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調査・報告 畜産の情報 2019年6月号

女性活躍を中心とした働きやすい職場環境づくり〜有限会社旭養鶏舎での取り組みを事例に〜

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調査情報部 熊谷 啓、青沼 悠平(現企画調整部システム調整課)

要約

 島根県大田市の有限会社旭養鶏舎では、役職員の半数以上が女性であり、きめ細やかな女性の能力を積極的に活用することで、鶏の育成段階でのロスの軽減、製品の品質向上、商品開発による売り上げの向上が図られている。さらに、従業員の提案が経営に反映される仕組みを構築するなど、働きやすい職場環境づくりにも積極的に取り組んでいる。

1 はじめに

 全国的な働き手不足といわれる中、わが国の農業においては、高齢化などによる農業従事者の減少は深刻な問題となっている。
 働き手の確保のためには、企業は従業員の能力が最大限に発揮されるように、やりがいや就業意欲を高め、従業員が働きやすい職場環境づくりが必要となる。また、ワークライフバランスへの配慮に加え、人材の適正配置が求められている。
 その中でも重要なのが、女性の能力の積極的な活用である。農業就業人口175万2500人の約半数を占める女性(農林水産省「平成30年農業構造動態調査」)は、農業経営に欠かせない存在である。わが国でもさらなる経済成長に向けて、平成27年に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が施行され、女性の能力が積極的に活用されることが期待されている。また、このような動きを着実にするため、農林水産省は、「農業女子プロジェクト」を立ち上げ、女性農業者の存在感の向上と農業を志す若手女性の増加を目指している。
 畜産業は、家畜や重機の取り扱いなど力仕事が中心となることや、堆肥などの家畜排せつ物関連の作業もあることから、男性が主体となることが多い。その中で、農林漁業の6次産業化による加工品製造・販売の業務といった女性が活躍しやすい場も増えてきており、農業生産関連事業における女性雇用者数は増加している(表1)。
 

 島根県大田市で鶏卵生産を営む有限会社旭養鶏舎(以下「旭養鶏舎」という)は、従業員の半数以上が女性で構成されている。本稿では、旭養鶏舎における女性活躍を中心とした職場環境づくりに向けた取り組みなどを紹介する。

2 島根県の採卵鶏経営

 平成28年の島根県の農業産出額629億円のうち、畜産算出額は249億円と約4割を占めている。畜産算出額のうち、鶏は51億円(うち鶏卵は40億円)であり、肉用牛の88億円、乳用牛の82億円に次いで3番目となっている。
 採卵鶏については、高齢化などの影響を受け、飼養戸数は減少傾向で推移しているものの、全体の飼養羽数は90〜110万羽で推移しており(表2)、鶏卵の県内需要の8割を県内産が占めている。
 
 

 島根県では、独自の生産工程管理基準として「しまね認証」を設置している。これは、島根県が生産から出荷までの各段階において、さまざまな危害(リスク)を回避し、安全でおいしいことに十分に配慮した作業・管理が行われていることを認証するものであり、畜産分野では、鶏卵で7農場、肥育牛で3農場、肉用鶏および生乳でそれぞれ1農場が認証されている(平成30年10月現在。この認証第1号が後述する旭養鶏舎の鶏卵製品である)。
 また、消費拡大にも力を入れている。島根県内の健全な養鶏振興を目的に設立された島根県養鶏協会では、「しまねのたまご」PRを目的としたテレビコマーシャルの制作・放送、各種イベントへの出店、パンフレットの配布など積極的に活動している。同協会を構成する養鶏農家の後継者を中心とした同協会の青年部では、積極的に現在のニーズを把握し、より効果的な情報発信ができるよう活発的な議論が交わされている。特に、卵と美容効果を結びつけたパンフレットはとても好評で、配布開始後、間もなく在庫が無くなったそうである(写真1)。このほかに、卵の生産工程や卵を利用したレシピを分かりやすくまとめたスマートフォンサイト「しまねのたまご エッグ〜」も青年部の発案により設置された(写真2)。

 


 

3 旭養鶏舎の概要

 旭養鶏舎は、昭和36年に地元の養鶏農家6者の共同経営体として創業した(写真3)。主な業務は、ひなの育成から鶏卵の生産であり、自動給餌・集卵設備およびGPセンター(注)の設置、自社による配送を実施することで、生産から販売までの一貫体制を構築している。創業当初の採卵鶏飼養羽数は約5000羽であったが、現在は約30万羽と島根県内の3割程度のシェアを占めており、県内トップの生産規模を誇る。さらに平成26年からは鶏卵加工品の加工・直売所を設立しており、6次産業化による自社製品の販売にも取り組んでいる。
 


注:GPはGrading & Packingの略で、生産農場で産まれた「たまご」を洗浄殺菌し、重量ごとにサイ   ズ格付け(Grading)され、包装(Packing)される施設のこと。

(1)鶏卵生産・販売

 これまでは取引先の要望により、ピンク色の卵を産むハイラインソニア、赤色の卵を産むハイラインボリスブラウンを飼養していたが、多様な取引先のニーズに対応するため、日産卵量や産卵持続性などに優れた白色の卵を産むジュリアの飼養も開始しており、その比率は増えているという。
 鶏卵生産量は1日当たり16.5〜18.0トンとなっている。
 旭養鶏舎は、安全・安心な卵の生産には、卵を産む鶏の健康が第一と考えており、地域の循環型農業の推進、飼料の地産地消という観点から飼料にこだわっている(写真4)。主な商品のラインナップとその特徴は次の通り。
 

ア 販売の主力となるネッカエッグ
 昭和45年ごろ、島根県内の採卵鶏農家において、木炭と木酢液の混合飼料であるネッカリッチを給与したところ、鶏の腸管内の乳酸産生菌の増殖を促し、腸内環境を整える効果があることが分かった。これを機に、県内複数の採卵鶏農家が組織したミネラル生産養鶏組合において、ネッカリッチなどを給与された採卵鶏が産んだ卵を同組合の統一ブランド「ネッカエッグ」として販売するようになった。出荷に当たっては、全組合員が同じパック・ラベルを用いるが、卵が生産農場ごとに混在しないようそれぞれの農場で梱包をしている。
 取引先との価格交渉については、旭養鶏舎が組合全体を一括して交渉しており、特売日などの不足分の調整にも対応している。
 また、統一ブランドの販売に当たり、全組合員が前述の「美味しまね認証」を得ることで、同レベルの生産技術を有していることを対外的に証明している。

イ 付加価値販売を狙ったえごま利用
 農家の高齢化などにより増加傾向であった地域内の耕作放棄地を利用し、耕種農家などが島根県の特産品であるえごまの栽培を開始した。このえごまを含んだ飼料(2.5%配合)を給与された鶏が産んだ卵が「しまねのえごま玉子(以下「えごま玉子」という)」である。えごまには、脳細胞の活性化や血流の流れを良くする効果があるα−リノレン酸が含まれている。島根大学医学部との共同研究により、人への臨床試験の結果、えごま玉子を摂取した被験者からも同様の効果が確認された。えごま玉子は、全国から問い合わせがある人気商品となっているものの、昨今の健康ブームにより、国産えごまの需要は増加しており、えごまの確保が困難となっている。そのため、平成27年から耕作放棄地を8ヘクタール取得し、えごまの自社生産を開始した。

ウ 飼料用米の利活用
 平成21年4月、飼料用米の生産・利用の拡大および流通体制の構築を図るため、島根 県飼料用米推進協議会が設立された。そのような中、旭養鶏舎においても鶏へのもみ米の給与(20%配合)を開始し、その鶏が産んだ卵を「島根のこめたまご」として販売している。旭養鶏舎では、次世代へ美しい田園風景を残すことを目的に、えごま玉子同様、循環型農業の推進、耕作放棄地の解消などへ積極的に取り組んでいる。

(2)飼養・衛生管理

 旭養鶏舎では、成鶏舎9棟、育成舎9棟を設けている。猛暑対策として、ファンや気化熱を利用した冷却パッドを設置し、室内温度を調整している。従来から行っている平飼いについては、暑熱や高病原性鳥インフルエンザ対策といった観点から、今後は屋内に飼育スペースを設けることを検討しているとのことだ。
 GPセンターでは、機械・器具の自動洗浄システムの導入に加え、定期的な一般殺菌、大腸菌やサルモネラ菌の検査が行われており、徹底した衛生対策が施されている。また、最新技術の積極的な利用に向け、卵の洗浄機をはじめとした作業機械は利用から5年弱で更新している。
 鶏ふんについては、地域循環型農業の推進を目的に、自家発酵後、堆肥として前述のえごまや飼料用米生産のために地域農家へ供給している。

(3)人員体制など

 従事者数は、表3の通りであるが、特筆すべきは役員、従業員の半数以上が女性となっている点である。また、全従業員が、食品を扱う責任を自覚すること、また労働意欲の活性化という観点から正規雇用となっている。
 役職員の平均年齢は30歳程度と非常に若く、今後もベテラン職員の定年退職が見込まれることから、後継者となる従業員の育成が喫緊の課題となっている。
 
 

(4)6次産業化への取り組み

 鶏卵生産の過程で発生した規格外の卵については、加工品向けとして県内スーパーや食品メーカーへ出荷していたものの、利用者ニーズに対応することが難しくなった。また、島根県産の鶏卵加工品の普及を目指して、自社で加工を手掛けることを決定し、2年の準備期間を経て、平成26年12月に加工場兼直売所を設立した。
 当初は7品目の鶏卵加工品(たまごとうふ、厚焼きたまご、茶碗蒸し、タルタルソース、アイスクリーム、プリン、味付けたまご)のみ製造・販売していたが、顧客からの要望に対応するため、卵ソースなど新製品の開発を行っている。えごま種子の自社栽培をはじめたことから、今後は「えごま玉子」とセット販売できる関連商品を開発するなど、さらに充実した製品ラインナップを整えるとともに、県外への販売態勢を強化することで活性化を図りたいとのことだ。
 

4 女性活躍を中心とした職場環境づくり

 前述の通り、旭養鶏舎の従業員は半数以上を女性が占めており、この体制は創業以来変わらない。その背景には、地域内に男性が留まらず、都心部へ働きに出てしまうという実情もあるそうだ。そのため、自然と女性に配慮した職場環境づくりが図られ、その能力が発揮されてきた。以下では、特に女性の能力が活用されている部署とその業務内容を述べるとともに、その成果を紹介する。

(1)業務体制

 旭養鶏舎の業務は、図の通り、8部門により運営されている。
 

 配属された部門は専属で担当することとなり、基本的に部門間の異動はない。ただし、産前産後休業などの職員については、身体への負担が少ない事務作業が中心となる総務部への異動に加え、半日勤務といった労働時間の短縮など、従業員の要望に応じた配慮がなされている。

ア 鶏卵・加工販売部
 主に自社製品の営業、配送業務を担当している。1週間のうち1日は社内で事務作業を行うが、4日は取引先のもとへ営業に出向いている。従来は男性職員のみで構成されていたが、営業活動の幅を広げるために女性職員2名を配属した。その結果、消費者に対する意識や顧客に対する気配りが、主に県外の新規顧客の獲得につながったという。また、女性職員のアイデアにより、創業以来初めてとなるスーパーマーケットでの試食販売を実施するなどした。これらの取り組みは売り上げの向上に貢献しているという。
 また、商品開発の一環として、県外出張などの際は他社の卵製品を購入し、社内で研究・議論する。デザートなどに詳しい女性職員のアイデアが商品開発に生かされ、これらの取り組みが創造性の向上につながっているという。

イ 鶏卵・製造加工部
 GPセンターにおいて、卵の選別、割卵作業、パック詰めから配送業務を担当している。従来から女性職員が多く配属されており、運搬や配送といった力仕事以外は全て女性が担当している。細い注意力により、機械で除去しきれなかった破卵や汚卵に加え、卵の表面の触感、卵形のゆがみ、小さな染みなど、見落としがちな細かな異変に気付くことができている。さらに、パッキング時も、ラベルのズレなどを見つけ機敏に対応できることで、自社製品の品質向上に大きく貢献している。消費者の方からは「旭養鶏舎の卵は非常にきれい」という声が寄せられることも多く、信頼関係の構築にもつながっている。
 GPセンターの生産量は、平成元年に設立した当時に比べ4.5倍まで増加しているため、作業導線を見直した上で、今後再建する予定である。その際はHACCPやJGAPなどの認証取得も検討している。

いくすう管理部
 種鶏場から導入したひよこを42日齢まで育成する業務を担当している。従来から女性が専属的に配属されている。最も繊細な生育時期を任せるに当たり、鋭い観察力により、ひよこの顔や声により健康面の異変に気付けることで順調な生育が促され、生産性の向上につながっている。
 現在の担当者は、肉用牛経営の経験者であり、動物に携わる仕事を希望して旭養鶏舎に就職したという。本業務は、採卵鶏飼養の根幹を担うことに加え、全部門の中で最も専門性が高いことから、後継者育成にも力を入れている。

エ 鶏卵加工部
 加工・直売所での加工製品の製造および販売を担当している。普段から食料品を買う機会の多い女性職員目線で企画・立案された自社製品は、地域内外から好評を得ている。また、売り場は非常にきれいで、購買意欲が沸く陳列、ポップ広告が飾られていた(写真5〜6)。
 
 

 当部署は、別会社としての設立も検討されていたが、縦割りの組織体系を避け、まとまりのある組織づくりを念頭に新部署設立という形になったという。そのため、繁忙期となるお中元やお歳暮のシーズンには、全部門の職員が総出でフォローに当たる。
 今後、さらなる新製品の開発・販売により、売り上げの向上を図りたいとのことだ。

(2)働きやすい職場環境づくり

ア 提案会の実施
 経営の多角化、従業員のモチベーションの向上を図るため、従業員の意見やアイデアが経営に生かされる仕組みとして提案会を実施している。従業員からどんなことでも提案してもらい、毎週月曜日の朝礼時に採用の可否について、その理由を含め発表される。採用された場合は、提案した従業員に金一封が送られる。採用されなかった場合でも、提案者が自らの提案の実施を強く希望する場合は、採用することもあるという。提案のほとんどは女性職員のものであり、会社としては今後も積極的に提案を採用していきたいとのことだ。

【これまでの採用事例】
・ 外見が汚ければ社内の全てが不衛生であるという印象を与えることから、社内で利用するタオルは使 用後1カ月で全て交換
・ 注意事項などを周知する際は「言葉のニュアンスを軟らかい表現にした方が浸透する」という観点か ら、「○○すること」から「○○しましょう」に統一・・・など

イ 福利厚生などの充実
 旭養鶏舎の勤務時間は、原則8〜17時で、完全週休二日制となっている。ただし、従業員からの要望により、時短勤務といった労働時間の調整に対応している。また、社会保険などへの加入、退職金の積み立てなどに加え、従業員の誕生日には花束を贈呈するなどきめ細かく対応している。さらに、自治体や関係団体が実施する研修へ従業員を積極的に参加させるなど、養鶏に関して勉強できる機会を設けている。

ウ 今後の展開
 今後も、女性に配慮した更衣室や休憩室、シャワールームなどを設置するとともに、新しいユニフォームにも機能性やデザインの要望を反映させ、一層働きやすい職場環境を整備することで、労働力の確保を図りたいという。また、風通しのよい職場環境には、職員間のコミュニケーションも重要であることから、「おはようございます」「お先に失礼します」といったあいさつは徹底するよう指導して いるとのことだ。
 しかしながら、地域の過疎化が進む中で、このような雇用体系の構築や職場環境づくりをしても労働 力の確保には苦慮しており、今後は機械化を進めることで効率化を図りたいとのことだ。

5 おわりに

 旭養鶏舎が女性の能力を積極的に活用する取り組みを推進したのは、元来女性従業員が主体であったことがきっかけである。その背景には地域内に男性がとどまらず、都心部へ働きに出てしまうという実態もあるようだ。そのため、女性主体で構成せざるを得ない状況であったという見方もできる。このように都心部へ労働力が集中することで、働き手不足に悩む地域は少なくないだろう。
 そのような状況下で、地域の特性に応じて組織体制を構築するとともに、職場環境の整備に加え、職員の適正・意向をくんだ人事配置を実践している旭養鶏舎は地域に順応した企業といえるだろう。その結果として、生産性や創造性の向上につながり、経営の拡大が図られた。
 それはきめ細やかな女性の能力を積極的に活用してきたことをきっかけとして、現在では提案会などの取り組みにつながっている。提案された意見には必ずフィードバックすることや、従業員の誕生日には花束をプレゼントするなど、従業員を大事にする姿勢をみることができる。
 日本農業においては高齢化による働き手不足が深刻化するとともに、地域の過疎化も進んでいる。持続的な経営のためには、今まで以上に地域性を考慮した体制づくりに加え、経営を支える従業員の働きやすい環境づくりが重要になる。
 全国的に女性活躍の推進や職場環境の改善が求められる中、まず何から取り組むべきか悩んでいる経営体にとって、本稿が参考になれば幸いである。

【謝辞】
 本稿の作成に当たり調査にご協力いただきました有限会社旭養鶏舎代表取締役社長竹下靖洋様、島根県農林水産部、島根県養鶏協会に感謝申し上げます。