畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 秋田県における日本短角種の生産と販売

調査・報告(専門調査) 畜産の情報 2019年7月号

秋田県における日本短角種の生産と販売

印刷ページ
宮城大学 食産業学群 教授 川村 保

【要約】

 限られた地域で伝統的な生産方法やその地域の気候・風土を生かして生産されている特産物への関心が高まり、また、消費者の牛肉への嗜好が赤身を好むように変わりつつある中で、夏山冬里方式で生産される日本短角種への関心も再び高まっている。本稿では、秋田県の「かづの牛」を取り上げ、その生産と販売の特徴について検討する。

1 はじめに〜日本短角種の現状〜

 日本短角種は、明治時代に、それまで国内で飼養されていた和牛と外国から輸入されたショートホーン種を交配し改良された牛であり、主に旧南部藩の域内で今日でも飼養されている品種である。旧南部藩は、現在は岩手県の中央部から北部にかけての地域と秋田県と青森県の一部となっており、日本短角種の飼育も主に岩手県内で行われている。本稿で紹介する秋田県鹿角市および秋田県畜産農業協同組合鹿角支所(以下「鹿角支所」という)は、秋田県の東北部、岩手県に隣接する地域であり、ここも旧南部藩となっている。
 日本短角種は体が丈夫であるために、荷物の運搬にも頻繁に使われてきた。沿岸部で生産された塩を内陸の地域まで牛の背に載せて運搬するなどの用途にも使われてきたが、鹿角地域で特に注目されるのは、さりざわ 鉱山などで採掘された鉱石や精錬された金属類を海運の盛んな沿岸部まで運搬するのに使われてきた点である。歴史的な意味合い、あるいはストーリー性を持っている点でも地域と深い関わりを有する家畜である。
 この品種の特徴として、足の強さ、泌乳量の多さなどもしばしば言及されるが、そのことを反映して、夏山冬里方式の放牧が行われ、また「まき牛」と呼ばれる放牧中の自然交配により子牛の生産が行われることも多い。
 

2 秋田県鹿角市における日本短角種の生産の特徴

 鹿角市は秋田県の東北部に位置し、市域の一部は十和田八幡平国立公園に指定されている中山間ないしは山間の地域である(図1)。火山や温泉もあるが、比較的なだらかな山間地も多く、また、冬は積雪量が多く厳しい寒さとなるが、夏は日当たりが良く比較的冷涼な心地よい気候となり、日本短角種の放牧には適した地理的条件を有している。
 

 
 秋田県全体としてみると、やはり黒毛和種の産地であり、日本短角種はマイナーな存在である。また、鹿角市についても肉用牛飼養頭数全体に占める日本短角種の割合は高くはない(注1)。そのような環境の中で、日本短角種はどのように生産されているのかを概観してみる(図2)。
 


 鹿角市での肉用牛の飼養は、日本短角種から始まったが、黒毛和種も次第に増えてきて、現在の状況となっている。
 市内には4カ所の公営牧野(放牧場)があり、そのうち3カ所で日本短角種の放牧が行われている。全体で450ヘクタール程度の牧野があり、飼養可能な頭数にはまだ余裕があることから、増頭は可能な状況にある。
 鹿角市の肉牛生産の振興策では、当初は肥育牛の増頭の計画であったが、子牛価格の上昇に伴い、繁殖牛へと振興策の目標を転換している。現在、繁殖農家は平均して3〜4頭の繁殖牛を飼養し、米や果物との複合経営を営んでいるのが、標準的な姿であるという。しかし、農業者の高齢化などに伴い繁殖農家戸数は市内全体でも10戸程度に減少しており、増頭を可能にしているのは、鹿角支所での取り組みがあることが大きな要因となっているが、これについては後述する。
 鹿角市の日本短角種は、地域の歴史や風土に育まれた畜産物であり、鹿角市や小坂町(以下「鹿角地域」という)の畜産団体や県などの行政機関が設立した「かづの牛振興協議会」では、平成30年(2018年)12月に農林水産省へ地理的表示(GI)保護制度への登録申請を行っている(注2)。以下、本稿では、鹿角地域で生産販売されている日本短角種の牛あるいはその牛肉を「かづの牛」として記述していくこととしたい(注3)

注1:平成30年(2018年)2月現在で、鹿角市の肉用牛飼養頭数は1481頭であり、うち約500頭が日本短角種である。なお、鹿角地域での日本短角種の飼養頭数はピーク時で約3000頭であり、その後減少してきたが、後述のような行政や生産者の努力により、近年、減少傾向に歯止めをかけ、増頭へと転換することに成功している。
 2:秋田魁新報Web版 2018年12月27日(https://www.sakigake.jp/news/article/20181227AK0004/ 2019年4月20日閲覧)
 3:かづの牛の定義は、鹿角地域で生産された日本短角種である。鹿角地域には鹿角市と小坂町があるが、鹿角市は、花輪町、十和田町、尾去沢町、八幡平村が昭和47年(1972年)に広域合併してできた市である。

 

3 鹿角支所の取り組み

 かづの牛の生産の中心となっている鹿角支所は、家畜市場の運営などを行ってきた。同支所は、かつては、鹿角畜産農業協同組合であったが、平成20年(2008年)に秋田県内の畜産農協が合併し、のちに畜産農協の連合会も承継し、現在の秋田県畜産農業協同組合の形が出来上がるとともに、鹿角支所となっている。
 秋田県畜産農業協同組合の営んでいる主な事業は、資材の購買事業、家畜市場の運営、公営牧野の管理受託、指導業務、本所(本店)における精液販売などである。精肉直売店としては、本店は黒毛和種を取り扱い、鹿角支所は日本短角種を取り扱っている。
鹿角支所は、もともと日本短角種を中心に生産と市場運営を行ってきた。前身の鹿角畜産農業協同組合であった平成2年(1990年)に、現在の場所に移転してきた。鹿角支所では、放牧場となる牧野の管理などを行うことによって畜産経営を営む生産者(組合員)の経営を支援するとともに、組合自体が直接的・総合的に畜産経営に携わる形での経営を行っている。鹿角支所が直接的に携わっている畜産経営(肉牛生産)の内容であるが、平成2年(1990年)以前は肥育経営が中心であったが、移転と共に一貫経営へと移行している。それは平成3年(1991年)からの牛肉輸入自由化を見据えて、肥育だけでは外国産の輸入牛との競合による影響が大きいだろうと考えての判断であったとのことである(注4)
 その後、平成4年(1992年)より「かづの牛」ブランドを立ち上げ、牛肉の販売事業を開始し、平成9年(1997年)には直売所「かづの牛工房」を開設し、平成28年(2016年)には県の補助金を利用して増築を行った。

注4:鹿角支所の主な機能の一つに家畜市場の運営がある。子牛の販売は日本短角種の生産に大きく関わるが、本稿ではほとんど触れていない。
 

 日本短角種であるかづの牛の生産は、通常、夏山冬里方式での飼養が行われるために牧野(放牧場)が必要となる。その牧野の管理も鹿角支所が担っている役割である。鹿角支所が管理している牧野は4カ所であるが、うち2牧野は隣接しているので1人で管理ができるため、管理者を3名、5月から10月末まで雇用している。
 鹿角支所が飼養する日本短角種は、調査時点(2018年9月)では332頭、うち繁殖牛が124頭、82頭が子牛、残りの126頭が肥育牛であった。調査時点では、前年に導入した繁殖用の母牛が放牧中であるが、間もなく放牧中に生まれた子牛を連れて牧野から下山してくるので子牛の頭数はさらに増えるとのことであった。その分を加えると、年間で80頭から90頭程度の肉牛の出荷の見通しである。かつては1頭340〜350キログラム(枝肉)程度で出荷していたものが、現在では1頭430キログラム程度で出荷しており、個体を大きくしている分だけ、畜舎などの施設は手狭になることから、設備の効率的な活用のほか、個体の状況を把握した上で適宜出荷をしていくことが重要とのことである。
 畜舎での管理には常時3名を雇用しているが、分娩のある時など、労働力が一時的に必要になる時には臨時雇用を入れているので、平均では約3.5人となる。まき牛で繁殖させていることもあって、分娩時期を計画的に調整することが難しいために、同じ時期に集中して分娩が続くこともあり、センサーを取り入れたりして管理作業の軽減は図っているものの、やはり、労働力という面では難しさもあるようだ。
 

 

 

 

 鹿角支所が現時点で認識している主な課題としては、以下の2点が挙げられる。第一は堆肥の販売先であり、第二は肉牛の出荷時期の調整の難しさである。
 第一の堆肥の販売先については、平成30年度(2018年度)に堆肥高度発酵施設を導入し完熟堆肥の生産を計画している。これまでも、葉たばこ農家などへの販売が行われてきたが、葉たばこ農家側の助成事業に支えられている面もあり、一層の販売先の開拓が必要である。
 第二の肉牛の出荷時期の調整であるが、日本短角種はまき牛と呼ばれる放牧中の自然交配により子牛の生産が行われるために、人工授精による繁殖とは異なり、出荷時期の調整が難しい。
 一部では冬場に舎飼いをしている時に人工授精を行ったり、支所の近くに設けた牧場に牡牛を置いて冬場での放牧と自然交配を行ったりすることによって、放牧・種付け・生産の周年化を図り、秋に子牛が生まれるようにする調整も行われているが、まだ圧倒的多数が夏山冬里方式でまき牛によっているのが現状である。また、出荷時の月齢を短縮化することでも飼育コストの削減と出荷時期の調整を図っている。現在の出荷月齢は、ほとんどが22カ月から30カ月の間であり、平均で28カ月となっているが、30カ月を超える場合もあるとのことであり、30カ月を超える月齢のものを減らすことがコスト削減に有効であると鹿角支所では考えているとのことであった。
 

4 かづの牛の流通の現状

 かづの牛の流通の状況は、どのようになっているのかを検討してみたい。これまでの説明でもたびたび触れてきたように、鹿角市での日本短角種の牛肉の生産量自体が限られている状況にあるが、鹿角支所を中心にかづの牛の生産者は、この状況にどのように対応しようとしているのであろうか。
 まず、かづの牛を含めて日本短角種の牛肉への需要について簡単に触れておくと、消費者が牛肉に求めるものが変わりつつあることに注目しておきたい。牛肉に対しては伝統的に「さし」と呼ばれる脂肪交雑が求められ、「さし」が入った牛肉ほど高級であり高値がつくという状況であった。しかし、健康への関心が強まる中で牛肉への嗜好も変わってきて、脂肪が少ない、いわゆる赤身肉への嗜好が強まっていることは注目される(注5)

注5:消費者の牛肉の嗜好が赤身肉へ変わってきていることについては、例えば、日本政策金融公庫の消費者動向調査などを参照のこと。(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_170926a.pdf 2019年4月20日閲覧)

 聞き取り調査を行う中でも、地元のかづの牛生産の関係者の間では、現在は健康志向の高まりから赤身肉の人気があるため、かづの牛の需要は伸びていて、増頭して生産量を増やせば確実に売れる状況にあると判断している人が多いように感じた。
 かづの牛の出荷については、平成29年度(2017年度)には74頭を出荷、2018年度では約80頭の出荷を予定している。その出荷先は、東京方面、鹿角地域以外の秋田県内、鹿角地域にほぼ3分の1ずつとなっている。東京方面は食品卸売会社、ハム製造会社などが、秋田県内および鹿角地域は、地元スーパーおよび直売所(かづの牛工房)などがあるが、その他に、後述する特徴のあるレストランなどのフードサービス関係の企業も重要な販売先になっている。
 東京方面の出荷先としては、食品卸売会社や会員制食材スーパーなどがある。
 食品卸売会社とは、7年ほど前から取引を開始している。同社の社長が秋田県出身者であり、比内鶏産地の視察にきた際にかづの牛の生産現場を見てもらったのがきっかけであった。徐々に取引が拡大し、今日では主要な取引先の一つとなっている。
 会員制食材スーパーは、主にレストランのシェフを顧客としており、毎月2頭分を出荷し、それを約9店のレストランに分けて納入している。個人経営の食肉店経由での販売では限界があり、成長が見込めない状況になってきているために、流通経路としては会員制食材スーパーを介在させることにより、末端の外食企業へのルートを確保できることとなり、少しずつ取扱量が増えている状況である。
 また、大手ハム製造会社への販売も行っている。この者との取引は、昭和55年に当時の秋田県内の畜産農協の連合会が窓口になって枝肉の流通先を開拓したのが始まりであり、古い取引先である。この取引先を通して、高級品を扱っているデパートなどの小売店での流通ルートも確保し、販売力強化を図っている。
 秋田県内での販売先としては、年間12頭分が秋田市内のレストランなどの実需者への販売、10頭分が地元スーパーの鹿角市や大館市内の店舗での販売となっている。その他に、秋田県内では、肉専門の取扱店Dも特徴のある取引先となっている。Dは、かづの牛の牛肉にドライエイジングを施した肉の販売、肉バル形態のレストランの経営などで注目されている。かづの牛の赤身肉の特性を生かした料理を提供することで、Dでもかづの牛の肉の需要が伸びている。
 また、地元産品販売やフードサービスや企画を手掛ける県内企業と共同で、地元や秋田市での飲食店への売り込みも行っている。この企業は、地元の大湯地区にある道の駅内でカフェを経営しており、そこにかづの牛を納品していることを契機に、共同で事業を行い、まずは県内からスタートして、県外へと展開していく予定である。地元での知名度を上げることが狙いであり、そのためレストランなどのネットワーク作りをしている。今後、肉バルなど特徴のあるレストランにターゲットを絞って展開していく予定である。つまり、一般的なレストランなどの実需者に販売するよりも、最初から日本短角種の牛肉の特徴や価値を知っていて、その肉を使ってみたいという声があるところを中心に販売するという考えである。2年後には枝肉で月に3頭分を売りたいというのが鹿角支所の側の希望であった。
 

5 鹿角市の振興策

 秋田県における日本短角種の生産の中心地となっている鹿角市では、地元の特色ある特産品のかづの牛をどのように振興しようとしているだろうか。生産者の組合である鹿角支所とは異なる行政の立場からの振興策についてまとめてみたい。
 はじめに、肉牛生産の振興策といっても、日本短角種では黒毛和種の場合に加えてさらに多くの対策が必要になる。飼養方式が異なることなどを反映して、牧野の整備や管理などである。鹿角市では、予防接種や精液購入に係る助成など、地域の肉用牛振興における全般的な支援のほかにも、日本短角種に絞って振興策を打ち出しているという点では、他の市町村と比較しても珍しいと思われる。鹿角市の地元の産物への思いが込められているようにも感じられた。
 平成24年度(2012年度)から開始された「かづの牛(日本短角種)増頭対策事業」では、事業開始時以前の日本短角種の生産農家は減少する一方で、食材としてはその需要が高まっている状況を踏まえて、「増頭とブランド化を図るため、畜産農家及び関係団体との協力の下、生産力・販売力を高めるとともに市外における認知度の向上に努め、地域を象徴する産業として再生を図る」ことが目的とされ、各種のハード事業、ソフト事業をその内容としている。ハード事業では「かづの牛生産育成施設整備事業」として、鹿角支所の隣接地に牛舎や堆肥舎などの整備を行うことや、放牧地として活用されている熊取平基幹牧野の草地改良などが行われてきた。ソフト事業としては上記の「かづの牛生産育成施設」を利用してかづの牛を生産する農家に繁殖用雌牛や肥育用もと牛の導入費用の一部を支援する基金造成事業や、繁殖用雌牛の購入や自家保留分の助成(購入には1頭10万円、自家保留には1頭5万円の助成を行う市単独の事業)、かづの牛振興協議会への協力などが行われている。この他にも、公共事業を活用しながら直売所であるかづの牛工房の増築および加工設備の導入への補助、分娩時避難用簡易畜舎の建設なども行われている。
 かづの牛の飼養頭数は、上記の増頭対策事業が始まった当初の平成24年度末(2012年度末)に繁殖用140頭、肥育用115頭、計255頭であったが、調査時点では計約500頭まで増頭しており、大きな事業効果があったことが推察できる。
 鹿角市の取り組みにより繁殖牛生産が活性化し、かづの牛の増頭が実現することは、直接的に子牛販売に影響を与えるのはもちろんであり、家畜市場での取引の強化にもつながる。本稿で紹介している鹿角支所の活動の中では、同支所が運営している家畜市場についてほとんど触れていないが、まずは直接的に家畜市場の取引に好影響を及ぼした。肥育牛生産にとって重要なインプットである短角種の子牛の生産が強化されることは、肥育牛の飼養、そして牛肉の生産の量的な拡大を可能にすることでもある。鹿角市と鹿角支所の取り組みは、「かづの牛」の振興の両輪を担っていると見ることもできよう。


 

6 限定された地域の畜産物の振興のために求められること

 かづの牛は、日本短角種という特徴のある品種であり、しかも生産地が秋田県鹿角地域に限定された形でブランディングが行われている点に特徴がある。現在では、赤身肉の嗜好が高まっている状況にあり、日本短角種に限らず、熊本のあか牛や高知の土佐あかうしなどの褐毛和種の評価も高まっている。また、それらのCMや新聞記事、テレビ報道などの機会が増えたことは、赤身肉の特徴を持つ日本短角種にとっては、ジェネリックな広告の機会が増えたことにもなり、時代の流れに乗っているように見える。
 しかしながら、一般的には、産地とは関係なく日本短角種という品種カテゴリーでの売り方が量販店で行われることはほとんどなく、行われているのは、産地指定プラス日本短角種(あるいは日本短角牛)という品種による売り方である。具体的には、「○○県の日本短角牛」という売り方である。この販売方法は、生産量が多い産地にとっては有利に働きやすく、相対的に生産量が少ない産地にとっては不利な状況となりがちである。
 マーケティング論においては、市場を分割して把握し(セグメンテーション、S)、目標とする市場を絞り込み(ターゲッティング、T)、競争相手との競争上の位置関係を明確にする(ポジショニング、P)というSTP分析が重要であるが、かづの牛の販売においては、このSTPというマーケティングの基本がうまく押さえられている点に注目するべきであろう。かづの牛の販売では、鹿角支所は量販店のチャネルに大きく依存したり、あるいは産直取引などに大きく依存したりするような形の市場の絞り込みは行っていない。取引先の企業には大手ハム製造会社なども含まれるが、個性的な特徴を持った中小規模の企業との取引が主となっており、さらに鹿角支所に隣接する直売所であるかづの牛工房も大きな販売チャネルとなっている。これは、量でメリットを出すのではなく、日本短角種という品種や夏山冬里方式などの特徴ある飼養方法の価値を評価してくれる売り先にターゲットを絞り込んでいると見ることができるし、そのような取引先においては自らの立ち位置は他の産地とは異なったポジショニングとして確立することも可能になる。
 なお、日本短角種の価値が分かるという意味では、量販店や産直による取引もそれに該当するのである。価格の安定性などの面では大きなメリットがあることは確かであるが、一部の取引先に集中する形でチャネルを構築することは、リスクも伴うことに注意する必要があろう。取引相手と緊密な関係を構築し、取引を行っていくためには、条件が厳しく設定されることも多く、産地としては取引相手の要求に対応する形で生産しなければならなくなり、また条件が折り合わなければ取引自体の継続が難しくなることもあり得る。畜産農家が少数になってきているかづの牛の産地の現状では対応は難しかったと考えられる。
 

7 おわりに

 本稿では秋田県鹿角市を中心とする地域で生産されているかづの牛の生産と販売の現状を概観してみた。日本短角種という地域の歴史や風土に根差した特産品という視点で見ると、かづの牛は特徴があるし、消費者の赤身肉志向への変化という後押しもあって、大きな可能性を持っているが、その一方で量的には限られているという課題も明らかになった。
 生産者も行政も、かづの牛の増頭や販売先の開拓・確保に力を入れている(注6)。特に、日本短角種の特徴は、消費者にまだ十分には理解されず、浸透していないのが現状であり、食材としての魅力もまだ十分に理解されていないことからも、需要側である販売先の開拓が重要な課題であろう。

注6:かづの牛振興協議会では、GI(地理的表示)の登録を目指し、平成30年(2018年)に申請を行っている。GIの登録が実現すれば、知名度が高まることが期待される。

【謝辞】
 本稿の執筆に当たり、現地調査の際にお世話になりました秋田県鹿角市産業部農林課、秋田県畜産農業協同組合鹿角支所にこの場をお借りして御礼を申し上げます。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-4398  Fax:03-3584-1246