食用としている。

 
図5 トウモロコシ、大豆生産量の推移
 
 
 インド政府は、遺伝子組み換えトウモロコシおよび大豆の輸入および栽培を禁止している。トウモロコシの輸入に際しては、年間50万トンまでの無税枠があるものの、政府の輸入許可が下りにくく、また、枠外は50%の関税が課されているため、トウモロコシのほぼ全てを国産で賄っている。
 USDAはインド国内の配合飼料の需要量に対し、およそ6万トンが供給不足とし、数年後には国際市場に頼らざるを得ない状況になるのではないかと予測している。総局も現在は配合飼料原料を自給できているが、今後の配合飼料需要の増加によっては、遺伝子組み換え作物の輸入が許可される可能性があることを示唆している。

 

コラム 「Poultry India 2018」

 2018年11月28〜30日にハイデラバードのHitexエキシビジョンセンターで開催された養鶏産業の展示会「Poultry India 2018」を訪問した(コラム–写真1)。
 Poultry Indiaは南アジア最大規模の養鶏産業の展示会で、今年で12回目の開催となる。インド国内をはじめ中国、タイなどのアジア諸国、米国、ドイツやフランスなど計75カ国、324社の養鶏機械・器具、鶏肉処理加工機械および動物用医薬品メーカーなどが出展した。開催期間中は、養鶏農家、養鶏・鶏肉企業、流通業者などが訪れ、来場者数は4万人を超え、大盛況となった。
5カ所のホールで各社が展示を行い、会場内には鶏肉処理機械や養鶏機械などが展示され、多くの見学者で賑わっており、各ブースでは商談を行う姿も見られた(コラム–写真2)。また、開催期間中には、インド養鶏産業に精通した国内の大学教授や欧米の養鶏産業メーカーなどが飼養管理、バイオセキュリティ、飼料などに関する講演を行った。養鶏・鶏肉企業各社は、国内の鶏肉需要の増加を受けて事業拡大のため、生産性の高い施設の建設や器具の導入を進めており、展示会は最新技術に触れる格好の機会となる。展示会事務局によると、訪問者の7割程度が展示会を自身の経営の収益を高める絶好の機会だと捉えているとしている。

 
コラム?写真1  Poultry India 2018の会場。


コラム?写真2 展示ブース前での商談
 

 今回の調査先でもあるVH社はホール入り口付近のひときわ大きなブースに出展していた(コラム–写真3)。
 また、会場内のフードコートには飲食店を出店し、同社の製品のチキンナゲットやチキンバーガーなどを販売していた(コラム–写真4)。
 
コラム?写真3 VH社のブース


コラム?写真4  フードコート内のVH社の飲食店

4 契約農家におけるブロイラーの生産方式

 今回調査したVH社、SG社の契約農家の生産・出荷方式について紹介する。
 

(1)ガラナイク氏 (カルナタカ州ダーワッド VH社)

 ガラナイク氏は、2009年にVH社の契約農家となり、ブロイラーの飼養を開始した。それ以前は、トウモロコシやマンゴーなどを栽培して生計を立てていた。現在は、ブロイラー経営が主体で、副業として耕種経営を行い、鶏ふんは畑の肥料に使用している。
 所有地1.6ヘクタールのうち鶏舎面積は0.4ヘクタールで、最大2万羽を収容することが可能である(写真12)。従業員を5人雇用し、1人当たり約4000羽を飼養管理している。
 
写真12  ガラナイク氏の鶏舎
 

 VH社が契約農家に対し、初生ひな、飼料、動物用医薬品などの生産資材と技術指導を提供し、農家は日々の飼養管理のほか、毎日、鶏の発育状況を記録し、オンラインで報告する(写真13)。

 
写真13  飼養管理簿
 

 出荷日齢は、40日程度、出荷体重は2.3キログラム程度。飼料要求率(FCR)は1.68。1日1羽当たり給餌量は103グラム。VH社の買取価格は1羽当たり15ルピー(26円)程度で、飼養成績が良ければ上乗せがある。
 同氏は、契約農家としてブロイラー経営を行うメリットとして、国内市場価格が高くなった場合にその恩恵にあずかれないものの、国内価格の上下に関わらず、VH社が定価で買い取ってくれるため安定した収入を得られることや、当該地域の年間気温は18度前後と安定しているため飼養管理が容易であることを挙げている。
 一方で課題としては、従業員は特段の農業教育を受けておらず、経験に基づく管理を行う傾向にあるため、従業員に対する教育や鶏舎の監視・管理など日々のマネジメントに時間が必要とのことであった。
 

(2)シヴィヤッグ・レッジ氏(テランガナ州ランガーレッディSG社)

  2010年にSG社の契約農家としてブロイラー経営を開始し、最大飼養羽数6000羽の鶏舎を2棟保有している。4年前までコメ、トウモロコシなどを作付けしていたが、気候変動により降水量が減少し水の確保が困難となったため、比較的水の使用量が少ないブロイラー経営を開始した。このほかに25頭の水牛を搾乳用として飼養している。
 レッジ氏はハイデラバードに住んでいるため、従業員が日々のブロイラーの飼養管理を行っている。出荷日齢は40日齢程度、出荷体重は2.2キログラム程度で、SG社が集荷を行っている。毎日、SG社の技術指導員が鶏舎を巡回しており、契約農家の飼養管理記録の記入の有無や鶏の健康状態などの確認を行ったりしている。
 SG社は、VH社の事例と同様に鶏の飼養管理に要する一切の生産資材を提供しており、契約農家に初生ひなを導入し出荷するまでの費用(生産費)を1羽当たり65ルピー(111円)に設定している。契約農家は、SG社に出荷した際に飼育料(預託料)として1羽当たり11ルピー(19円)を得られる。飼養成績が良く、SG社の設定する生産費を下回ることができた場合、例えば、2ルピー(3円)生産費を下回れば、2ルピーをSG社と契約農家で分け合い、農家の飼育料に1ルピーが上乗せされるシステムとなっている。

 
写真14  レッジ氏の自宅前
 

5 鶏肉の流通 〜VH社の事例を中心に〜

 鶏肉の一般的な流通構造は、今回の調査を基に整理すると図6の通りになる。各種資料や現地での聞き取りから推察すると、生産されるブロイラーの9割近くが生きた鳥として家きん小売店やウェットマーケットなどに流通しているとみられる(写真15)。残り1割は、インテグレーターが保有している食鳥処理兼加工場で処理されている。総局によると、全国にある食鳥処理兼加工場15カ所のみで、1時間当たり処理能力は1000羽以下のところが多く、最大で同6000羽程度と規模は小さい。

 
図6 一般的な鶏肉の生産流通経路
 

 
写真15  家きん小売店などに運搬されるブロイラー

 
 生産、加工、流通、販売の一連のサプライチェーンを有しているインテグレーターで処理・加工された鶏肉は、同者が構築したコールドチェーンにより、冷蔵・冷凍品として量販店や直営小売店などで販売されており、衛生水準は他のものと比べて高い。
 以下に今回調査したVH社のグループ企業の「Venkateshwara Hatcheries Pvt.Ltd」におけるブロイラーの集荷、処理、加工、流通方式を紹介する。


【Venkateshwara Hatcheries Pvt.Ltd カルナタカ州 ダバンゲレ】
1  工場概要

 2011年にVH社の第2の食鳥処理兼加工場として設立され、1時間当たり食鳥処理能力は最大で6000羽となる(写真16)。このほかにマハラシュトラ州のプネーに同4000羽の工場を有している。敷地面積は約20ヘクタールで、うち工場の建物が約4ヘクタール、残りは廃水処理施設、工場残さの処理施設などがある。従業員数は750名で、勤務時間は、食鳥処理場は7時30分〜16時、加工場は8時30分〜17時である。
 
写真16 工場の外観
 
 
2  食鳥処理場兼加工場
 食鳥処理場、加工場における処理および製造工程は図7の通り。食鳥処理場では、処理された鶏を顧客の要望に合わせて従業員の手でカット、脱骨している。1時間当たり最大で3000羽脱骨することが可能である。工場内に入室する際は、HACCPに基づき、(1)記帳(2)着替え(マスク、ヘアネット)(3)手洗い(20秒)・消毒(4)ローラ―がけ(5)靴の消毒(20秒)の工程を経なくてはならない。従業員はヘアネットをしているものの、タイやブラジルの大手養鶏・鶏肉企業のような目出し帽の着用はなく、エアシャワーも完備していなかった。
 
図7 食鳥処理場、加工場における処理、製造工程
 

3  鶏肉製品の販売
 冷凍鶏肉、鶏肉調製品は、ムンバイ、デリー、コルカタなど大都市にある量販店などに出荷されるほか、オマーン、カタールなどの中東諸国やブータンに輸出している(写真17、18)。大手ファストフード店に製品を納品する場合は、その会社の仕様に合わせて製造を行う。大手ハンバーガーチェーンのレシピは他の製品とは完全に異なるため、混入を防止するため製造ラインを別にしている。

 
写真17  量販店などで販売されているVH社の鶏肉調整品
 
 
写真18  (1)ソーセージ (2)チキンポップ(丸形揚げ

 
 商品開発については、量販店の商品開発や仕入れなどに携わる者(バイヤー)や商品開発コンサルタントなどと共同でレシピ開発を行っている。工場から発生する頭、羽、皮、足(もみじ)などの副産物は、ペットフードに加工して販売している。もみじの一部は中国やベトナムに輸出している。
 

6 まとめ

 これまで見てきたように、インドの家きん肉、特に鶏肉産業は、旺盛な需要を背景にその生産量は増加しており、今後もこの傾向は続くと見込まれる。需要の増加要因としては、(1)人口の増加(2)中間層の増加による可処分所得の向上(3)ファストフードなど食の欧米化(4)Eコマースの普及などが挙げられる。インドの人口は、2030年ころまでに中国の人口を抜いて世界第一位になると予測されている。また、Eコマースの普及は生鮮食品の購入を容易にするため鶏肉消費量の増加が期待される。
 一方で、減少要因としては、現在のモディ政権によるヒンズー原理主義化によって菜食主義者の人口が増加することや、異常気象(干ばつ、洪水)により穀物が減産し、ブロイラー生産が減少することなどが挙げられる。
 同国の生産および流通の構造を見ると、インテグレーターのサプライチェーン内では、その管理体制の下に品質の高い鶏肉製品が生産され、量販店などに供給されているが、その割合は小さく、多くは養鶏・鶏肉企業や流通業者を介して伝統的な家きん小売店やウェットマーケットなどに供給されている。生産された鶏肉は、現在のところほぼすべてが国内に仕向けられており、鶏肉およびその調製品の輸出量は少ない。政府としても鶏肉については、まずは輸入に頼る前に旺盛な国内需要を国内で満たすことに注力している様子である。
 以上のような消費や生産・流通の状況を踏まえれば、インドが今後、短期的に鶏肉や鶏肉調製品の輸入を急増させるとは考え難い。
 しかし、上記の増減要因を考慮した場合、今後、インドの鶏肉需要が増加する可能性は高く、減少要因として挙げた異常気象による減産が起これば、一気に需給がひっ迫する恐れもある。このようなことから、近い将来、鶏肉製品や養鶏用の飼料原料の輸入を始める可能性もある。そうなれば国際価格への影響を及ぼすほか、日本との競合もあり得るため、同国の今後の動向を注視していく必要がある。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246